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第3章 出会い イナリ編 (60〜97話)
膝枕
しおりを挟む「そんな真白にはワタシが膝枕をしてあげるのだ」
「え、マジで?」
「あっ!ずるいです!」
「残念だったな、この役目は早い者勝ちなのだ!」
いそいそと上の方に移動してきたノエルが、慣れた手つきで俺の頭部を持ち上げ、その下に自身の太ももを滑り込ませた。
後頭部が剥き出しのノエルの太ももに触れる。
ふにふにした柔らかい感触と、鼻腔をくすぐる女性特有の甘い香り。
自然と頬が緩み、何も考えられないまま身を預けてしまう。
なんだろうこの圧倒的な安心感。
やっぱり膝枕って、どんな最高級枕よりも安眠効果がありそうだ…………。
ノエルが頭を撫でてくれた。
すぐに壊れてしまいそうな大事なものを優しく扱うように、可憐で儚い一輪の花を愛でるように。
その手つきからは愛おしさが滲み出ている。
目を開けると、真上から俺の顔を覗き込んで幸せそうな表情をするノエルと目が合った。
あー……………やばい、本当に眠くなってきた…………。
このままノエルに膝枕されて寝たい。
………………そうだ、寝る前に明日の確認しなきゃ………。
「皆、明日の作戦の確認なんだけどさ………」
「たしか説得要員としてイナリさん。そして、お供としてクロを連れて行くんですよね?」
「うん。クロがこの前覚えた〈潜影〉ってスキルがあれば、安全に酒呑童子のところまでたどり着けるだろうから」
「ん、主の役に立つ」
「その間、ワタシ達はここを守ってれば良いのだな?」
頭上から降ってきたノエルの問いに力なく頷く。
眠気がかなりヤバい。
と言うかもう無理。
………よーし、確認も終わったし、ノエルの太ももを堪能しながら明日に備えて寝よう───────。
「ご主人様、ちょっと待ってください!」
「んぁ………?アイリス、どうしたの………?」
突然、俺の上に馬乗りになるアイリス。
うとうとする目を擦ってなんとか瞼を開け、ぼーっと自分の上のアイリスを見る。
「私、昼間に言いましたよね、"今夜は覚悟してください"って」
「……………あれって幻聴じゃなかったのね」
「当たり前じゃないですか。という訳でご主人様、今からヤりましょう!」
「えっ、今から!?」
もうまさに寝る雰囲気だったのに!?
当然のごとくアイリスは力強く頷いているが、さすがにもう眠気がすごい俺としては今からする気は中々起きない。
たしかに順番的には今日はアイリスの番だし、昼間そんな事言ってたけども。
今日は明日に備えるっていう意味も込めて早めに寝たいんだけど…………。
「えぇ………残念です…………」
お?アイリスにしては早く引いてくれたな………。
実は魔女になってからのアイリスの性欲は凄まじく、一度コトに及ぶと何時間も続けまくって、骨の髄まで搾り尽くされてしまうのだ。
毎回主導権は主にアイリス側にあり、俺はたとえへばっても回復魔法で強制的に元気にされて、アイリスが満足するまで性的に食べられる。
もちろんアイリスとするのが嫌って訳ではないので、むしろバッチコイではあるのだが…………。
とにかく、そんなのを大事な作戦の実行前日にやったら明日どうなるか分かったもんじゃない。
「残念です……………」
「ごめんね。明日帰ってきたらとことん付き合うから───────」
「これを使わないと行けないなんて、残念です………」
「………………それ、何?」
残念と言いながらも割と平然とした顔をしていると思ったら、アイリスが【ストレージ】の中から何やら怪しい液体の入った怪しい瓶を取り出した。
とにかく怪しい。
見た目は前世でのエナジードリンクみたいな感じ。
だが、ラベルの大きなハートマークがものすごく気になる。
「これですか?怪しい飲み物じゃありません、ただの媚薬ですよ~」
「タダノビヤク」
何、ただの媚薬って。
ツッコミ所が多い上に、そんなの普段から持ち歩いてんの…………?
「……………ちなみに、それ飲むとどうなるの………?」
「えっとですね。"飲んだ瞬間に性欲が増幅し、あまりの快楽に我を忘れてしまうこと間違いなしの超強力媚薬!これで貴方とパートナーも大満足!長い夜の頼もしいお供!"だそうです」
「……………………」
「あぁ………ご主人様、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。もちろんご主人様が素直に相手をしてくだされば、こんな物は使いません♡」
にじり寄るアイリスの瞳が完全に劣情に濡れている。
もうこれはスイッチが入っちゃった感じだ。
「なんとか明日までもちませんかね……………」
「ムリです。だって、昼間からムラムラして会議中もあんまり集中できなかったんですよ!?これでさらに一日も焦らされたら、どうなってしまうか分かりません!」
「会議中モジモジしてた原因はそれか……………」
なんか落ち着きなくソワソワしてたからどうしたのかなぁ、って思ってたけど、原因がまさかすぎる。
「さあ、どうしますか?ご主人様。このまま私とするか、これを飲んでから気絶するまでたっぷりするか♡」
「……………こ、このままでお願いします…………」
「はい♡」
む、無念………。
結果的にアイリスの押しに耐えきれず、三時間という時間制限を設けた上で、ノエルが作った異空間ですることになった。
ここならシてからでも外で十分に睡眠を取れるからだ。
しかし、後にこの時間制限が俺に牙を剥く事になる。
たった三時間だけ与えられた性欲モンスターのアイリスが、一体どのような行動に出るのか。
あの時ちゃんと考えていればよかった。
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