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第3章 出会い イナリ編 (60〜97話)
日出ずる国ジパング
しおりを挟む日出ずる国こと、東の島国ジパング。
俺達が住む大陸の東斜め下に位置し、その本島は南北、東西共に約三千kmずつ長いと言われている。
隣国である亜人の国"セルニア"とは友好関係にあり、亜人と人族、さらには魔人族が入り乱れて暮らす世界屈指の共和国。
その国民は総じて温厚で、和を重んずる心を持つ。
ジパング生まれの人に対する世間の認識は、一貫して礼儀正しく誠実な人なのだとか。
また、温泉や和風の料理など大陸とは多少文化が違うため、観光地としても相当有名らしい。
ここまで聞く限りだと、もはや完全に日本と丸被りだな……………。
シルファさんからジパングについての知識を少し教えてもらったが、やはり聞けば聞くほど日本と酷似している点が増えていく。
地図で見ると形もバッチリ一致してるし、なんなら六十八の州に分かれてるってのも旧国名の数と一致してた。
こりゃ最初にジパングって名づけたのが、転生した元日本人だった説を提唱しても良いレベルだぞ。
ここまであからさまに一致してると、何者かの陰謀(?)を感じざるを得ない。
絶対これ名づけた人、"形似てるからこれでいいっしょ"ってノリで付けただろ。
……………これこそ偏見か。
まぁ、それは正直どうでも良い。
仮に日本人だったとして、だから何だって話だしな。
そんな事よりもっと大事なことがある。
ジパングには亜人も魔人族も住んでいるというところだ。
実は、俺は今まで生きてきて魔人族に出会ったことがほとんどない。
冒険者としてクエストを受けていた時にチラ~っと見かけた事はあったけど、直接会って話したりはしなかった。
そもそも魔人族は種族の総数が少なく、そのほとんどが魔人族の国"ルグドラ"かジパングに住んでいるため、会える機会がなかったのだ。
ケモ耳っ娘やエルフ、ドルイド、巨人、ドワーフ、ノームなどの亜人族。
吸血鬼やセイレーン、竜人、サキュバス、鬼人、アルラウネなどの魔人族。
ファンタジーの象徴たる彼ら彼女らが、人族に入り交じって生活している国こそジパング。
あぁ…………黄金の国とは言い得て妙だ。
きっと我々オタクにとっては、まさに光り輝く楽園そのものに違いない。
……………おっと、そしてもう一つ忘れちゃいけないのが温泉だ。
ジパングは世界的に温泉も有名で、あらゆる場所に一箇所は温泉施設があるとも言われるほどの充実っぷり。
何より、その内の三分の一が露天風呂であるらしい。
場所によっては貸切にして混浴もできるのだとか。
ぐふふふふ……………そんなのやるしかないじゃないっすか!混浴!
夜、満点の星空を見上げながら、ノエル達と極上の湯に浸かる。
そんなの最高に決まってるじゃんか……………。
この旅行のうちに一度だけでも良い。
なんとか温泉を貸切にしてみせる!
「ご主人様、どうしてあそこまで盛り上がっているのでしょうか…………」
「まぁ、あの顔は大方温泉の事なのだ。きっと"混浴したいなぁ~"、とでも思っているに違いない」
………………思いっきりバレてるし。
船頭に座りながらニヤニヤしてたのがいけなかったのだろうか。
後ろでヒソヒソとノエルとアイリスが話していたかと思うと、ノエルにさらっと考えている事を当てられた。
大正解、その通り混浴について考えてました。
あれなの?もしかしてノエルって人の心読めたりするの?
まさかの作戦実行前に情報が暴露され、あえなく撃沈する俺。
船頭で地味にダメージを受けてしょんぼりする。
……………いや、諦めるのはまだ早い。
俺はなんとしてでも混浴するんだ!
……………なんかジパングに向かう趣旨が、だんだん曲がってきている気がしたのは俺だけだろうか。
微妙な気持ちで空を見上げる俺の後ろで、頬を赤く染めたアイリスが何かを決意したように船内に戻って行ったが、この時の俺はそれに気が付かなかった。
さて、先程から気になっていたと思う。
なぜ俺達が今、船の上に居るのかと。
シルファさんと話して俺達がジパングについて行くことが決定したあと、俺達は大急ぎで準備して家を出発した。
今回は座標が分からず転移が出来ないので、目的地まで自分の力で行かなくてはならない。
そうすると問題は海だ。
大陸の端っこまでは俺達の走力なら難なく短時間でたどり着けるものの、さすがにこの広い大海原を走ってor飛行して島までは移動できない。
ここも例に漏れず日本とユーラシア大陸(大韓民国)の間と同じ約九百四十km。
そんなの走りきったらそれこそ「お前ら人間じゃねぇ!」、だ。
ちなみに頑張れば泳いで渡ることは出来るかもしれないが、地球と違ってサメとは比べ物にならない怪物の住む海を、たった海パン一丁で泳ぐ勇気は俺になかった。
そこで、大陸の端にある港町で中くらいの船を借り、こうしてジパング向けて航海しているという訳だ。
現在は半分とちょっと進んだら辺。
心配だった航海術はシルファさんが心得ており、操縦は彼女に任せて、俺達は風魔法で帆に風を送る役目を交代しながらやっていた。
おかげで推進力は凄まじく、みるみるうちにジパングとの距離を縮めている。
今は俺の番だ。
船頭にあぐらをかいて座りながら、後ろを振り返って帆の調子を見る。
……………なんかこうしてると、無性に叫びたくなるんだよなぁ。
"海賊王に、俺はなる!"って。
でも元ネタを知らない人からすると、"急に何言ってんだこいつ"みたいな目で見られるから我慢してる。
「ん?」
そんな訳でぼーっと波が穏やかに抜ける水面も眺めていると、不意に大きな魚影が現れて船の下を抜けていった。
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