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Ⅰ
わたしの働く場所 1
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「落ち着いて聞いてくださいね」
わたしは大きく頷いた。
「まず、アリシアお嬢様は巨人ではないです。もちろんエミリアさんも」
「それはベイリーさんも言ってましたけど、嘘でしたよ。だって、アリシアお嬢様はとっても大きかったじゃないですか! わたしたち、さっき手の上に乗せられちゃってましたし」
わたしたちの視線の先にはノートにまた文字を書いているアリシアお嬢様の姿があった。突然巨人のお屋敷にやってきてしまったわたしのことを気遣うみたいに、こちらには視線を向けないようにして、背景みたいになってくれている。
視線がこちらに向かなければ、大きすぎて人がいるとは思えない。遠くに見えるアリシアお嬢様のことは自然物みたいに見えている。アリシアお嬢様はきっと、いきなり自分たちよりも遥かに巨大な人たちの姿を見たら驚いてしまうことを理解してくれているのだろう。
姿勢が良く優雅な姿は本当に麗しいけれど、その大きさはわたしたちのことを手のひらに乗せてしまえるほど大きい。あのノートだって、きっとわたしの広い部屋くらいのサイズはあるに違いない。
「信じたくないかもしれないですけど、私たちが小さいのです。この部屋は、普通の人たちの住んでいるお部屋です」
「さすがにそれは信じられないですよ……。だって、わたし小さくされた心当たりとかないですし……」
普通、小さくされたらなんか周囲のものがじわじわと大きくなるような感覚に陥るはず。でも、わたしにはそれはなかった。まあ、小さくなったことなんてないから、実際にどうやって小さくなるかなんて正確なことはわからないのだけど。
「とりあえず、実際に数値で見てもらった方が早いかもしれませんね。少しこちらに来ていただけませんか?」
ソフィアがチラリと部屋に置いてある掛け時計を見つめた。
「エミリアさんが来るまで、短く見積もって15分というところでしょうか……。すみません、そういうことなので……」
ソフィアはメイド服のエプロンのポケット内を見ながら独り言を呟いて、棚の端の方へと移動する。すみません、と謝っていたけれど、わたしの方はまったく見ていなかった。
「ちょっと、ソフィアさん!?」
ソフィアはお屋敷の乗っている崖のような巨人向けのサイズの棚の端まで素早く移動して、落ちたら大怪我をしてしまいそうな高さから垂れている綱に捕まったかと思うと、命綱もなしに降りようとする。見た目はピンク色の髪の毛以外はおとなしそうな文学少女なのに、随分とお転婆な姿に驚いてしまう。
慌てて止めようとしたけれど、止めるどころか、逆にわたしも降りるように促された。
「さあ、早く来てください。絶対に落ちないように気をつけて」
「ちょ、ちょっと。無理ですって!」
「いずれにしても、こういった高所の景色には慣れてもらわないといけませんし、ここはまだ下に肌触りの良いカーペットがありますから大丈夫です」
「だ、大丈夫じゃないですって!」
「落ちたところで、私たちは金貨よりも軽いのですから、問題ないです。怪我はしません」
「だ、だから、わたしたちが小人みたいに言うのやめてくださいって」
「小人なんですけどね。まあ、認めるまではいいです」
真面目なソフィアが嘘を言ったり、揶揄ったりするとも思えなかったけれど、とはいえ、わたしが手のひらの上に乗ってしまうほど小さいなんて信じたくはなかった。アリシアお嬢様が巨人なだけで、この部屋の中を出たら、普通のサイズの世界が広がっていると信じたい。どうにかこの部屋を出たら、また普通の世界が待っているのだと。そんなことを考えている間にも、ソフィアがスルリと降りていく。
「嫌だなぁ……」とため息をつきながら、恐る恐る綱を持って、巨人サイズの棚の上から下を見る。
「こんなところから落ちたら、痛いだけじゃ済まないと思うんだけど……」
恐る恐る、ゆっくり降り始めて、ようやく自分の背丈分くらい綱を降りた時には、すでにソフィアは下にいた。
「早くしてください。エミリアさんが来てしまいますよ!」
「早くしてって言われましても……」
ソフィアのことは大人しいお姉さんだと思っていたから、機敏な動きをしていて驚いた。
わたしは泣きそうになりながら思い切って勢いよく縄を降りる。
