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互いの気持ち

愛しさとサツマイモ1

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 父上から俺を庇おうとするマリが可愛らしく、しまいには俺の元へ来れて良かったと言われたら愛せずにはいられないじゃないか。



マリと別れた後すぐに自室へ戻ると、椅子に座り先程のことを思い返し嬉しさやら後悔やらで胸がいっぱいになる。

「……やってしまった」

“やっちゃったね、うん。 でも男気があって良かったよ!”

 独り言のつもりが予想外に返事があり、思わず反応した体は椅子から音を立てながら豪快に滑り落ちた。

「フォンテ、見ていたのか?」

“見たくて見たんじゃないよ、話に加わってマリを励まそうとしたら、ね~?”

「嬉しそうだな?」

“どうでしょう?”

 面白そうにクスクス笑いながら、フォンテは以前よりも大振りになった羽を広げて俺の周囲を飛び回る。

「俺の所に来るのは良いが、マリを放っておいて良いのか?」

“マリはコルテの所に行ったからね、私はこっち”

「……そうか」

“ねぇ、1つずれてるよ?”  

 この部屋に来てから羽織った上着をフォンテが指差す。
 言われた通り、1つボタンを掛け違えていた。

“アル様、かわいい” 

「やめてくれ」

 フォンテは私の肩に座ると、足をブラブラと遊びながらもう別のことを考えているようだ。

“ちょっと気になることがあってね、調べて欲しいことがあるの”

「気になること?」

 気を取り直してデスクで溜まった資料に目を通しながら、フォンテに返事をする。
 以前から気になっている人物がいるようで、それを俺に調べた欲しいとのことだった。

“お願いしてもいい?”

「あぁ、調べてみよう」

“嬉しい! ところで、そこに入っているものは何?”

「引き出しの中か?」

 フォンテが1番上の引き出しを指差し、難しい顔をしている。

「もしかして、これか? 記憶がなくなる前からある物だ」

 引き出しから取り出したのはパールのネックレス。
 何故だが手放せず、幼い頃からずっと同じ場所にしまってある。

“へぇ~”

「これを知っているのか? 魔法はかかっているが、危険な物ではないと思うが……」

“それにはアル様を守る人魚の魔法がかかってる、持ってると良いことあるよ!”

「人魚とは不思議な縁だな……。 分かった、持ち歩くとしよう」

 要件は済んだらしく気付くとフォンテは部屋からいなくなり、俺も早々に切り上げて今日は眠ることにした。




―――――



 
 城を離れている間に溜まった膨大な資料を整理するのに丸3日かかった。
 あれからマリに会えていない。
 彼女は俺をどう思っているのだろうか。
 今回のキスは前回したものとはまるで意味が違うことに彼女は気付いただろうか。

「マリに会いたい……」

 考えていたことが口に出ていたようで、急に会議室が静まり返り皆の視線が自分に集中している。

「ははは! アルベルトよ、これが終わればお前が抜けていた分の仕事は落ち着く。 しばらく休みをやるからマリと出掛けてくると良い」

 皆が信じられない顔をしながら俺を見る中、隣に座る父上は高らかに笑ってくれたので少し救われる。
 誤魔化すように咳払いをしながら、何事もなかったのように振る舞ったがチラチラと視線を感じ居心地の悪い話し合いとなった。



「マリの元へ行くのか?」

 会議が終わり席を立とうとすると、珍しく兄さんが話しかけてきた。
 何をしているか詳しいことまでは知らないが、水魔法の使い手の兄さんは水の魔石を使いながら各地を回って人々を助けているらしい。
 魔石と相性が良いと、少量の力で強力な魔法を使うことができる。
 そのため兄さんの魔石が壊れることは滅多にない。
 そんな兄さんは地方の、父上は王都の水不足を何とかギリギリの所で支えてくれている。

