366日の奇跡

夏目とろ

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[第6章]親衛隊と新メンバー

10 庵side (風紀)

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(――コンコン)

 ドアがノックされる音がする。

「失礼します」

 御子柴がオートロックを解除しに向かうと、そいつは静かに風紀委員会室に入って来た。どっかで見たことがあるようなないような。外部生のこの男とは同じクラスになったことがなく、同じ学年だとは言え直接的な関わりがないからよくわからない。

 何よりその風貌は至って普通で、典型的な平凡顔のこの男の特徴と言えば昔の誰かさんを彷彿とさせる無表情と無愛想の二重苦だと言うことぐらいだ。身長は170センチ少しぐらい、まあ、高二男子の平均と言ったところだろう。体型的には中肉中背で、こちらもこれと言った特徴がない。全く手を加えていない黒髪は寝癖が目立ち、これも少し前の誰かさんを思い出させる。
 男がかけている眼鏡もかつての羽柴の黒縁眼鏡によく似ていて、そう言えばこの男は昔の羽柴に雰囲気がよく似ている。昔の羽柴と並べてみれば、一昔前の俺なら見分けがつかない程に。

「わざわざすまないな。大塚」

 ソファーに掛けるように促すと、大塚は静かに身を沈めた。すかさず御子柴がお茶をれ、大塚の目の前に置く。

「僕に何か御用ですか? 風紀……、失礼。橘様」

 この男、大塚星矢おおつかせいやは羽柴の去年のルームメイトで、羽柴がリコールから復帰後、絶妙なタイミングで羽柴の親衛隊を立ち上げた。羽柴に聞けばそんなに親交は深くなかったらしく、羽柴が一番驚いていたっけ。

「いや。新たに立ち上げられた親衛隊の内情を探ろうと思ってな」

 様子をうかがいながら俺も紅茶に口をつけると、大塚は初めて僅かに口角を上げる。羽柴にどんなやつだと聞いた時に笑うのが下手なやつだと言っていたが、成る程この胡散臭い笑顔かと妙に納得してしまった。

「内情とは穏やかじゃないですね」
「まあ、お前が何かをくわだててるとは思わないから安心しろ」

 お前、羽柴に恋愛感情を持ってないだろうと単刀直入に切り出せば、大塚はまた下手くそな笑顔を見せた。

 静かな時間が流れる。大塚はもう自分を取り繕う気はないようで、感情が読めない男に戻ってしまっている。

「なんで羽柴の親衛隊を立ち上げた? 羽柴を慕っているわけではないだろう」
「ふっ、さすがは風紀委員長様。よくお分かりで……」
「下手くそな敬語もいいから。お前の『地』はそうじゃねえだろ」
「……ぷっ、ははっ。橘、お前どこまで鋭いの」
「まあ、まがいなりにも風紀委員長だからな」

 ずっと単なるルームメイトだったやつが、なんで羽柴の親衛隊を立ち上げたのかが気になっていた。しかも、特に親しくもないやつが。だからこの際、化けの皮を剥がしてやる。

「まあ、最初は単なる好奇心。俺は見ての通りオタクで、実は腐男子ってやつでさ」

 だから親衛隊を立ち上げるのは初めてだけど、それなりに知識はあるからと大塚はまた下手くそに笑った。
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