34 / 290
第2章 出会い アイリス、クロ編 (16話〜48話)
"紅魔の魔王"グレン②
しおりを挟む「…………貴様らも我に挑みに来たのか」
「ああ。本当はコカトリスを討伐に来たんだけど、あんたがここに居るって聞いてね」
「ふむ?コカトリスとは…………このニワトリの事か?」
グレンはそう言うと、おもむろに自身の傍に転がっていた大きな肉の塊を持ち上げた。
すでに原型を留めていないほどぐちゃぐちゃだが、あれは間違いなくコカトリスだったものだ。
なんと俺達の討伐目標であるコカトリスは、すでに魔王グレンの手によって殺されていたのだ。
コカトリスをただのニワトリ呼ばわりか………。
「ん、面倒が減った。感謝」
「はっはっはっ!面白い小童が居るではないか」
こんな威圧感のある魔王を目の前に、微塵も揺らがず平静を保っていられるとは。
さすがクロだ。
グレンは威厳たっぷりな笑みを見せながら、腰につけていた巨大な大剣を抜いて俺の方に向ける。
「…………さて。早速で悪いが、貴様が王に相応しい器か否か。我が直々に試してくれよう」
「王………?」
「待て。主に手出しはさせない。クロが相手」
「貴様に我と戦う権利はない」
今までずっと無表情を貫いていたクロの眉がピクリと動く。
「…………なら、試してみる?」
侮られていると思ったのか、それとも俺を守れないと言われた気がしたのか、急に殺気立ったクロがダガー片手に戦闘態勢に入る。
目がガチのやつだ。
クロは自分の実力を自慢するタイプじゃないから、どちらかと言うと後者なのかもしれない。
さっきまでは静かに少しの殺意すら見せずに相手を倒していたのに、今はその殺意も剥き出し状態。
どうやら今ので相当ぷっつんしてしまったようだ。
守られている側の俺ですら「え、そんなに怒る……?」と思ってしまうほど。
ていうかナチュラルにちみっこに守られてる俺って…………。
「残念だが、貴様の相手はこいつだ」
グレンが宙に手をかざすとそこに大きな魔法陣が展開され、中からグレンと同じ位の体躯はある二足歩行の牛…………ミノタウロスのような怪物が現れた。
手には大きなオノを持っている。
召喚術だろうか。
それを確認した途端、突然ミノタウロスが顔ごとその長く伸びた鼻を振り上げて、城中どころか王都まで轟くような雄叫びを上げた。
松明の炎が激しく揺れ、城の壁をビリビリと揺らす。
ミノタウロスは鼻からフシュー!と白い鼻息を吹き出しながら、手に持っていた斧を自分の肩に担ぐ。
こいつも中々の迫力だ。
「こいつはかつて我に挑み、敗北した魔王の一体だ。死霊術で我が蘇らせた。すでに意思はないが、肉体のリミットが無い分そこらの魔王より数段強いぞ?」
もう一度、轟くような咆哮。
右手に持った巨大な斧を振りかざしたミノタウロスが、地響きを立ててクロに迫りながらそれを思いっきり振り下ろす。
『グオオオオオオオッ!!』
ガギィンッ!と金属同士がぶつかり合う耳障りな音が響き渡り、衝撃に耐えきれなかった床がひび割れて砂煙が巻き上げられる。
あれだけの巨体から放たれた一撃だ。
タンク系の役職だとか防御値が低いとか関係なく、もれなくぶっ飛ばす威力があったはずだ。
まさに一撃必殺。
だが、俺はクロの心配はしていない。
この程度の攻撃では、クロに傷一つ付けられないと知っているからだ。
「…………軽い」
土煙が収まると、そこには振り下ろされた斧を軽々とダガーで受け止めたクロの姿が。
ダガーを持った手は微動だにしていない。
この小柄な体のどこからそんな力が出ているのだろう。
「油断は禁物、貴様の相手は我だ!」
「っ、主!」
「動くな!」
ものすごい勢いで突進してきたグレンの大剣が俺の黒剣と衝突して、激しい火花を散らす。
さらに、どす黒い紅の魔力を纏ったかと思うと、そのまま俺を押し切って壁を突き破り、自分ごと城外に飛び出した。
くそっ、なんつー馬鹿力………!
「クロ!クロはそっちに集中して!頼んだぞ!」
「ん、任された」
「…………ふっ、話は終わったか?」
「おかげさまで、なっ!」
クイッ、と大剣を引いたグレンが大きく横薙ぎし、俺は遥か上空から地面に叩きつけられた。
ガリガリ地面を削ってやっと止まった俺は、服についた土埃を払って立ち上がり、舞い上がる土煙を剣を振るいかき消す。
ちょっと背中が痛い。
ジンジンする。
「…………ふむ、この程度では当然ダメージを受けんか」
「当たり前だ。…………どうやら、わざわざクロと分断してまで俺一人と戦いたいらしいな………」
131
お気に入りに追加
575
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる