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人魚の伝説

人魚の伝説2

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 母さんがバックに詰め込んでくれた荷物のおかげで色々事足りていたが、そろそろ新調したい物や季節も変わったので前々から買い物をしたかった。
 この世界も元いた世界と似たものが多く、もしかしたら私以外にも地球から来た人がいるのかもしれない。

 私とコルテが何気ない話で盛り上がりながら楽しく買い物をしていると、遠くから名前を呼ばれた気がした。
 聞き覚えのある声に振り替えると、白馬に乗ったアルベルト様が私の名前を呼びながらこちらに向かってきている。

「マリ!」

「アルベルト様、そんなに急いでどうしたんですか?」

「君がコルテと城下町に行くとは聞いていたが、まさかエミルが同行しているとは思わなかった! 大丈夫か?」

 アルベルト様は一緒に来た従者に馬を預けると、心配そうに私の体を確認する。
 エミル様もだが、彼の考えていることもよく分からない。
 婚約者だからと気にかけてくれているのだろうが、彼が私に特別な感情を持っているのではと勘違いしそうになってしまう。

「ご心配ありがとうございます。 エミル様は先ほど体調が優れず帰ったので、今はコルテと2人なので大丈夫ですよ?」

「確かに、コルテは剣の才もあり信用しているが……」

「え、コルテって剣を扱えるの?」

「マリ様、気にするべきはそこじゃありません」

 アルベルト様とコルテが顔を見合わせながら苦笑する。
 そういえば2人は知り合って長いと聞いている、私に付く前はアルベルト様のメイドだったコルテは時々彼のことを教えてくれるのだ。
 少しだけ羨ましく思っていると、コルテはにっこり微笑みながらさり気なく私の背中を押しアルベルト様に近寄せる。
 
「少々目立ってしまいましたね。 残りは私が買ってくるので、どうぞお2人は城へお戻りください」

 コルテに言われ周囲を見渡すと、人が集まり口々に何かを話していた。
 私やアルベルト様のことを知っているようで好意的な雰囲気に安心していると、集団の中から1人、中年の男性が遠慮がちに私の所へ歩いてきた。

「あの、マリ様でよろしかったでしょうか?」

「はい、そうですが」

「ずっとお礼が言いたくて、俺のお袋が本当にお世話になりました」

「貴方のお母様ですか……?」

 急に男性の母親の話を言われ、話が全く読めずにいるとアルベルト様が私の横に立ってくれた。

「マリが何か?」

 アルベルト様が私の背にそっと手を添え男性と対面すると、相手は誤解を解くように両手を上にあげた。

「す、すみません、言葉足らずで。 えっと、ずっと床に伏せていたお袋が、雪解け水を飲んだ後から少しずつ歩けるようになったんです」

「降らせてしまった……。 というか落としてご迷惑をかけた雪ですよね。 いやぁ~勘違いだと思いますよ?」

「迷惑だなんて! それにうちだけじゃない、あの雪に助けられたのは他にも大勢います。 本当にありがとうございました」

「いやいや、私は何も……」

 アルベルト様に抵抗して降らした雪がまさか人々から感謝されるとは何とも複雑で、ぎこちない笑顔しか作れない。
 そもそも、本当にあの雪に効果があるのかも怪しいため大事になる前にここを早く去りたかった。
 そんな思いを込めてアルベルト様を突っつくと、察してくれたようで私の腰に手を添えてくる。

「そなたの母君が回復してなりよりだ。 すまないが、妻が疲れているようなので失礼する」

 “妻”発言に思わずアルベルト様の顔を見ると、あまりにも清々しい顔をしているものだから突っ込みが出遅れてしまった。
 そして彼は私を抱き上げると、後ろに控えていた馬にそのまま器用にまたがる。 
 その姿に、人々から感嘆のため息が聞こえてきた。

「それでは」

 極めつけにキラッと王子様スマイルを見せると、何人か女の子が目眩を起こしよろめいている。
 ここでも成人の義の時のように嫉妬されてしまうかと構えたが、どちらかと言うと憧れに近いようで私たちをキラキラした目で見ている。

「マリ、行くよ」

 アルベルト様が馬を進めると振動で思わず彼の首に両腕をかけてしまった。
 
「ごめんなさいっ!」

 慌てて手を離そうとしたが、また大きく揺れたためさらにアルベルト様に抱き付く形になってしまう。

「嫌じゃなければ捕まっていて?」

「私、沢山歩いて汗かいてるし……」

 そんなことを言いたかったわけではなかったのに、咄嗟に口から出てしまった。
 アルベルト様はクスッと笑うと、私の首元に顔を寄せてくる。

「……良い香りがする」

「匂いかがないでくださいっ!」

「どうしようか」

「ちょっとー!」

 そんなやり取りをしながら城に着くと夏バテもあってか私は目眩を起こし、騎士さんやメイドさん達に温かい目で見られる中アルベルト様に部屋まで運ばれることとなった。

 
 また後日、城下町の人々は謙虚な私たちを誉めちぎり、仲睦まじく馬に乗る姿を微笑ましく見ていたとコルテがニヤニヤの止まらない顔で教えてくれた。
 
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