27 / 54
フォルトナの泉
水呼びの乙女3
しおりを挟む
出発時は薄暗かったツリーハウスの一帯には、光が行き届き朝を告げるように色鮮やかな小鳥たちが軽やかに歌う。
まるで絵本の1ページにあるような光景のはずなのに、何も心に響かない。
私たちは今、特別大きいツリーハウスにいる。
大部屋になっており、ただベットが並んでいるだけの無機質な部屋だ。
ヒューヒューと空気を求める乾いた音がいくつも聞こえる。
そこには私と一緒に旅をしていた騎士さんやメイドさん、コルテにラルフも皆、青白い顔をして息苦しそうにベットで眠っていた。
私たちが到着した時には既に、この部屋に全員が集められていた。
何て準備が良いのだろう。
狙いが私なら、力を借りたいのなら初めからそう言えば良い。
いくらだって手伝うのに……。
「マリ……さまっ」
かすれた声でコルテが私を呼ぶ。
「何?」
すぐにコルテに近付き、彼女の口元に耳を寄せた。
「マリ様……。ごめんなさ…い」
「謝らないでコルテ、私がちゃんと魔法を使えないからいつも誰かを傷つけるの」
「ちがっ……」
虚ろなコルテの瞳からポロポロと涙がこぼれる。
コルテは続けて話そうとするが、咳き込んでしまって中々思うように言葉が発することができない。
「大丈夫だよ、コルテ。 ゆっくり休んで」
彼女は返事をする変わりに、布団の中からゆっくりと何かを取り出し私に差し出す。
「あの時に買ってくれた人魚の本……?」
部屋に置いておいたはずなのに、何故コルテはわざわざ部屋から持ち出したのだろう。
私の気が少しでも紛れるようにだろうか。
自分の方が辛いはずなのに……。
本からコルテに視線を戻すと、彼女は眠ってしまっていたので起こさないようそっと傍を離れるとにした。
「コルテは眠ったか?」
「はい……」
何とか息は出来ているが、食事は取れず水分摂取すらもままならない人もいる。
私とアルベルト様は手を貸してくれたエルフの女性達と一緒に、日が傾くまで皆の看病をした。
私達が出来ることには限りがあり、水を飲む介助や体を拭くこと、少しでも呼吸が楽になるよう体をさすることくらいだった。
「お疲れでしょう。後は私共にお任せください」
年配のエルフの女性が私達に頭を下げる。
「毒を盛った者達を信用しろと?」
アルベルト様の声は、とても冷たく怒りに満ちている。
「申し訳ございません。 まさか、長があんな手を使うとは思いませんでした。 罪滅ぼしにもなりませんが、私たちに何かさせてください!」
年配の女性の後ろから、コルテと同じ色の髪と瞳の少女が訴える。
よく見ると、どこか雰囲気もコルテに似ている。
「このままでは、この方たちは1週間ももちません。 どうか、長を止めてください!」
私があえて考えようとしなかった事を少女は言った。
考えたくなかった、水分しか取れないコルテ達がこの先どうなるかを。
私の様子に気付いたのか、アルベルト様が肩を抱いてくれた。
彼女達の誠実な姿勢を信じて、心身共に疲れ切っていた私とアルベルト様は近くのツリーハウスに泊まることになった。
部屋に着くと疲れがどっと押し寄せベットにダイブすると、心地よい眠気がやってきて私はそのまま眠りについた。
―――――
誰かが私を呼ぶ声で目が覚めた。
その声の主はもちろん1人しかいなくて、私はしばらく後悔することとなる。
「そう、落ち込むな」
「すみません……。アルベルト様もお疲れでしたのに、私がベットを使ってしまって」
コルテ達のいる所から一番近いこのツリーハウスは1人専用で、もちろんベットも1つだけ。
私は一国の王子を小さなソファーで眠らせてしまった。
「今夜は私がソファーで寝ますから!」
「いや、そのままベットを使ってくれてかまわない」
「そんな……」
「じゃあ、一緒に寝るか?」
アルベルト様の試すような瞳でこちらを見るので、私は反射的に目を逸らす。
「ありがたく、使わせていただきます」
そう言った後、アルベルト様の顔を見ると満足そうな顔をしているのが少し悔しかった。
