最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第3章 出会い イナリ編 (60〜97話)

ドラゴンゾンビ

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『ゴアアアアアアァァッ!!』


後ろに控えていたドラゴンゾンビの内、手前に居た一体が翼をはためかせてぶわっ!と風を巻き起こしながら、その巨体を浮かび上がらせた。
俺達の頭上を大きな影を引連れて通り過ぎ、ぐるりとこの空間を一周してから遥か上空に羽ばたく。

もう一度咆哮ほうこうすると、ドラゴンの体がうっすらと紫色のオーラを纏った。
そして同じようにオーラを帯びた岩々がゴト……!と音を立てて次々に浮き、まるで衛星のようにドラゴンの周囲をふわふわ漂う。

サイコキネシスみたいなやつか。
ドラゴンゾンビとは初めて戦うけど、こういう系の技も使うんだな…………。

ドラゴンゾンビの合図で浮かんだ岩が俺達向けて一斉に降り注ぎ、兵士達の先陣を切る。
まるで隕石だ。
大雑把な狙いで見境なく降り注ぐ流星群は非常に厄介で、地面に命中する度に小さなクレーターを作っては粉塵を巻き上げて視界を遮ってくる。
狙いが正確じゃない分、返って先を読みづらい。


「初手からドラゴンらしいド派手な技だな、っと!」


粉塵を黒剣で斬り裂いて、開いた一瞬の視界を頼りに降ってくる隕石に飛び乗った。
また同じように踏み込んで斜め前の隕石に移り、不規則に左右に振って駆けながらどんどんドラゴンゾンビとの距離を詰める。

たんっ!と最後に思いっきりジャンプして、目を怪しく光らせるドラゴンゾンビの上へ。



『ゴアアアアアアァァッ!!!』

「せい………やぁぁぁっ!!」



首を後ろにもたげさせ、大きく開いた口から迸るは黒い地獄の業火。
ゴパッ!と吐き出された炎が大気を焦がして空中の俺に迫る。
あわや炎に呑み込まれるかと思われた寸前、一筋の剣閃が炎を貫き、遅れて内側から純白の光が炎をかき消しながら膨れ上がった。
振り切った黒剣を上段に上げ、俺を睨む巨大な双眼を睨み返して再び力いっぱい振り下ろす。


『ギャオオオオオッ!?』

「くっ、外した……!」


寸分違わず真っ二つにするつもりだったが、直前に俺の方に放たれた岩とドラゴンゾンビが動いたのもあり、狙いがズレて片方の翼を切り落とすだけに留まってしまった。

しかし、それでも充分重傷なためバランスを崩してふらふら落下していく。
ダメ押しに渾身の回し蹴りを頬に喰らわせ、吹っ飛んだドラゴンゾンビが頭からすごい勢いで壁に激突した。
洞窟中を激しい振動が揺らし、あちこちでツララや岩が砕け落ちる音が響き渡る。


「ひょわあっ!?……………も、もうっ、ご主人様!ビックリしちゃうじゃないですか!」
「えぇ………でもこうしなきゃイナリの方に攻撃行ってたと思うけど?」
「前言撤回ですぅ!ありがとうございまずぅぅ~~、ご主人様ぁ!」


俺の背後で衝撃にビビったイナリが鬼人の兵士を相手にしながらそんな悲鳴を上げた。
が、今回し蹴りをしていなければ、もう一度ブレスが放たれて、後ろに居たイナリも巻き添えになっていた可能性が高い。
位置的にそれに気がついたイナリが全力で手のひらをクルックルにひっくり返す。

…………………真剣な戦いになっても、相も変わらずイナリの残念さは健在らしい。


「!」


おっと、ふざけるのも程々にしないとね。
俺はイナリから目を離して黒剣を正面に構え直す。
その向こうで、ガラガラと落ちる瓦礫と粉塵の奥から紫色の光が二つ煌めき、巨大な雄叫びがビリビリと周囲の大気を揺らした。

出てきたドラゴンゾンビはもう完全に翼が再生しきっている。
再生速度が尋常じゃないぞ。
さっき蹴った時にメキッ、ボキィッ!ってしちゃいけないような音もしてたんだけど……………それもすっかり元通りだ。
非常にしぶとい。

怒りに狂った眼光を目の前の俺に向け、鋭い爪の生えた手を思いっきり振り下ろした。
一撃で地面が粉々に粉砕。
飛び散った瓦礫が頬を掠める。

なんつー馬鹿力だよ…………!
喰らったら骨が折れるどころの話じゃ済まなそうだ。
続いて放たれた二撃目をサイドステップで回避しつつ、ついでに光属性の魔力を纏わせた黒剣で腕を断ち斬ってやる。


『──────ッッ!?』


おそらく感じているであろう、ジュッ!と身を焼くような痛みにドラゴンゾンビの表情が歪む。
とっくに痛覚なんて無いはずなのに。
急いで肉がゾワゾワ動いて再生しようとするが、いつものように上手く再生せず戸惑っているのが伺える。
圧倒的に大きな隙だ。


「"閃華せんか"!」


ドラゴンゾンビの目がはっ!と開かれ、純白に輝く黒剣を捉える。

次の瞬間、純白が一閃。

光が収まると、そこには綺麗な断面で縦に真っ二つに斬られたドラゴンゾンビの姿があった。
ゆっくりと左右に傾き、ずずぅん………と重厚な音を立てながら崩れ落ちた。


『………ギャ……オオ…………オ……………』


既に光を失ったはずのドラゴンゾンビの口からか細い声が聞こえる。
驚いた…………この状態でまだ生きてるとは。
とんでもないな。
それだけ生への執着が強いってことか…………。



しかし、やがてその声すら聞こえなくなり、ドラゴンゾンビは静かに動かなくなった。






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