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フォルトナの泉

目覚めた力3

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 エアリーナさんは私の生み出した魔力によって、また姿を現せるようになったという。
 彼女は自分の体を一通り確認すると、満足そうに私に笑顔を向けながら空に手をかざした。
 すると、私たちを包むように優しく風が吹き初める。
 エアリーナさんが使う風魔法のおかげで、この中だけは雨風が入らず濡れていた服も風が一瞬で乾いてしまった。

「凄い! 地面も乾いてる」

“ふふ。これでマリちゃんとゆっくり話せるわ”

「体は、大丈夫なんですか? 魔力を使いすぎたとトルビネ様から聞いて心配していました」

“徐々に回復はしていたの。 最後にマリちゃんの魔力が一押しになって力を取り戻せたわ、本当にありがとう”

「良かったです……。 本当に」

“精霊達が弱っているとついつい力を使い過ぎちゃうわ。 ほんと、水の精霊王がいないおかげで大変”

 ふぅっと深いため息をつくエアリーナさんの顔はまだ疲れが見え、完全に力が戻っているわけではなさそうだ。

「水の精霊王が不在なんですか?」

 精霊にはそれぞれ種別ごとに王がいる。
 本来ならば火、水、風、土の4人の王がいるはずだ。

“いなくなって7年になるわ。 それからね、ゆっくりとヴェルナード王国に雨が降らなくなったのは。 ……全く、どこ行っちゃったのかしらね”

 水の精霊王のことを知る口振りに、相手との親しげな関係を感じる。
 彼女は雨が降りしきる空を見上げているが、その目は何か別の物を映しているように見えた。
 
 水の精霊王がいなくなった話は初耳だった。
 確か前に、精霊王の代わりに私が呼び出されてしまった召喚術は何度も失敗していたと言っていた。
 エアリーナさんの話が本当なら、いない者を呼び出していたのだから何度やっても術が成功するはずないのだ。
 
“気配は少しだけあるのよね”

「水の精霊王の気配? じゃあ、どこかに……」

“でもほんの少しよ? 見間違いそうなくらい微かな気配、でもあれは絶対そう……”

「何かあったのでしょうか。 エアリーナさんみたいに力を使いすぎたとか」

“あいつが誰かのために力を使いすぎるとか、それはないわね”

 水の精霊王をあいつ呼ばわりできるのは、きっと同じ精霊王のエアリーナさんや他の精霊王だけだろう。
 話を聞いていてドキドキしてしまう。

“はぁ、あいつのせいでこっちは大変よ、ここ最近は至る所に変な結界が張られて自由に往き来ができなくなっちゃうし。 まったく、ヴェルナード王国はどうなっちゃうのかしら”
 
 エアリーナ様は深いため息をつく。
 ピピアーノの時に結界のせいで来るのに苦労したと話していたが、通るにはだいぶ力を使うらしい。
 私やアルベルト様は特に感じなかったということは、精霊に効果のある結界なのだろうか。

 2人で難しい顔をしていると、空から白い羽がハラリと1枚落ちてくる。
 確認しようと、上を見上げる前と……。


“エアリーナさまぁぁああ!”

 急に私とエアリーナさん間を割って入るように、雄叫びを上げる白いものが降ってきた。

“あらあら~”

 エアリーナさんは軽く人差し指で円をクルッと空に書くと、その白いものが地面に付くスレスレに止まる。
 そして、フワッと目線まで浮かんでくるとそれがフクロウだということに気付く。


「トルビネさま……?」

“おぉ、マリか! お主、本当によくやった!”

 トルビネ様は私の言葉にハッと顔を上げると、瞬時に白髪の少年の姿になり涙を浮かべて私に抱き着いてきた。

“あら、トルビネのその姿は久しぶりね。 マリ、この子ね。 興奮すると姿が変わっちゃうのよ、ふふふ”

 ふふふじゃないです。
 見た目は可憐な少年だが、中身は何百年も生きていると思うと反応に困ってしまう。
 1度キスされたこともあるので、出来れば今すぐにでも距離を取りたい。

“こらこらトルビネ、マリが困っているわよ”

 エアリーナさんがまた空に手首を回して円を書くと、簡単にトルビネ様がスッと離れて行く。
 そしてトルビネ様は改まった様子で片膝を折り、エアリーナさんに深く頭を下げた。

“主よ、復活を心よりお待ち申し上げておりました”

“心配させてごめんなさい、貴方には苦労をかけたわ。 マリを呼んでくれたのね”

白鱗びゃくりんの子ですから、すぐに分かりました。 魔力の他に何か別の物も感じます、とてつもない力です……”

“そうね、私の与えた力もここまで使えると思わなかったわ。 貴方もその姿になれるということは、力が戻ってきているのね”

“全てはマリのおかげです”

 トルビネ様はそう言うと、琥珀色の瞳で私を優しく見つめてきた。
 そんな顔を美少年にされると、中身は分かっているが心臓に悪い。

「そんな、私はただ皆を助けたかっただけです。 無我夢中だったので説明できませんが、エアリーナ様も泉も元通りで良かったです!」

“うふふ、マリは本当に良い子ね~”

“えぇ”

“あれれ? トルビネ惚れちゃった?”

“な、何をっ! 高位精霊が人間に惚れ込むなどありえませぬ”

 トルビネ様は顔を真っ赤にしながら両手で顔を隠すが、その仕草がついつい可愛らしく私は思わずクスッと笑ってしまった。

「トルビネ様、本当に人間の男の子の様ですね」

“あら、そうよ? トルビネはまだ100年ちょっとしか生きていないから、人間で言うと15歳くらいかしらね。 だからマリちゃん気を付けて~”

 ニヤニヤしながら私を見るエアリーナさんを、トルビネ様が慌てて制している。
 リッカルド王と気兼ねなく話していたり、口調からとっくにおじいちゃんかと思っていたけれど、どうやらその口調はエアリーナさんの先代従者の口癖だったようでトルビネ様はわざと真似ているのだそうだ。

 
 フクロウに啄まれたくらいに思っていたキスも、私の中で色々意味が変わってきてしまう。

“マリよ、エアリーナ様の言葉を本気にするのでないぞ!”

「わ、分かってますよ!」

“はーい、とまぁ。 雑談はここまでにしましょ”

 私とトルビネ様の口論が始まりそうな所で、エアリーナさんがスパッと話を切った。
 そもそも誰のせいだと言いたかったが、エアリーナさんの表情が急に変わったので静かに次の言葉を待った。

“良い子ね。 それじゃあ、行きましょうか”

「行くって……、どこにですか?」

“もちろん、オストロ坊やの所よ”


 エアリーナさんはまた片手を上げ、人差し指で円を書くと3人の身体が浮き上がり目の前が真っ白になった。
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