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ヴェルナード王国
ヴェルナード王国1
しおりを挟むボフッ!
「ひやぁ!」
死を覚悟したと思うや否や、着地した。
落下した先が柔らかい物の上だったおかげで痛みはなく、何度かその上で体が弾む。
私の体が沈むたびにギシギシと鈍い音が聞こえた。
夜だろうか、室内は薄暗くいくつかある燭台にぼんやりと火が灯っている。
「何者だ?」
急に真横から男性の声が聞こえるので見れば、思ったよりも近くに声の主はいた。
羽織っているバスローブが乱れ、背中まであるまっすぐに伸びた髪に少し癖がついているのが薄暗い中でも分かった。
どうやら私はベットの上に落ちて、就寝中の彼を起こしてしまったらしい。
「誰に雇われた?」
男性は冷たく言い放つと、躊躇なく私を乱暴に組み敷いた。
押さえつけられている腕に彼の爪が食い込む。
「次答えなければ殺す。 目的は何だ?」
「え……」
私が返事に渋っていると、ベットの脇にある短刀を掴み喉元に押し付けてきた。
ヒヤッとした感触に現実感が増す。
怖い。
「私は……」
とりあえず何か言わねば命はないと思った時、彼の肩越しに薄暗い天井から何か落ちてくるのが見えた。
「あっ」
天井を見ながら間抜けな声を出した私につられて、彼が見上げた一瞬の隙に身をよじって力ずくで腕から逃げ出す。
このままだと殺されかねない。
「逃がさない」
落ちてきたのは、母さんから持たされた荷物だった。
男性は何か訓練でも受けているのか、バラバラと落ちてくるそれを軽々と避けながら確実に間合いを詰めてくる。
背中には壁。
彼の手にはギラっと怪しく光る短刀。
私の人生こんなところで終わりたくない!
「ムリ、ダメ、来ないでっ!」
抵抗しようと、両手を彼に向けたと同時だった。
バシュッ!
両手から水鉄砲のように水が勢いよく飛び出した。
放たれた水が短刀に命中し、彼の手から離れカランと乾いた音を立てて地面に落ちた。
「まさかっ」
男性が信じられないという顔をしている。
「え……?」
私も訳が分からず慌てて両手を確認するが、見慣れた短い生命線が走っているいつもの手の平だ。
手に穴が空いたかと思った。
“大丈夫?”
不思議と懐かしく感じる可愛らしい声が、耳元で囁かれた。
声の方を向けば羽をパタパタと動かしながら宙に浮いている小人が、心配そうに私を見ている。
真っ白なその羽は楕円形で小人の背の両側に2枚ずつ生え、動く度にキラキラと細かい光が小人を包み込んでいた。
“マリ、大丈夫?”
「あ、はい大丈夫です。もしかして、貴方が助けてくれたの?」
“そうよ!”
そう答えると薄水色のゆるいウェーブの髪を揺らしながら、小人は慣れたように私の肩にちょこんと座った。
その肩に感じる気配に不思議と違和感がない。
「まさか、君も精霊と話せるのか?」
「え?」
目の前にいたはずの彼が、いつの間にか短刀を持ち直し私の真後ろに立っていた。
全然気づかなかった。
「ひぇっ!」
彼から逃げようと思ったが、体が思うように動かせず足がもつれてしまう。
私はその時やっと自分の体調が悪いことに気づいた。
急に吐き気も襲ってきて、私の様子に彼も気付いたようだ。
「おねがい、殺さないで」
やっとの思いで言った後すぐに、視界が真っ白になった。
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