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閑章 マシロ家の日常 (49話〜59話)
水遊び②
しおりを挟む「はー………疲れた」
『クルァ~………』
盛大に水遊びを楽しんだあと。
もちろんパンツごとびしょ濡れの服は一旦全部脱いで、簡易的に作った物干し竿代わりの紐にかけて自然乾燥させる。
乾かしている間は全裸になってしまう訳だが…………あいにくと【ストレージ】に替えの服が入ってなかった。
そこで、たまたま入っていた紺色の海パンを履いた。
…………海パンあったならこっちに先に着替えとけば良かったなー…………。
この世界の海パンは前世とは違って蚕のような虫の糸でできており、見た目以上に撥水性抜群なのだとか。
たまたま王都に行った時に洋服屋さんで見つけて買っておいたんだよね、皆と海に行きたかったから。
上半身裸な事に変わりないが、全裸よりはマシだろう。
そよそよと温かいそよ風が吊るされた服を揺らす。
まぁ、こんくらい温かかったらすぐ乾くでしょ。
靴も濡れていたので脱いだ俺は、素足でぺたぺたと歩いて先に身を寄せ合って寝っ転がっていたプラトスの背中に乗り、ゴロリと体を預ける。
「あ~、あったか~………」
プラトスの背中が日の光を受けて温もりがすごい。
適度に運動して疲れたのもあり、一気に眠気が襲いかかってくる。
………いつの間にか首の痛みも無くなってたし…………このまま二度寝しちゃおう………。
「ん~………そういや、焔狐にはホムラって名前付けたのに、皆には名前付けてなかったな…………」
『クルァ………』
うとうとと瞼が重くなっていく傍らで、ふとそんな事を思い出した。
やっぱ呼んだりする時に分かりやすいし、何よりいつまでもプラトス呼びは他人行儀すぎるよなぁ…………。
何か良い名前を考えとくか………………。
思考は徐々に睡魔に飲まれて行き、数分後には四つの寝息だけが残された。
「……………じ。…………るじ」
んぁ…………?
どこからか声がした。
すやすやと安らかな三つの吐息が聞こえる。
温かい日の光を感じながらうっすらと目を開けると、至近距離にクロの顔があった。
「…………あるじぃ………」
「あー………クロ、起こしちゃったかぁ………?」
「ん~ん、なんか起きちゃっただけ…………クロも主と二度寝する………」
目を擦って眠そうにしながら、俺のお腹の上によじ登って丸くなり、すぐにすやすやと寝息を立て始める。
時間は…………まだ六時くらいか。
俺ももうちょっと寝よう………。
それからさらに少しして、何やら村の方から気配が近づいてくるのを感じて目が覚めた。
「………んぁ……?誰かな…………」
現在時刻は午前九時頃。
村の人々はとっくに活動を始め、我が家の女性陣もほぼ起きている時間だ。
ちなみに俺とクロはいつも寝てる。
二人して十時過ぎまで爆睡だ。
ノエルは意外と早起きなんだよなぁ…………。
「クロぉ~………ちょっとどいてくれぇ…………」
大きな欠伸をして体を起こすと、寝る前と一切姿勢が変わっていなかったクロがずるりと下腹部の方に落ちて行く。
「んぅ~……………」
体を揺するが、半分寝言みたいは返事をするだけで一向に起きる気配がない。
こりゃダメだな…………。
仕方ないので、諦めて抱っこしてプラトスの背から降りる。
クロは反射的になのかは分からないが、俺の体に手と足を絡めギュッとしがみついて離れようとしない。
あらら、大きい赤ちゃんだこと。
そのままクロを抱っこして家の方へ行こうとすると、その前に丘を登ってきた少女がこちらを見つけてやって来る。
「剣聖様、おはようございます!」
早朝………って言うほど早くはないか。
とりあえず、お客さんはエマちゃんだった。
一体どうしたのだろう。
手にバケットを持っているので、どこかへ行く途中なのかもしれないと思って話を聞こうとしたが、ふと心做しかエマちゃんの顔が赤い気がした。
チラチラと俺の方を見てはあわあわしながら視線を逸らしている。
……………おっと、これは失礼。
そういや今、上半身裸だった。
原因は明確じゃん…………。
「ごめんね、見たくもないもの見せちゃって。水遊びしたあとそのまま二度寝しちゃったから………」
「い、いえ、むしろありがとうございます…………じゃなくて!あの、これ………お母さんが試作品を味見して欲しいって…………!」
「お。やったね、ありがとう!」
渡されたバケットの中には、"主を使った料理"とメモ書きが貼られた包みが何個か入っていた。
やったぁ、メアリーさんの料理だ~!
もちろん俺の一番好きなのはアイリスが作る料理だけど、メアリーさんの料理も大好きだ。
なんて言うか、"お母さんの味"なんだよね。
ほっとするって言うか………。
「あ、あの、水遊びって………クロさんとですか………?」
「?いんや、プラトス達とだよ?」
「そうですか…………よかったぁ………」
なぜかほっとしたような表情で胸を撫で下ろすエマちゃん。
しかし、すぐに俺が見ている事に気がついてあわあわし、逃げるように村の方へ帰って行った。
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