上 下
38 / 284
第2章 出会い アイリス、クロ編 (16話〜48話)

ソウマ

しおりを挟む




~?????サイド~






周囲を漆黒が染め、前後左右さえまともに分からない奇妙な空間。
ここは、この世界に存在しない
光さえ拒絶したその空間に、ふとひっそりとした声が響く。



「…………む?我の呪縛が、消えた………?」



透き通るようで、しかしどこか重々しい。
発生源は、まるで水の中にぷかぷか浮かぶように体を丸めて宙に浮いた人物。
衣服の類は身にまとっておらず、シミ一つない純白の肌が惜しげも無く晒されている。


「ちっ、何者かに破壊されたか………?いや、アレは簡単に解呪できるような代物では無い………」


声の主は思案に耽るように、抱えた膝に顔を埋める。

たった今、忌々いまいましいこのを解くエネルギーを得るために魔王どもにかけた呪縛が、何者かによって解除されたのを感じ取ったのだ。
しかし、並の魔王程度に解呪できるほど軟弱な呪いにした覚えはない。

何者かの介入があったと考えるのが妥当だろう。
数少ないエネルギー確保の方法を潰された苛立ちと、その何者かへの好奇心が入り交じる。
本当ならこのままかの場所へ赴き、そのイレギュラーな存在をじっくりと観察したいところだ。

だが、それはこの堅牢な封印が許さない。
「相変わらず忌々しい………」と、おそらく顔を顰めたであろう声が静かに響く。


「お前もそろそろ、抵抗をやめたらどうだ。そうやって意味もない事を始めてもう何千年も過ぎた。だが、一向にを取り戻せていないではないか。何故無意味だと分からない?今回の呪縛が消滅した件も、お前が絡んでいるのだろう?いい加減に諦めたらどうだ、"原初の悪魔"よ」



面倒くさそうな表情で独り言のようにそう呟くと、少しして嫌そうに顔を顰める。



「その言葉は聞き飽きた。現実を見ろ、もうお前のではない」


頭を振ってを払うと、暗闇の中で体を丸めていた人物は抱いていた自分の脚を離してふわりと浮く。
誰も居ないのを良いことに露わにされた双丘や肢体は息を飲むほど美しく、見る者全てを虜にする謎の魅力を携えていた。
細長い指が見えない漆黒の壁に触れる。



「もう少し………もう少しで封印が解ける。幾千年も待ち続けた終焉のときだ」


それに答えるかのごとく。
不意に、ピシリと不吉な音が漆黒に響く。
見上げた先には細かいヒビが入った漆黒の壁。
その人物はニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

この封印も、解けるのは時間の問題であろう。

戦力は揃えてある。
何も黙ってただ封印されていた訳では無いのだ。
戦力を整え、策を弄する時間はいくらでもあった。

幾千年の雪辱を晴らすため────。
かつての戦いが脳裏に蘇る。
幾千年前は"原初"どもに敗北したが、今度はあんなくだらない失敗はしない。
そんな事を考えているうちにも、また一つヒビが増えた。

もう少し呪縛によって魂を集めるつもりだったが…………もう十分のようだ。


「後は奴らに任せるとするか」


残りの贄を"配下"に任せることを決め、は再び目を閉じる。


「ふふふ………あぁ、楽しみだ」


必要なピースはあと少し。
それも確実に手の届く距離に近付きつつある。


「さあ、今度こそ………思う存分、"聖魔戦争"を楽しもうではないか…………!」







          ◇◆◇◆◇◆








「…………主」
「お、クロ!そっちも終わった?」
「ん、楽勝」


謎の幼女がどこかへ消えてから少しして、もうほとんど原型を留めていない古城の方からクロが走ってきた。
思った通りクロはミノタウロスの魔王に苦戦することなく、無傷で完封して勝利を収めたらしい。
さすがクロだ。


「ありがとう、クロ。助かったよ」
「んあ~」


感謝を込めてなでなですると、今日一蕩けた気持ちよさそうな表情で気の抜けた声を漏らすクロ。
もっと撫でたい衝動に駆られるが、今は魔王討伐の報告をする方が優先だ。
早めに報告しておかないと迷惑がかかっちゃうからね。

報・連・相ほうれんそうは大事よ、うん。



「君達、こんな所で何をしているんですか!」



さて、それじゃあ帰ろうかと二人で話していると、突然空からそんな声が降ってきた。
同時に俺達の元に影が差し、バサバサと羽ばたく音が徐々に近づいてくる。
やがてズズゥン………と重い音を立てて地面に着地したのは、背中に馬具のようなものを乗せた四足歩行のドラゴンだった。


「すげぇ、本物のドラゴンだ……!!」


ファンタジーの代表格とも言えるドラゴンの登場に、俺は一人大盛り上がりだ。
背丈は俺の一・五倍くらいだろうか。
小型だろうが、それでもかなりデカい。
赤い鱗は見るからに硬そうで、瞳孔が縦に開いた大きい目も迫力抜群だ。

この世界では、ドラゴンは"天空の王者"と呼ばれている。
飛行能力を持つ魔物は沢山いるが、その中でも群を抜いて秀でているのがドラゴンなのだ。
スピード、持久力、テクニック、さらには戦闘力までもが圧倒的。
空中戦でドラゴンに勝てるものは存在しない、とまで言わしめるほど。
文献では過去に"最強"と謳われた魔王を、かつての竜王………ドラゴン含む竜種の王が破ったとの記録もある。


……………ちなみになぜ俺がここまではしゃいでいるかと言うと、実は俺は今日までドラゴンに会った事がなかったのだ。
数自体が少なく希少な存在で、どこに住んでいるかは不明。
世界各地に何ヶ所か里が存在しているとは言われているものの、なぜかその詳細は明らかになっていない。
どこかのダンジョンの奥地に居るとも、世界の果てで密かに生きているとも………。
俺も一時、ドラゴンの存在を知るために必死で探したが、苦労も虚しく失敗に終わってしまった。

……………だが、そこもまた良い。
言うなればロマンだ。
簡単には見つからない、だからこそのロマンがそこには詰まっているのだ。


そのドラゴンが、今目の前に。
興奮して目を輝かせる俺の前で、ドラゴンは首と羽をもたげてしゃがむ。
すると、ドラゴンの背中から鎧を着た少年が飛び降りてこちらに駆け寄ってくる。

いかにも好青年って感じの爽やかイケメンだ。
………………べ、別に羨ましくなんかないもん!?



