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第1章 異世界へ (1話〜15話)
スタンピード
しおりを挟むスタンピードとは、主に下位の魔物達が何らかの原因で興奮や恐怖状態になり、突然同じ方向に走り出す現象のことだ。
暴走した魔物達は疲れ果てるか死ぬまで止まることはない。
故に運悪く道中に街があれば、そこは無残にも蹂躙されてしまうだろう。
魔物が通った場所は全てが更地に戻される。
理不尽なまでのこの現象は、一部では天災の一種として扱われるほどである。
それが今、皆の故郷だけでなく、新しく完成しようとしている村までも飲み込もうとしていた。
しかし、どう考えてもおかしくはないだろうか。
聞いた限りでは、スタンピードの被害件数は数年に一回程度のはず。
そりゃあ自然現象だから多少の誤差や突発的なものもあるのだろうが…………。
スタンピードの起こる原因としてよく挙げられるのは、圧倒的強者の出現や生態系の崩壊。
そんなのが多発してたらやばい所の話じゃないぞ。
なのに、この短期間で二度も発生している。
単なる偶然か?
だとしたら不運としか言いようがない。
が、こうも狙いすましたようにシルバ達の居る所ばかりで起こっていると、どうしても何かあるのではと勘ぐってしまう。
そしてこの数もだ。
数万の魔物によるスタンピード!?聞いた事ないぞそんなの!(シルバ曰く)
そもそも俺は普通の時の魔物の数が分からないので何とも言えないが、あのシルバの驚きようを見るに相当多いらしい。
このスタンピードで暴れてる魔物ってシルバ達の町を襲ったのと同じやつらなのかな………。
一度は落ち着いたスタンピードが再発したのか、別の場所で新しく発生したのかによって見方が変わってくる。
「くそっ、とことんついてないな………!せっかく新しい村も完成してきたってのに、ここでもスタンピードが起こるとか冗談キツイぜ」
「もうほんと、いい加減にして欲しいですね………」
シルバ達も迫る数万規模の魔物の大群に気がついたようで、気配の方向を見つめながら憎々しげにそう呟く。
彼らからすれば、故郷を滅ぼした原因であるスタンピードという現象に対しては当然の反応だろう。
二人とも………いや、移住してきた者、全員が悔しげに拳を握りしめ歯を食いしばった。
……………なんか、イラッときた。
なんで異世界に来て初めて会った皆と頑張って村を作ってたら、いきなり訳の分からんスタンピードなんかでその村が壊されなきゃ行けないの?
理不尽すぎる。
そんなの納得できないし、何よりこれ以上皆に悲しい想いはさせられない。
「………よし。ノエル──────」
「分かったのだ」
「ずいぶん即答っすねノエルさん」
「ふふんっ、真白が何を考えているかなんてワタシにはお見通しなのだ!そんな所も含めて、ワタシは例えどんな事があろうと真白について行くと決めたのだ」
「スローライフとは程遠い生活になるかもしれないよ?」
「そうかもしれないな。だが、真白と居れるならそれで良いのだ!」
「…………あー、ノエルたんの笑顔が眩しすぎて辛い」
俺は幸せ者だな、こんなに一途に愛してくれる嫁が居るなんて。
ぽんぽんっ、と感謝を込めてノエルの頭を撫で、名残惜しそうにしている彼女に苦笑いしながら手を繋いでその場を離れる。
収納魔法【ストレージ】の中から黒剣を取り出して腰につけると、二人揃ってザワつく皆の間をかき分けてシルバの元へ。
見ると、シルバとシゼルさん中心に地図を広げて何やら作戦会議をしていた。
だが、それもちょうど終わったようで。
何か指示を受けた皆は、地図に視線を落とす二人を残してそれぞれの家に散り散りになって行った。
「シルバ、この後どうするの?」
「…………ああ、マシロか。俺達は………最後まで戦おうと思う。もう村が壊されるのは御免だ」
そう言いながら、シルバはやり切れなさを表情に出して苦笑する。
故郷が破壊されて、やっと辿り着いた場所で作り始めた村がまた一瞬で破壊されそうになっている。
そんなのを目の前にして悔しくない訳がない。
普通数万の魔物の大群を前にしたら恐れるのが当たり前だ。
パニックになり、リーダ的な存在のシルバに的外れな罵詈雑言を浴びせたり、悲惨な運命に泣き崩れたり、我先に逃げ出そうとしたり、混乱で喧嘩を始める人だって居るかもしれない。
こんな状況では当然の反応。
数万の魔物の大群が村を襲うと聞いて、冷静でいられる人なんてそうそう居ないだろう。
しかし彼らはそんな行動よりも、悔しいという感情が先に出た。
同じような過去を持ち、スタンピードの恐ろしさを知っているからこそ逃げるという選択肢を取る人が一人居たって誰も責めやしない。
命の重さを知っているから。
それなのに。
自分達の村が目の前で壊されようとしているのに、砂漠に水滴を落とす程度の抵抗しか出来ない自分達の弱さが悔しいのだ。
徐々に、武装した者と大きな荷物を持った住人が集まってきた。
片方はシルバと共に村に残りスタンピードを迎え撃つことを決意した者達、もう片方は万が一に備えて避難する主に妻子が集まった集団だ。
色々な場所で別れに涙する人々が抱きしめ合う姿が見られる。
皆の瞳に諦めの色はない。
だが、悟ってしまったのだ。
いくら策を弄したところで、この圧倒的なまでの物量の差はどう頑張っても埋めることは出来ないのだと。
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