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Ⅰ
わたしの働く場所 3
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「夢でないことに納得して頂けたのなら、さっさと先に進みましょう」
普段と違って、随分とわたしの面倒を積極的に見てくれるソフィアのことが少し不思議でもあった。
「あの、ソフィアさん……、普段はわたしたちのことなんて気にせず屋敷で用事をしているソフィアさんが、今日はどうしてこんなにも丁寧にいろいろと教えてくれるんですか?」
「カロリーナさんの中で、私がとても冷たい人であるというイメージをお持ちになっていることは理解いたしました」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「まあ、良いですよ。実際私は、あなたたちにさほど興味はありませんので、そういう印象を保たれていても仕方ないですし、特にショックも受けないです」
「そういうこと、直球で言われても……」
「あなたへのお嬢様の部屋の案内は私もしなければいけないと思ったから、これがちょうど良い機会だと思っただけですよ。あなたに現実を見せて、屋敷の案内もする。少なくとも、あの腹黒さんだけに屋敷の案内をさせて、あることないこと私の悪口をあなたが聞いてしまったら面倒ですし」
ソフィアがか細い声で毒を吐き続けた。
「ベイリーさんのこと嫌いなんですか?」
「それはお仕事とは関係ないですから、あなたに伝える必要はありませんね」
ソフィアはまた無理やり話を切り上げると、アリシアお嬢様のお部屋案内という名の冒険を続ける。丈の高いカーペットの草原を歩くだけですっかり疲弊してしっていた。
しばらく歩いてようやくたどり着いたのは、アリシアお嬢様の使っている机の下だった。すぐ目の前には大きなお嬢様がいる。先ほど棚の上で目を合わせたアリシアお嬢様もかなり大きく見えたけれど、足元からアリシアお嬢様のことを見上げると、その大きさはより強調されているように思えた。わたしたちの住む屋敷は、きっとアリシアお嬢様からしたら椅子にもできないくらい小さいのだろう。
「気を付けてくださいね。うっかりアリシアお嬢様に踏み潰されでもしたら、アリシアお嬢様が自責の念に駆られてしまいますから」
「わたしの身を案じてくれているわけではないんですね……」
先ほどアリシアお嬢様の靴に踏んでもらって夢か現実かの判断をさせようとしたくせに、と心の中で思ったけれど、それは口には出さなかった。
「あくまでも、ここの屋敷ではお嬢様たちのことが最優先ですから。アリシアお嬢様の感情を傷つけてしまうことは、大問題です」
反論したかったけれど、真面目なメイドであるソフィアがアリシアお嬢様を最優先に考える感情もわかる。優しそうなアリシアお嬢様なら、わたしたちを踏んでしまったら気に病んでしまいそうだし。
チラリと視線を上げるとお嬢様のショートブーツが見えた。可愛らしいデザインのブーツだけど、大きさはやっぱり大きい。わたしが寝ているベッド2つ分くらいのサイズで、確かに誤って踏まれてしまったら、わたしは潰されてしまいそうだ。
「さ、速やかにこちらのハシゴを使いましょう」
お嬢様の机から垂れた白い縄ばしご。頑丈そうだけど、命綱なしで登るのはやっぱり怖そうだ。巨大なお嬢様が使う巨大な机に登るのは労力がいる。
「これ、登るんですか?」
「ええ」
「目的地ってお嬢様の机の上だったんですか?」
「そうですよ」
「だったら、わたしたちこんなたくさん歩き回らなくても、巨大なアリシアお嬢様なら数歩で運べたのに……」
「お嬢様のことを乗り物代わりにするなんて、失礼千万ですよ! 考え方を改めてください!」
「えっと……。ごめんなさい」
わたしがアリシアお嬢様の立場なら、きっと頼ってほしいと思うな、とは思ったけれど、火に油を注ぎそうだから、何も言えなかった。
「これ登るんですか……?」
一体何メートルあるのだろうか。小さくため息をついてから、先に登り始めていたソフィアに続いて登ろうとした。普段はメガネをかけて大人しそうなソフィアの中にこんな無尽蔵な体力が隠されていたことに驚きつつ、ロープに向かおうとした時に、わたしの頭上に影ができていることに気がついた。
「へ?」
慌てて上を見上げた時にあったのは、今までみたことのないメイド。高い場所から、呆れたように冷たい目をして、わたしを見下ろしている。わたしとベイリーと同じ黒髪を、肩に触れる辺りまで伸ばしているメイドの不穏な視線に、わたしは硬直してしまっていた。