「先程の巨大な魔力のぶつかり合いを見たでしょう?ここは危ないですから………って、クロさんじゃないですか」
「……………………あ、"閃輝せんき"」
「お願いですから二つ名で呼ぶのはやめてください!ソウマですよ、ソウマ!そろそろ名前を覚えてくれたっていいじゃないですかぁ…………」


だいぶ間を開けて思い出したらしいクロの発言に、しゅんと項垂れるナチュラルイケメンことソウマ君。
ソウマか…………なんか日本人っぽい名前だなぁ。
よく見たら顔立ちもそれっぽいし、髪色も黒だ。

もしかして俺と同じ転生者だったりするのかな…………。
あ、ちなみにクロも髪色は黒だが顔立ちは完全にファンタジーな西洋風です。


「ここに"紅魔の魔王"が現れたと聞いて来たのですが…………どうやらもう倒されていたみたいですね。さすがクロさんです!」
「?違う、魔王を倒したのは主」
「えっ、そうなんですか!?」


ソウマは驚愕と困惑の入り混じったような表情で俺とクロの間で視線を往復させた。












俺はソウマのドラゴンに乗せてもらって王都に向かいながら、今までの経緯をかくかくしかじか説明した。


「なるほど、紅魔の魔王を単独撃破ですか……………すごいですマシロさん!」
「当然。主はすごい」
「いや、ソウマも相当やばいと思うけどね」


一番前に乗るソウマが振り返りながらキラキラした瞳でそんな風に言うが、聞いた限りではソウマもチートみたいな能力をしていた。
まず、全能力値が馬鹿みたいに高く、破格の性能を誇るユニークスキルを複数所持しているらしい。

ちなみにユニークスキルとは通常のスキルの上位互換的なもので、差はあれど、どれもチートみたいな性能をしているんだとか。
ユニークスキル所有者を引き入れるためだけに一国が動くこともあるそうで………。

そう簡単に発現するものではなく、英雄レベルの人物でも二つ持っているかどうかの貴重なスキルだ。
クロいわく、SSランクでありながら現代最強格の一人で、"閃輝"のソウマとして世界中に名が知れ渡っているそうだ。

ソウマが恥ずかしそうに話していた功績としては、神話級の魔王の撃破や天災級を複数体同時撃破など、君は最強系主人公かと言いたくなるような物ばかりだった。
なんかこれを聞いた後だと、"紅魔の魔王"討伐がそこまですごいことに感じなくなってしまうのは俺だけだろうか。


「いえいえ、そんな事ないですよ!だってマシロさんはあの天災級最強とも呼ばれていた、紅魔の魔王を無傷で倒したんですよ?僕にもそんな事出来ません!」
「そうかなー」


ドラゴンの上でも相変わらず丸くなって俺の膝の上に収まっているクロを撫でながら、俺はそんな気の抜けた返事を返す。
と言うのも、ソウマの故郷について気になることがあったからだ。

結論から言うと、ソウマの故郷は東にあるいわゆる和が重きとされる島国らしい。
ちなみにその島国の名前はジパング、またの名を日出ずる国というそうだ。

俺が「もうそれ日本じゃん………」とツッコんだのは言うまでもない。
ソウマ自身は転生者ではなく、この黒髪は単純に父親からの遺伝らしいのだが…………。
ジパングではやはり黒髪が主流らしい。

こうも日本と被ってるって逆にすごいな。
う~む、お米もそこが発祥なのかなぁ…………あ、温泉なんかもあったりして。


温泉………温泉かぁ…………。

よし決めた、今度なんとしてでもノエルとアイリスを連れて遊びに行こう。
もしかしたら醤油とかソースとか今のところ見たことがない調味料があるかもしれないし、何より、温泉によればきっと"むふふなイベント"が待っているに違いない!


「あ、マシロさん見えてきましたよ!」
「え、もう着いたの?ドラゴンすごいな………」


どうやら俺があれこれ想像している間に王都に着いたらしく、ソウマが指さした先にはもう王都を覆う大きな壁が見えていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界で作ろう!夢の快適空間in亜空間ワールド

風と空
ファンタジー
並行して存在する異世界と地球が衝突した!創造神の計らいで一瞬の揺らぎで収まった筈なのに、運悪く巻き込まれた男が一人存在した。 「俺何でここに……?」「え?身体小さくなってるし、なんだコレ……?[亜空間ワールド]って……?」 身体が若返った男が異世界を冒険しつつ、亜空間ワールドを育てるほのぼのストーリー。時折戦闘描写あり。亜空間ホテルに続き、亜空間シリーズとして書かせて頂いています。採取や冒険、旅行に成長物がお好きな方は是非お寄りになってみてください。 毎日更新(予定)の為、感想欄の返信はかなり遅いか無いかもしれない事をご了承下さい。 また更新時間は不定期です。 カクヨム、小説家になろうにも同時更新中

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...