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閑章 マシロ家の日常 (49話〜59話)

焔狐③

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実はこれは、先程内容でもある。
焔狐の額に指を当てたのは、魔力的な繋がりを持って直接会話するためだ。
本当はそこで二度と畑を襲わないように言うつもりだったんだけど、子供の存在を知ってからこの交渉をする事に切り替えた。
さすがに子供含め三体の焔狐を、知ってて見殺しにできるほど俺は薄情じゃない。


「そういう訳なんだけど、どうかな」


まぁ、結局はアレク次第だ。
彼がNoと言えばそれまで。
その場合は俺がお世話するけど…………アレク側も全くメリットが無い訳では無い。
というかむしろメリットだらけ。
たぶんOKしてくれる………はず。


「なんと言うか、剣聖様はお人好しですね……」
「あはは………よく言われる」
「…………分かりました。もし本当に害虫や動物の被害だけでも減れば、焔狐達に野菜や肉を分けても相当な利益が生まれます。それに、食べれる野菜を捨てるのは不本意でしたからね。食べて貰えるなら、農家としては本望ですよ」
「ほほう。君も中々お人好しですな」
「剣聖様には負けます」


よしよし、これで交渉成立だ。
これからは定期的にアレクの畑に焔狐が姿を現し、その幻術であらゆる外敵を追い払ってくれるだろう。
焔狐親子も十分に食料を貰えるだろうし、子狐の栄養失調もじきにに改善されるはず。



これで一件落着か…………いや、まだ一つ問題があった。
よくよく考えたら、他の焔狐が畑に来た場合見分けつかないじゃんか。
何もこの周辺にいる焔狐が彼女達だけとは言いきれない。
もし、他の焔狐が畑の野菜を盗んだ時、それがこの子なのか他の焔狐なのか、素人目では見分けがつかないだろう。
ちなみに俺も分からん。


「ん~、とりあえず分かりやすいように鈴の付いた首輪でも付けとくか」
「おお、これを見ればこの焔狐だって一目で分かりますね!」


試しに【ストレージ】から鈴の付いた首輪(何かの依頼の時に買った)を出して付けてみる。
首元の違和感に焔狐が首を振ると、チリンチリンと透き通った鈴の音が森に響く。
ごめんよ、少ししたら慣れると思うから、ちょっと我慢してな。


「あとは呼び方か。いつまでも"焔狐"ってのは呼びにくいよなー」
「確かにですね。何か名前を付けましょうか………」
「分かりやすいし、そうするか。じゃあ…………よし、決めた。今からお前は"ホムラ"だ」
『コンッ!!』


新しい名を呼びながら焔狐こと"ホムラ"の頭を撫でると、気持ちよさそうにしながら元気よく返事をする。

安直なのは許して欲しい。
こんな短時間で良い名前なんて思いつかんて。
若干申し訳ない思いをしていると、不意に撫でていたホムラがテカーッと輝きだす。
思わず目を瞑ってしまう程強い光だ。

光は一定まで達すると徐々に収まって行き、やがて完全に消滅した。
残されたのは、ポカンとした表情で見つめ合う俺とホムラ。
アレクはもろに光を見てしまったようで、「目が……目がぁぁぁ~……!」と某大佐のような悲鳴を上げながら転がっていた。

誰だ、急にバ〇ス唱えたやつ…………。
いや、冗談言ってる場合じゃないのは分かってるんだけどさ。
本当に今の何?
特にホムラ自体に何かあったわけじゃ無さそうだけど………。
一応〈鑑定〉でホムラのステータスを確認したが、異常は見られない。


「まぁ、何事も無かったんならいいか…………。ほれ、これは今日の分ね。子供達と一緒に食べな」
『コンッ!』


【ストレージ】から主の切り身と野菜を取り出し、巣に持って行ってやる。
最初は俺にビクッとしていた子狐達も、スンスンと鼻を動かして置いた切り身に近づき、やがて美味しそうに食べ始めた。





         ◇◆◇◆◇◆






アレクとは畑で別れ、もう暗くなった道を歩いて村の外れまでやってきた。


「さてと。もうだいぶ暗くなってきたな………君もそろそろ帰りな?」


頭の上でだら~っとしていた子狐を降ろす。


『コン?』
「お家に帰る時間だよ。次は罠に引っかからないようにな~」


腕の中で首を傾げながら数秒俺を見上げた子狐は。


『コンッ!』
「おわっ!?」


突然ぼふっ!と辺りが白い煙に包まれた。
咳き込みながら手でそれを払った時には、もう子狐の姿はそこになかった。



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