わたし、人魚かもしれません~普通のOLが異世界に行ったら王子の婚約者になりました

水夏 すい

文字の大きさ
上 下
3 / 54
ヴェルナード王国

ヴェルナード王国1

しおりを挟む
ダンテはアンナが抱えた花束ごと、彼女の身体を抱き締めていた。

「アンナ………。それは、君の心からの気持ちかい?………遠慮はいらない。私は君の本心が知りたい」
「そんなの、当たり前じゃないですか………っ!私がどんな気持ちで………っ」

縋り付くように彼の胸に頬を寄せて、悲鳴に近い声を上げたその途端、大きく温かい掌に強い力が込められるのが分かった。

「………すまない………。私は、それが何よりも不安だったんだ…………」

ダンテの体温で、抱えた花束から芳しい花の香りが立ち昇る。

「それならばもう、遠慮なんてしない。
あなたでないと………駄目なんだ。寝ても覚めても、君のその陽だまりのように温かな笑顔が頭から離れない。君の事を思い浮かべるだけで、心が満たされるんだ………。アンナ、君を心から愛している。私は運命だとか、そういうものは信じていなかったけれど………君こそが私の運命の人だ」

耳元で囁かれた言葉に、アンナは身体が芯から震えるのが解った。
悲しくないのに、自然と涙が溢れてきて、アンナは手にしていた花束に思わず顔を埋めた。

「………ダンテ様………。私はダンテ様のお側にいても、いいんですか………っ?」
「ああ、もちろんだ。………いや、違うな」

ダンテは少し考えてから、にやりと笑った。

「アンナ。君にはずっと、私の側にいて欲しい。君のその何よりも美しい笑顔を、ずっと私に向けてくれ。………これが正解だろう?」
「ダンテ様…………」

感極まったようにアンナが言葉を詰まらせると、ダンテは何かを促すようにアンナをじっと見つめた。

「………私も、愛しております…………」

少し気恥ずかしそうに、けれど今までのどんなものとも違う表情を浮かべながらふわりと微笑んだアンナに、ダンテは大きな身体を屈めると、彼女の唇にそっと口付けを落とした。
それはまるで羽根で撫でるような、優しい口付けだったが、アンナはたったそれだけで全身の血管が沸騰するような感覚を覚えた。

それは長い間感じていた躊躇いも、劣等感すらもどうでもいいと思えるくらいの、目眩がする程幸せな瞬間だった。
秋の陽射しが美しく煌めき、風と鳥たちの囀りがさざめき立つ。
まるでこの世の全てが彩り豊かに輝き出したのかのように、美しく映る。

愛しい人と思いが通じ合うというのは何て素晴らしく、何と幸福なのだろう。
クラリーチェやリディアが、いつも幸せそうに見えるのはそのせいなのかもしれないとアンナはダンテの腕の中で考えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

処理中です...