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初仕事 2

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朝ご飯はパンとスクランブルエッグという無難なものだった。だけど、また豪快な量がテーブルの上に置いてある。

パンは昨日のように、食べやすく切ってくれているバゲットの内側の白い部分が山盛りになっている。スクランブルエッグは炒った卵の一欠片がボールみたいに大きい。こんな大きな卵の塊を見たことがなかったから、変わった種類の卵を使って作ったのだろうかと不思議に思って口に含むと、ほんのり甘みを含んだ上品な味がした。

これだけ大きな食材を使っているのに、大味にならないのが不思議だった。まるで、味はそのままで食事だけ大きくしたような、そんな印象を受けた。料理がとてもうまい人が作っているのは簡単に予想できる。

「これって、誰が作ったんですか?」
斜め前に座っているベイリーに尋ねる。
「エミリアちゃんよ。わたしたちができないことは基本的には彼女がやってくれるの」
度々名前が出てくる、この屋敷にはいないメイドのエミリアが作ってくれているらしい。料理も上手なのかと感心してしまう。

「わざわざわたしたちメイドのためにご飯作ってくれてるんですか?」
「まさか。余りよ。家の人たちに作った後に、余ったものをわたしたちの食事にしているの」
そう言われて机の上にズラリと並べられた食事を見たけれど、とても余っているとされるよな分量には見えなかった。

もしかすると、お屋敷はわたしが思っているよりもずっと大きいのだろうか。よく考えたら、メイドのためだけにこんなちゃんとしたお屋敷を建てられるようなお金持ちの家なのだから、働いているメイドやご主人様たちの数はかなり多いのかもしれない。それとも、ただ単に一人分の分量がどれくらいかということを考えずに作った結果、大量に食材を余らせてしまっているということだろうか。

真相はわからないけれど、美味しいご飯をお腹いっぱい食べられるし、まあいっかと思って深く考えるのはやめた。顔いっぱいに特盛のケチャップをつけているキャンディとメロディのことを正面に見ながら、わたしも食事を進めていく。

「今日からカロリーナちゃんもお仕事に合流してもらっても良いかしら?」
ベイリーが、キャンディとメロディの顔についたケチャップを拭き取りながら尋ねてくる。

「わたしもお嬢様のお世話するんですね」
「いいえ、まだよ。あなたはまだこのお屋敷に慣れるところからしてもらいたいから、まずは屋敷内の掃除からよ」
「そうなんですね……」
と一応がっかりするポーズを取ってみたものの、内心は少しホッとしていた。

話に聞いてる感じお嬢様の面倒を見る仕事は少し怖そうだったし。家から飛び出した結果、危うく道で倒れるところだったから、もう恐ろしい環境に身を投じるのは懲り懲りだった。それに、みんな肝心なところを濁しながら話すから、わたしの中でどんどんアリシアお嬢様やエミリアに対する怖いイメージが膨らんでいくし。

そして、わたしの中で一つ嫌な仮説が脳裏に浮かんでしまっていたということもある。これまで出てきているアリシアお嬢様とエミリアに関する話題には、とても大きな違和感があった。文字通り、。頭に浮かぶ不穏な可能性のことは、できるだけ考えないようにはしている。

「がっかりしなくても、外なんか出なくて良いならそれに越したことねえだろ。あたしはエミリアの顔見るのも嫌だから外出たくねえよ」
「エミリアさんって人はそんなに嫌な人なんですか?」
「エミリアちゃんは真面目だから、リオナちゃんとエミリアちゃんは水と油みたいに合わないみたいなのよね」
ベイリーが頬に手を当てながら困ったように微笑んた。

「それじゃああたしが真面目じゃないみたいじゃねえか!」
「あら、真面目だったの? だったら悪いこと言っちゃったわね」
またベイリーがクスクスと笑っていた。

そんな風にわちゃわちゃしながら朝食を取っているわたしたちの横で、相変わらずソフィアは一言も言葉を発さずに、俯きながら静かに食事を続けていたのだった。
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