366日の奇跡

夏目とろ

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[第5章]ラブレター

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 日向と廊下を歩いてると、周りから男子校らしからぬ黄色い歓声が飛ぶ。

「きゃーっ、日向様ぁ!」
「抱いてぇー!」
「はいはい、また今度ねー」

 そんな中、

「わ、会長様も一緒だ!」

 最近、少しずつ俺のことも気に留めてくれるようになって来た。

「ねえねえ。会長様のお名前ってなんだっけ?」
「馬鹿っ。羽柴様だよ!」
「ああ、そうそう羽柴様!」

 ただ、まだまだ認知度は低くて、なかなか俺の名前が出て来ないんだよなあ。まあ、生徒会長だって認識してくれてるだけでも有り難いけど、やっぱ名前を覚えて欲しかったりする。

「やっぱ俺ってまだまだだな……」
「ん? なんか言った?」
「あ、いや。なんでもない」

 生徒会室に向かう前に学校の前にあるコンビニで、久しぶりに出来合いのお惣菜と紅茶のお茶受けの洋菓子を買った何か簡単なものでも作って来ようと思ってたんだけど、進学テストが近くてゆっくり料理している暇がない。

「あ、待ってこれも買う!」
「ほどほどにしとけよ。今から生徒会室に行くんだから」
「うん」

 最近、日向がコンビニに嵌まっていることが知れ渡って、一部のエリート組の生徒の間でコンビニブームが起きている。その生徒は日向と同じようなエリートの生徒達で、日向と同じ、コンビニに行ったことがなかった生徒達だ。
 お湯を入れるだけで麺料理やスープが完成するのが珍しいらしく、レンチンやお湯を入れるインスタント料理が流行っているらしかった。今までキッチンを使わなかった生徒もポットやレンジ、トースターだけは使うようになったようで、それを料理だと呼んでいる生徒も少なくはない。

「あった! これこれ」

 そう言って日向が手に取ったのはお湯を入れるだけのポタージュスープで、

「昨日はコーンにしたから、今日はポテトにしようかな。けど、クラムチャウダーとミネストローネも捨てがたい」

 食パンをトーストするのを覚えた日向は、朝からレストランに行ったりデリバリーを頼まず、朝食を自分の部屋で取るようにしたらしかった。日向はインスタント珈琲や紅茶のティーバッグを買って自分で紅茶や珈琲を淹れているらしく、シリアルに牛乳を注ぐのも日向にとっては立派な料理の一つだ。

「温朝食ってコマーシャル、あの朝食が自分で作れるのってすごいよねー」

 ご機嫌な日向はまだコンロや包丁は使ったことがないようで、進学テストと球技大会が終わったら、簡単な料理を教える約束になっている。うちの学校に調理実習があったのは初等部の高学年の頃だけで、ピアノやバイオリン教室に通う生徒が少なくない柴咲学園では生徒に包丁を持たせると親からクレームが来るんだよな。
 俺はその頃から包丁を握っていたが、それは母さんが料理好きだからで。ただ、一般的なセレブ家庭にはハウスキーパーや使用人がいて、料理や掃除も人任せが普通だ。

 それにしても日向のやつ。両手にコンビニ袋を下げてるチャラ男のくせに、なんでこんなに様になってるんだろう。黙っていれば日向はそこらの俳優やモデルよりもイケメンで、抱かれたいランキングは鷹司と橘に次いで堂々の3位なんだよな。その時、

「あの、日向様。これっ!」
「わ、ありがとー」

 先にレジを終わらせていた一年生の可愛い子が、日向に手紙を手渡した。

 特別棟の階段を上がり、最上階へ。校舎は四階までしかないからか、学校にエレベーターはない。生徒会室は四階で、一人で仕事をしていた時はこの階段の往復が辛かったことを不意に思い出したりなんかして。

「とーちゃーく」

 手が空いてる俺が、ドアの前で腕時計をかざす。

「お疲れ」
「二人ともお疲れ様。今、紅茶淹れるね」
「どうした今日は遅かったな!! 心配したぞ!!」
「コンビニ寄ってたんだー。後でアイスとお菓子、皆で食べようね」

 少し遅れて生徒会室に足を踏み入れると、S組のメンバーが一足先に椿野の淹れた紅茶でくつろいでいた。
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