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氷の姫君と砂漠の王子

成人の儀1

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 あれよあれよという間に、ルナ様の成人の義がやってきた。
 朝早くからメイドさんたちに磨かれ、締められ、整えられて今までで一番……いや、人生で1番ってくらい可愛くしていただいた。
 さすがプロ、私に似合うものを把握している。

「マリ様、とてもお美しいですわ!」
「そこらのご令嬢になんて負けませんよ!」

 メイドさん達がこれでもかと誉めてくれるので、気分が良くなる。
 いつも下ろしている水色の髪は綺麗に結い上げられ、大振りの真っ白な薔薇が1輪飾り付けられてある。
 髪色に合わせた淡い水色のAラインのドレスは、胸元からスカートまで薔薇柄のグリッターが輝いており濃紺のサッシュベルトがアクセントになっていて脚長効果がありそだ。
 チュールスカートは青系統のグラデーションになっているため、見る角度により色合いが変わり見ていて飽きない。
 
 鏡に映る自分を見て気分が上がり、ひらりと1回転すると胸元から浮かんだパールのネックレスが目に入った。
 お母さんからこの世界に来る際に受け取ったネックレス。
 メイドさんたちに別のアクセサリーを進められたが、これは取ってはいけない気がして提案を断った。
 これを失くしたら家に帰れないような気がするのだ。

「マリ様、どうなさいました?」

 いつも身の回りを世話してくれるメイドのコルテが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
 ちゃんと聞いたことはないが、見た目から同世代だろうコルテとは話が合い、この世界で唯一の友達的存在だ。
 伯爵家の娘だそうで、王宮勤めが長く私と気が合いそうだとのことでアルベルト様が紹介してくれた。
 ミントグリーンの髪と目を持ち、とても明るく気が利く女性だ。

「大丈夫。ちょっとホームシックになっちゃっただけ」

「そうですか、何かあったらいつでも言ってくださいね。さぁ! 仕上げも終わったことですし、もう皆マリ様に釘付けですよ」

「はは、まさか~。素敵なご令嬢が沢山来ると聞いてるから、私は、何て言うんだっけ……。壁の花? にでもなって大人しくしてるよ」

 今日の楽しみは、ルナ様の晴れ姿を見ることと美味しいご飯が食べられること。
 私の考えが分かったのか、コルテは苦笑している。

「無自覚もほどほどにしてくださいよ。壁の花は絶対に無理ですって」

 コルテは呆れたように言いながら、最後の調整で全身をチェックしてくれる。
 迎えにきたラルフがギョッとした顔で私を見るので失礼な男だと思っていたら、コルテが笑いを堪えているのが後ろにいても分かった。
 気の進まない中、アルベルト様と落ち合うとこれまた彼も目を見開いて凝視してくるので始まる前から逃げたくなる。

 良い感じだと思っていたのは自分だけだったようで恥ずかしい。

「ちょっと、コルテ笑いすぎじゃない?」

「ふふふ。頑張ったかいがありました」

 コルテは笑いが止まらないようで、もう放っておくことにした。
 アルベルト様は心なしか頬を染めながら片足をついて、片手を私の前に差し出してくる。

「マリ、本当に綺麗だ。私にエスコートさせてもらっても良いだろうか?」

「っ! またそうやってからかって……。私はあのことで怒っていますからね!」

 実はあのエミル様の嫁発言とその他諸々以降、アルベルト様と合うのは今日が初めてだった。
 というか、私が勝手に避けていてた。

 しばらく許すつもりないんだから。

 私はアルベルト様を牽制すると、視線を外したまま彼の手に自分の手を重ねた。
 彼は少し驚いた様子で私の手を握るとそのまま会話はなく、気まずい雰囲気の中会場に向かうことになった。



ーーーーー



 成人の義の会場はいつもの謁見の間で行われた。
 貴族はもちろん、来賓として他国の王族等もいるため静粛な雰囲気で進められていく。
 就活の面接以上に緊張することがあるとは思わなかった。
 私は王族の席でアルベルト様の横にいるせいか、先ほどから人の視線が自分に突き刺さっている気がする。

 ルナ様の成人の儀式が無事に終わると、そのままパーティーが始まった。
 最初に踊るのはもちろん主役のルナ様だ。
 細やかな刺繍の施された深紅のドレスがルナ様の白い肌を引き立たせ、あの歳で色気さえ感じる。
 お相手は兄のレオナルド様で、美しくぴったりと合うダンスに惚れ惚れしてしまう。
 2人のダンスが終えると、その後は皆自由に踊って良いことになっている。

「アルベルト様は楽しんでください。私は少し疲れたので休みますね」

「マリ……!」

 式中からずっと続いているアルベルト様に注がれいたご令嬢達の熱い視線と、私に対する嫌悪。
 自分達にもまだチャンスがあると思っているのか、ルナ様のダンスが終わるや否やアルベルト様は色とりどりのドレスを着た可愛らしいご令嬢に囲まれてしまった。
 所詮私は婚約者であるけれど肩書きだけの立場。
 身分の高いご令嬢がこぞってやって来ては引くしかない。

「私なんてからかっていないで、好きな人を見つけてくださいね」

 そう言い残すと、私はアルベルト様の呼び止めも聞かずその場を離れることにした。

「アルベルト様~。私と踊りましょうよ!」
「私が先よ」
「え~、ずるいわよ」

 去り際に私への当て付けのようにアルベルト様を求める甘い声が聞こえる。
 私なんて気にしなくとも、この国に雨が降れば彼の婚約者から私も降りてしまうのに。

 そう思うと少しだけチリッと胸の奥が痛んだ気がした。
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