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新しい生活 4

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「カロリーナ起きた!」
「おはよう、カロリーナ!」
メロディとキャンディがお尻まで伸びた青い髪を大きく揺らしながらわたしの元へと駆け寄ってくる。元気が有り余っているみたいで、走っているだけで、とても楽しそうだった。

「カロリーナ、メロディが食べさせてあげる!」
「カロリーナ、キャンディにスプーン貸して!」
キャンディとメロディがそれぞれわたしに食べさせてくれようとしていた。

「メロ、ダメ。ここはお姉ちゃんのキャンディがカロリーナに食べさせてあげるんだから!」
「キャン、ダメ。カロリーナの面倒はメロディが見てあげるんだから!」
2人で顔を見合わせて、頬を膨れ合わせていた。

このままどちらに食べさせてもらっても喧嘩になりそうだし、そもそも自分よりも幼い子たちに食事を食べさせてもらう必要もない。というか、それ以前に今日会ったばかりの人たちにそこまで世話を焼いてもらうのも嫌だし。
「良いよ。自分で食べるから」

よくわからない白玉米を食べながら、リオナに尋ねた。
「ねえ、ちなみにこれって毒とか入れてないですよね?」
「入れてるわけねえだろ。忙しい中わざわざお前のためにベイリーが作ってくれたんだから、変なこと聞いてると取り上げるぞ」
「なら良かったです」と言いながら、腹ぺこのわたしは食事を進めていた。

「そもそも、もし毒入りだったとしたら、それだけ食べてたら手遅れだろ……」
呆れるリオナのことを気にせず、すでに半分以上食べていたお粥を食べ続けたのだった。

「ところで、今何時なんですか? この部屋、まったく窓がないから時間の感覚が全然ないんですけど」
「さあ、何時だろうな」
「何時だろう?」
「何時何分?」
キャンディとメロディはともかく、リオナまでまったく時間の把握をしていなかったことを意外に思った。

「えっと……、みなさん不便じゃないんですか? 今何時かわからないなんて」
「まあ、不便だけどわからねえものは仕方ねえよ。あたしらの部屋には窓も時計もねえからな。どうしても必要になったらベイリーかソフィアに頼んで時間を確認してもらうしかねえな」

「ベイリーとソフィアっていう人は時間がわかるんですか?」
「1階の出入り口側の部屋だけは窓があるから、そこから覗くんだろうな。まあ、四六時中カーテンをしてるみたいだから、外にでても、外から2人の部屋の中は見られねえけどな」

1階にしか窓がない家なんて、なんだか変わった構造だな、と思った。
「窓が全部の部屋にあったら便利そうなのに」
「あたしは絶対嫌。そんなの監視され放題じゃねえか。アリシアはともかく、エミリアに四六時中覗かれるリスクがあるなんてゾッとしちまうよ。仕事じゃない時間くらいは普通の感覚で生活してえもん」

「窓がないってことは、つまりここは2階なんですよね……?」
「2階だけど、それがどうしたんだよ?」
「2階なのに、窓から覗かれるリスクがあるんですか?」
地上から2階を見るという行為は死角が多くて監視されているというイメージが湧かなかった。

「ああ、そりゃそうだが……」と言って、リオナがハッと口をつぐんだ。そんなリオナにわたしは質問を続けた。
「同じくらいの建物がすぐ目の前にあって、そこから見られる可能性があるってことですか?」
「ちげーよ。その……、いろいろと事情があんだよ

「はぁ」と生返事で返した。正直よくわからない。聞けば聞くだけ今置かれている状況がわからなくなっていく気がした。それでも、とりあえず聞かなければもっと訳がわからなくなってしまう。わからないことは根掘り葉掘り聞くしかないと思い、再びリオナを質問攻めにしようと思ったけれど、その前にドアをノックする音が聞こえた。

「入ってもいいかしら?」
「えっ、はい」と中途半端な返事をしていると、中にスラリとした、スタイルが良い女性が入ってきた。

メイド服を着ているから、多分メイド仲間なのだとは思うけれど、明らかに、リオナ、キャンディ、メロディとは雰囲気が違った。彼女たちは、わたしみたいに普通の子がメイド服を着ている感じだったけれど、今入ってきた女性は、根っからのメイドさんという上品な雰囲気を漂わせていた。
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