そもそも同じ部屋で寝泊まりというのもどうなのだろうか。
けれど今はそんなことを言っている暇も、考えている暇もない。
今は、どうすれば皆を助けられるか。
それが解決できるまではアルベルト様に感じているモヤモヤも一旦封印だ。
「そういえばマリ、君の本を読ませてもらった」
アルベルト様は、私がコルテから預かった人魚の本を持っていた。
海の中に住む人魚の女の子が人間の男の子に恋をして、その後結ばれて幸せに生活する話。
私の知っている話とは違って、その人魚は人間の世界で男の子と一緒にごく平凡な家庭を築いていく。
人魚の記憶と力を失って……。
「この本に書かれている人魚と、君は似ている。もしかしたら、皆を治すこともできるかもしれない」
「皆を?」
「あぁ、けれど練習する時間もやり方も分からない。 とりあえず雨を降らす方法を考えよう」
「はい……」
トントン
こんな早朝からの訪問に、私とアルベルト様は顔を見合わせる。
何となく予想がつくが、もしかしたらコルテ達が回復した知らせかもしれない。
淡い期待を抱きつつ扉を開けると、一瞬で期待は崩れ去りそのまま扉を閉めてしまいたい衝動にかられる。
「おやおや。怖い顔をしていますが、よく眠れませんでしたか?」
「要件は何だ?」
「もちろん泉の件です。 今日もマリ様には頑張っていただきます」
オストロ様が、アルベルト様の後ろに隠れている私に視線を向ける。
穏やかに話を進めているが、エメラルドの瞳は冷たく私は負けていられないと強気に睨み返した。
「マリ様、元気で何よりです。 ではまた朝食後に伺います」
「あぁ」
「ところで……。 フクロウが迷い込んでは来ませんでしたか?」
「いや、知らないな」
「そうですか。 では失礼致します」
オストロ様が去ると、アルベルト様も緊張していたのか肩の力が少し抜けたように見えた。
朝食の前にテーブルの上を片付けて置こうと思っていると部屋の隅に白い物が動くのが見える。
動きは早かったがテーブルの下に隠れたのは見逃さなかった。
「トルビネさま~」
声を低めに、テーブルの下を覗くと羽をしゅんと縮ませ大きな瞳を潤わせた白フクロウがいた。
「すまん、本当にすまなかった! ここまでエルフがやるとは思わんかった!」
白フクロウの姿で土下座をされると、こちらが悪いのではと錯覚しそうになる。
話を聞くと、トルビネ様はエルフから追われていたようでずっと逃げていたとのことだった。
“あいつらはエアリーナ様を探しておる。居場所を聞かれても、わしも分からんのじゃ”
「エアリーナさんは眠たって前に……」
“姿が保てぬほど弱ってしまったんじゃ……。力を回復するため今はこの森の風に戻っておる”
トルビネ様はぽつりぽつりと話を始めた。
風の精霊王は代々フォルトナの森で誕生する。
その恩恵からこの森には風の魔力が豊富に存在し、その魔力を得意とするエルフがいつしか住み着いたという。
フォルトナの泉の水は特に風の魔力を多く保有しており、エルフと相性が良かったおかげで彼らは長い間繁栄することができた。
「だから城で、エルフはフォルトナの泉の水しか飲めないと……」
“他の水も飲めるが、あの泉の森でなければここまで栄えることはできん。エルフというのは長命だが体が弱い。 赤子の時は特にな……。”
「そういえば、ここに来てから子どもを見かけません」
“……フォルトナの泉の力が弱まったせいじゃ。 あれはエアリーナ様の力と関係しておってな。 最近では、赤子が産まれてもすぐに死んでしまう”
「そんな……」
“だからの、エルフも考えておるのじゃ。エルフと人間の子を作ることを……”
「人を見下すエルフが人間と? まさか……」
何か気付いたようでアルベルト様の瞳が大きく見開かれる。
“察しが良いのぉ、王子よ”
「だが、どうして……」
“これだけ噂になればのぅ”
全く察せぬ私は2人の会話に着いていけずにいるが、話はどんどん進んでいく。
結局、最後まで分からなかったが質問できる空気でもなかったので後でこっそりアルベルト様に聞くことに決めた。