普段と違って、随分とわたしの面倒を積極的に見てくれるソフィアのことが少し不思議でもあった。
「あの、ソフィアさん……、普段はわたしたちのことなんて気にせず屋敷で用事をしているソフィアさんが、今日はどうしてこんなにも丁寧にいろいろと教えてくれるんですか?」
「カロリーナさんの中で、私がとても冷たい人であるというイメージをお持ちになっていることは理解いたしました」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「まあ、良いですよ。実際私は、あなたたちにさほど興味はありませんので、そういう印象を保たれていても仕方ないですし、特にショックも受けないです」
「そういうこと、直球で言われても……」
「あなたへのお嬢様の部屋の案内は私もしなければいけないと思ったから、これがちょうど良い機会だと思っただけですよ。あなたに現実を見せて、屋敷の案内もする。少なくとも、あの腹黒さんだけに屋敷の案内をさせて、あることないこと私の悪口をあなたが聞いてしまったら面倒ですし」
ソフィアがか細い声で毒を吐き続けた。
「ベイリーさんのこと嫌いなんですか?」
「それはお仕事とは関係ないですから、あなたに伝える必要はありませんね」
ソフィアはまた無理やり話を切り上げると、アリシアお嬢様のお部屋案内という名の冒険を続ける。丈の高いカーペットの草原を歩くだけですっかり疲弊してしっていた。
しばらく歩いてようやくたどり着いたのは、アリシアお嬢様の使っている机の下だった。すぐ目の前には大きなお嬢様がいる。先ほど棚の上で目を合わせたアリシアお嬢様もかなり大きく見えたけれど、足元からアリシアお嬢様のことを見上げると、その大きさはより強調されているように思えた。わたしたちの住む屋敷は、きっとアリシアお嬢様からしたら椅子にもできないくらい小さいのだろう。
「気を付けてくださいね。うっかりアリシアお嬢様に踏み潰されでもしたら、アリシアお嬢様が自責の念に駆られてしまいますから」
「わたしの身を案じてくれているわけではないんですね……」
先ほどアリシアお嬢様の靴に踏んでもらって夢か現実かの判断をさせようとしたくせに、と心の中で思ったけれど、それは口には出さなかった。
「あくまでも、ここの屋敷ではお嬢様たちのことが最優先ですから。アリシアお嬢様の感情を傷つけてしまうことは、大問題です」
反論したかったけれど、真面目なメイドであるソフィアがアリシアお嬢様を最優先に考える感情もわかる。優しそうなアリシアお嬢様なら、わたしたちを踏んでしまったら気に病んでしまいそうだし。
チラリと視線を上げるとお嬢様のショートブーツが見えた。可愛らしいデザインのブーツだけど、大きさはやっぱり大きい。わたしが寝ているベッド2つ分くらいのサイズで、確かに誤って踏まれてしまったら、わたしは潰されてしまいそうだ。
「さ、速やかにこちらのハシゴを使いましょう」
お嬢様の机から垂れた白い縄ばしご。頑丈そうだけど、命綱なしで登るのはやっぱり怖そうだ。巨大なお嬢様が使う巨大な机に登るのは労力がいる。
「これ、登るんですか?」
「ええ」
「目的地ってお嬢様の机の上だったんですか?」
「そうですよ」
「だったら、わたしたちこんなたくさん歩き回らなくても、巨大なアリシアお嬢様なら数歩で運べたのに……」
「お嬢様のことを乗り物代わりにするなんて、失礼千万ですよ! 考え方を改めてください!」
「えっと……。ごめんなさい」
わたしがアリシアお嬢様の立場なら、きっと頼ってほしいと思うな、とは思ったけれど、火に油を注ぎそうだから、何も言えなかった。
「これ登るんですか……?」
一体何メートルあるのだろうか。小さくため息をついてから、先に登り始めていたソフィアに続いて登ろうとした。普段はメガネをかけて大人しそうなソフィアの中にこんな無尽蔵な体力が隠されていたことに驚きつつ、ロープに向かおうとした時に、わたしの頭上に影ができていることに気がついた。
「へ?」
慌てて上を見上げた時にあったのは、今までみたことのないメイド。高い場所から、呆れたように冷たい目をして、わたしを見下ろしている。わたしとベイリーと同じ黒髪を、肩に触れる辺りまで伸ばしているメイドの不穏な視線に、わたしは硬直してしまっていた。
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