 父上と同じ輝く金の髪に、鋭い蒼い瞳。
 兄さんを見るたびに俺は劣等感を感じてしまう。

「そうです。 昨日はゆっくり話せなかったので」

「あの娘、ついに雨を降らせるようになったようだな。 おかげで最近ではお前を支持する貴族も増えてきた」

 兄さんは表情を崩さず淡々と話を進めているが、冷たい視線で俺を捕らえる。

「俺は別に兄さんと継承争いをするつもりはありません!」

「お前も知っているだろう? それを決めるのは私ではない。 まさかここに来て競うことになるとはな、せいぜい頑張ると良い」

 兄さんはマントを翻すと、俺の返事を待たずに背を向けてしまう。
 わざわざ呼び止めて弁明しても何もならないと思い、マリの部屋へ向かうことにした。

「それにしても継承者争いか、もう既に決まっているものだと思っていたな」

 俺に魔法が使えない時点で、兄さんが時期の王だと誰も疑わなかった。
 だがマリがこの世界に来て俺の婚約者にしてしまったことから、兄さんの言う通り彼女の功績は俺の功績になってしまう。

 ピピアーノ、フォルトナの泉、どちらの案件も貴族の関心を惹いてしまった。
 魔力なしが王になってはいけない、そう思うがどこかで高みを見つめる自分がいることに俺は気付かないふりをするのだった。



 マリは部屋にはおらず、メイドの話によると市街へ出ているとのことだった。
 その日は結局会えずに終わり、翌日も、その翌々日もマリに会えない日が続いた。
 ここまでくると流石に避けられていることに気付く。

 折角与えられた休みをこれ以上無駄にするわけにはいかない。
 


「マリ!」

 俺が名前を呼べば、彼女の肩が小さく跳ねる。
 ここは南の庭園の入口、フォンテにマリの居場所を教えてもらい待ち伏せすることにした。
 どうやら誰かと話していたようで、相手が丁度柱の影になっている。

「アルベルト様……?」

 彼女が振り替えると同時に相手の姿が見え、城の研究者だろう男がマリの手を握り俺に気付かないほど興奮して話していた。

 太陽の光をたっぷり含んだ彼女の金の瞳は不安げに揺れている。
 その姿が目に入ると頭にカッと血が上り、マリと男の間に無理に割り込んだ。

「彼女に何か?」

 凄みを利かせれば男は顔が真っ青になり、その場にひれ伏す。

「アルベルト様、この方は私に少し尋ねてただけです。 なので……」

 何故、マリが庇うのか。
 無性に腹が立ち俺は彼女の手を掴み、庭園に向かった。


 もうすっかり秋の仕様になった庭園は全体の色が落ち着いたが、所々に咲く赤や黄色の花が引き立てられている。
 いつものベンチを見つけ、2人で深く座った。
 おずおずとマリが俺を見上げてくる。

「あの、さっきの人は私が持ってきた苗が食料難の助けになるって喜んでいて、話を聞きたがっていたんです」

「手を握る必要はあったか?」

「え? 手を……?」

「君の手を握っていたじゃないか」

 話をしながらマリの手に自分の指を絡めると、反応はあったが抵抗する気はないらしい。

「そんな風には握っていません」

「知っている」

「ア、アルベルト様変です。 私どうしたら良いか分からない……」

 耳まで真っ赤にしながら、マリは視線を逸らす。
 その姿が可愛らしくまた変な気を起こしそうになるが、中途半端な関係でこれ以上手を出す訳にはいかない。

「明日、出掛けないか? ゆっくり話がしたい」

「恥ずかしいことしなければ……」

「それはマリによる」

「そんな!」

 慌てる彼女が可愛らしく苛めたくなる衝動を押さえつつ、明日会う約束を取り付けてすぐに彼女とは別れた。

 マリに話そう、今の自分の気持ちを。
 彼女はどんな顔をするだろうか。
 
 明日のプランを考えつつ、その日はいつもより早く眠ることにした。
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