まるで絵本の1ページにあるような光景のはずなのに、何も心に響かない。
私たちは今、特別大きいツリーハウスにいる。
大部屋になっており、ただベットが並んでいるだけの無機質な部屋だ。
ヒューヒューと空気を求める乾いた音がいくつも聞こえる。
そこには私と一緒に旅をしていた騎士さんやメイドさん、コルテにラルフも皆、青白い顔をして息苦しそうにベットで眠っていた。
私たちが到着した時には既に、この部屋に全員が集められていた。
何て準備が良いのだろう。
狙いが私なら、力を借りたいのなら初めからそう言えば良い。
いくらだって手伝うのに……。
「マリ……さまっ」
かすれた声でコルテが私を呼ぶ。
「何?」
すぐにコルテに近付き、彼女の口元に耳を寄せた。
「マリ様……。ごめんなさ…い」
「謝らないでコルテ、私がちゃんと魔法を使えないからいつも誰かを傷つけるの」
「ちがっ……」
虚ろなコルテの瞳からポロポロと涙がこぼれる。
コルテは続けて話そうとするが、咳き込んでしまって中々思うように言葉が発することができない。
「大丈夫だよ、コルテ。 ゆっくり休んで」
彼女は返事をする変わりに、布団の中からゆっくりと何かを取り出し私に差し出す。
「あの時に買ってくれた人魚の本……?」
部屋に置いておいたはずなのに、何故コルテはわざわざ部屋から持ち出したのだろう。
私の気が少しでも紛れるようにだろうか。
自分の方が辛いはずなのに……。
本からコルテに視線を戻すと、彼女は眠ってしまっていたので起こさないようそっと傍を離れるとにした。
「コルテは眠ったか?」
「はい……」
何とか息は出来ているが、食事は取れず水分摂取すらもままならない人もいる。
私とアルベルト様は手を貸してくれたエルフの女性達と一緒に、日が傾くまで皆の看病をした。
私達が出来ることには限りがあり、水を飲む介助や体を拭くこと、少しでも呼吸が楽になるよう体をさすることくらいだった。
「お疲れでしょう。後は私共にお任せください」
年配のエルフの女性が私達に頭を下げる。
「毒を盛った者達を信用しろと?」
アルベルト様の声は、とても冷たく怒りに満ちている。
「申し訳ございません。 まさか、長があんな手を使うとは思いませんでした。 罪滅ぼしにもなりませんが、私たちに何かさせてください!」
年配の女性の後ろから、コルテと同じ色の髪と瞳の少女が訴える。
よく見ると、どこか雰囲気もコルテに似ている。
「このままでは、この方たちは1週間ももちません。 どうか、長を止めてください!」
私があえて考えようとしなかった事を少女は言った。
考えたくなかった、水分しか取れないコルテ達がこの先どうなるかを。
私の様子に気付いたのか、アルベルト様が肩を抱いてくれた。
彼女達の誠実な姿勢を信じて、心身共に疲れ切っていた私とアルベルト様は近くのツリーハウスに泊まることになった。
部屋に着くと疲れがどっと押し寄せベットにダイブすると、心地よい眠気がやってきて私はそのまま眠りについた。
―――――
誰かが私を呼ぶ声で目が覚めた。
その声の主はもちろん1人しかいなくて、私はしばらく後悔することとなる。
「そう、落ち込むな」
「すみません……。アルベルト様もお疲れでしたのに、私がベットを使ってしまって」
コルテ達のいる所から一番近いこのツリーハウスは1人専用で、もちろんベットも1つだけ。
私は一国の王子を小さなソファーで眠らせてしまった。
「今夜は私がソファーで寝ますから!」
「いや、そのままベットを使ってくれてかまわない」
「そんな……」
「じゃあ、一緒に寝るか?」
アルベルト様の試すような瞳でこちらを見るので、私は反射的に目を逸らす。
「ありがたく、使わせていただきます」
そう言った後、アルベルト様の顔を見ると満足そうな顔をしているのが少し悔しかった。
そもそも同じ部屋で寝泊まりというのもどうなのだろうか。
けれど今はそんなことを言っている暇も、考えている暇もない。