「ひゃぁあああああああ」と大きな叫び声を出しながら降りると、一瞬で真っ赤な絨毯の海にたどり着いた。
わたしは大きく頷いた。
「まず、アリシアお嬢様は巨人ではないです。もちろんエミリアさんも」
「それはベイリーさんも言ってましたけど、嘘でしたよ。だって、アリシアお嬢様はとっても大きかったじゃないですか! わたしたち、さっき手の上に乗せられちゃってましたし」
わたしたちの視線の先にはノートにまた文字を書いているアリシアお嬢様の姿があった。突然巨人のお屋敷にやってきてしまったわたしのことを気遣うみたいに、こちらには視線を向けないようにして、背景みたいになってくれている。
視線がこちらに向かなければ、大きすぎて人がいるとは思えない。遠くに見えるアリシアお嬢様のことは自然物みたいに見えている。アリシアお嬢様はきっと、いきなり自分たちよりも遥かに巨大な人たちの姿を見たら驚いてしまうことを理解してくれているのだろう。
姿勢が良く優雅な姿は本当に麗しいけれど、その大きさはわたしたちのことを手のひらに乗せてしまえるほど大きい。あのノートだって、きっとわたしの広い部屋くらいのサイズはあるに違いない。
「信じたくないかもしれないですけど、私たちが小さいのです。この部屋は、普通の人たちの住んでいるお部屋です」
「さすがにそれは信じられないですよ……。だって、わたし小さくされた心当たりとかないですし……」
普通、小さくされたらなんか周囲のものがじわじわと大きくなるような感覚に陥るはず。でも、わたしにはそれはなかった。まあ、小さくなったことなんてないから、実際にどうやって小さくなるかなんて正確なことはわからないのだけど。
「とりあえず、実際に数値で見てもらった方が早いかもしれませんね。少しこちらに来ていただけませんか?」
ソフィアがチラリと部屋に置いてある掛け時計を見つめた。
「エミリアさんが来るまで、短く見積もって15分というところでしょうか……。すみません、そういうことなので……」
ソフィアはメイド服のエプロンのポケット内を見ながら独り言を呟いて、棚の端の方へと移動する。すみません、と謝っていたけれど、わたしの方はまったく見ていなかった。
「ちょっと、ソフィアさん!?」
ソフィアはお屋敷の乗っている崖のような巨人向けのサイズの棚の端まで素早く移動して、落ちたら大怪我をしてしまいそうな高さから垂れている綱に捕まったかと思うと、命綱もなしに降りようとする。見た目はピンク色の髪の毛以外はおとなしそうな文学少女なのに、随分とお転婆な姿に驚いてしまう。
慌てて止めようとしたけれど、止めるどころか、逆にわたしも降りるように促された。
「さあ、早く来てください。絶対に落ちないように気をつけて」
「ちょ、ちょっと。無理ですって!」
「いずれにしても、こういった高所の景色には慣れてもらわないといけませんし、ここはまだ下に肌触りの良いカーペットがありますから大丈夫です」
「だ、大丈夫じゃないですって!」
「落ちたところで、私たちは金貨よりも軽いのですから、問題ないです。怪我はしません」
「だ、だから、わたしたちが小人みたいに言うのやめてくださいって」
「小人なんですけどね。まあ、認めるまではいいです」
真面目なソフィアが嘘を言ったり、揶揄ったりするとも思えなかったけれど、とはいえ、わたしが手のひらの上に乗ってしまうほど小さいなんて信じたくはなかった。アリシアお嬢様が巨人なだけで、この部屋の中を出たら、普通のサイズの世界が広がっていると信じたい。どうにかこの部屋を出たら、また普通の世界が待っているのだと。そんなことを考えている間にも、ソフィアがスルリと降りていく。
「嫌だなぁ……」とため息をつきながら、恐る恐る綱を持って、巨人サイズの棚の上から下を見る。
「こんなところから落ちたら、痛いだけじゃ済まないと思うんだけど……」
恐る恐る、ゆっくり降り始めて、ようやく自分の背丈分くらい綱を降りた時には、すでにソフィアは下にいた。
「早くしてください。エミリアさんが来てしまいますよ!」
「早くしてって言われましても……」
ソフィアのことは大人しいお姉さんだと思っていたから、機敏な動きをしていて驚いた。
わたしは泣きそうになりながら思い切って勢いよく縄を降りる。
「ひゃぁあああああああ」と大きな叫び声を出しながら降りると、一瞬で真っ赤な絨毯の海にたどり着いた。
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