今は、どうすれば皆を助けられるか。
それが解決できるまではアルベルト様に感じているモヤモヤも一旦封印だ。
「そういえばマリ、君の本を読ませてもらった」
アルベルト様は、私がコルテから預かった人魚の本を持っていた。
海の中に住む人魚の女の子が人間の男の子に恋をして、その後結ばれて幸せに生活する話。
私の知っている話とは違って、その人魚は人間の世界で男の子と一緒にごく平凡な家庭を築いていく。
人魚の記憶と力を失って……。
「この本に書かれている人魚と、君は似ている。もしかしたら、皆を治すこともできるかもしれない」
「皆を?」
「あぁ、けれど練習する時間もやり方も分からない。 とりあえず雨を降らす方法を考えよう」
「はい……」
トントン
こんな早朝からの訪問に、私とアルベルト様は顔を見合わせる。
何となく予想がつくが、もしかしたらコルテ達が回復した知らせかもしれない。
淡い期待を抱きつつ扉を開けると、一瞬で期待は崩れ去りそのまま扉を閉めてしまいたい衝動にかられる。
「おやおや。怖い顔をしていますが、よく眠れませんでしたか?」
「要件は何だ?」
「もちろん泉の件です。 今日もマリ様には頑張っていただきます」
オストロ様が、アルベルト様の後ろに隠れている私に視線を向ける。
穏やかに話を進めているが、エメラルドの瞳は冷たく私は負けていられないと強気に睨み返した。
「マリ様、元気で何よりです。 ではまた朝食後に伺います」
「あぁ」
「ところで……。 フクロウが迷い込んでは来ませんでしたか?」
「いや、知らないな」
「そうですか。 では失礼致します」
オストロ様が去ると、アルベルト様も緊張していたのか肩の力が少し抜けたように見えた。
朝食の前にテーブルの上を片付けて置こうと思っていると部屋の隅に白い物が動くのが見える。
動きは早かったがテーブルの下に隠れたのは見逃さなかった。
「トルビネさま~」
声を低めに、テーブルの下を覗くと羽をしゅんと縮ませ大きな瞳を潤わせた白フクロウがいた。
「すまん、本当にすまなかった! ここまでエルフがやるとは思わんかった!」
白フクロウの姿で土下座をされると、こちらが悪いのではと錯覚しそうになる。
話を聞くと、トルビネ様はエルフから追われていたようでずっと逃げていたとのことだった。
“あいつらはエアリーナ様を探しておる。居場所を聞かれても、わしも分からんのじゃ”
「エアリーナさんは眠たって前に……」
“姿が保てぬほど弱ってしまったんじゃ……。力を回復するため今はこの森の風に戻っておる”
トルビネ様はぽつりぽつりと話を始めた。
風の精霊王は代々フォルトナの森で誕生する。
その恩恵からこの森には風の魔力が豊富に存在し、その魔力を得意とするエルフがいつしか住み着いたという。
フォルトナの泉の水は特に風の魔力を多く保有しており、エルフと相性が良かったおかげで彼らは長い間繁栄することができた。
「だから城で、エルフはフォルトナの泉の水しか飲めないと……」
“他の水も飲めるが、あの泉の森でなければここまで栄えることはできん。エルフというのは長命だが体が弱い。 赤子の時は特にな……。”
「そういえば、ここに来てから子どもを見かけません」
“……フォルトナの泉の力が弱まったせいじゃ。 あれはエアリーナ様の力と関係しておってな。 最近では、赤子が産まれてもすぐに死んでしまう”
「そんな……」
“だからの、エルフも考えておるのじゃ。エルフと人間の子を作ることを……”
「人を見下すエルフが人間と? まさか……」
何か気付いたようでアルベルト様の瞳が大きく見開かれる。
“察しが良いのぉ、王子よ”
「だが、どうして……」
“これだけ噂になればのぅ”
全く察せぬ私は2人の会話に着いていけずにいるが、話はどんどん進んでいく。
結局、最後まで分からなかったが質問できる空気でもなかったので後でこっそりアルベルト様に聞くことに決めた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる