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[第5章]ラブレター
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新しい仲間が増えると最初はいつも緊張する。一般寮に引っ越した時もそうで、クラスメートの槙村はともかく俺が両隣の部屋の住人と打ち解けたのは、リコールが解けて特別棟に戻る直前のことだった。生徒会役員のメンバーとは一応はもう一ヶ月の付き合いになるのに、ここに来てようやく打ち解けることが出来た気がする。
「うーっ、緊張するねえ」
日向が珍しく緊張している。今日はとうとう生徒会主催の新入生歓迎会の開催日で、これは今年度の生徒会で開催する初の催しだ。始業式に生徒会役員メンバーの紹介がされて以来、初めてメンバーが揃って生徒の前に出ることになる。
参加するのは全校生徒じゃなく、新入生と各種部活と委員会の代表だけだとは言え、生徒会初の大仕事だ。役員メンバーが揃って講堂へ向かうのも初めてのことで、さすがは人気者揃いのメンバーだけに俺達を取り囲むようにして生徒達も講堂へと移動する。
擦れ違う生徒達からは黄色い歓声が上がり、その中に自分がいるのがとても不思議な気がした。まるでモーセの杖で海面を突いたかのように、俺達が移動するたびに新たに道が拓けて行く。
「きゃーっ、鷹司さまぁっ」
「うほっ、日下部様だ!」
「……ねえねえ。あれって会長様だよね?」
歓声に紛れて会長云々と聞こえたような気がしたが、
「確か羽柴様だっけ。すっごくかっこよくない?!」
その声が俺に届くことはなかった。
「客寄せパンダ……、いや、大名行列か」
「え?」
他のメンバーは慣れ切っているのかいつもと変わらない平常心で、俺だけが内心ドキドキで動揺しまくっている気がする。始業式の時の『あれ誰?』的な冷たい視線とは明らかに違う視線に、俺は戸惑いを隠せないでいた。
自分にも向けられているのは好奇な目に決まってるのに、戸惑っている自分がいて。せめて名前だけでも覚えられてればいいなと思いながら、講堂へ急いだのだった。
去年までは並んでいたクラスの列には並ばずに、講堂の裏手のドアから中に入る。講堂の後ろにある一般出入口のドアの方が裏手と言える気もするが、このドアはステージ裏の控室に直接入ることが出来るようになっている。
このドアは学園祭等で一般に開放する時以外は施錠されていて、鍵が開けられるのは教職員と生徒会、風紀委員会の役員だけだ。体育倉庫やその他の教室のドアはまだカードキーを使って開け閉めされていて、まあ、その鍵も教職員と風紀委員会の役員は腕時計でも開けられるんだけど。
風紀がカードキーなしで開けられるのは、過去に何度も体育倉庫や特別教室に生徒が閉じ込められる事件があったからだ。事件現場を押さえるのは風紀の役目で、俺達生徒会側は直接手を出せず、報告を受けてから加害者に処罰を与えることしか出来ない。
それはともかく、控室に入ってしばらくして放送委員が忙しなく動き出した。マイクや音響、照明の操作も放送委員の仕事で、控室からもバタバタと足音が聞こえて来る。
「……」
鏡の前で余裕の顔で髪を弄っているメンバーをよそに、俺は椅子に深く座った姿勢で固まっている。その時、
「羽柴、行くぞ」
不意に鷹司に肩を叩かれ、我に返った。
「大丈夫。上手く行くよ」
椿野の声に励まされ、控室を出る。そのままステージ裏まで進み出て出番を待つ。
「只今より生徒会による新入生歓迎会を執り行います」
そんな少々堅苦しい放送委員の司会で、今年度の新入生歓迎会が始まった。
「うーっ、緊張するねえ」
日向が珍しく緊張している。今日はとうとう生徒会主催の新入生歓迎会の開催日で、これは今年度の生徒会で開催する初の催しだ。始業式に生徒会役員メンバーの紹介がされて以来、初めてメンバーが揃って生徒の前に出ることになる。
参加するのは全校生徒じゃなく、新入生と各種部活と委員会の代表だけだとは言え、生徒会初の大仕事だ。役員メンバーが揃って講堂へ向かうのも初めてのことで、さすがは人気者揃いのメンバーだけに俺達を取り囲むようにして生徒達も講堂へと移動する。
擦れ違う生徒達からは黄色い歓声が上がり、その中に自分がいるのがとても不思議な気がした。まるでモーセの杖で海面を突いたかのように、俺達が移動するたびに新たに道が拓けて行く。
「きゃーっ、鷹司さまぁっ」
「うほっ、日下部様だ!」
「……ねえねえ。あれって会長様だよね?」
歓声に紛れて会長云々と聞こえたような気がしたが、
「確か羽柴様だっけ。すっごくかっこよくない?!」
その声が俺に届くことはなかった。
「客寄せパンダ……、いや、大名行列か」
「え?」
他のメンバーは慣れ切っているのかいつもと変わらない平常心で、俺だけが内心ドキドキで動揺しまくっている気がする。始業式の時の『あれ誰?』的な冷たい視線とは明らかに違う視線に、俺は戸惑いを隠せないでいた。
自分にも向けられているのは好奇な目に決まってるのに、戸惑っている自分がいて。せめて名前だけでも覚えられてればいいなと思いながら、講堂へ急いだのだった。
去年までは並んでいたクラスの列には並ばずに、講堂の裏手のドアから中に入る。講堂の後ろにある一般出入口のドアの方が裏手と言える気もするが、このドアはステージ裏の控室に直接入ることが出来るようになっている。
このドアは学園祭等で一般に開放する時以外は施錠されていて、鍵が開けられるのは教職員と生徒会、風紀委員会の役員だけだ。体育倉庫やその他の教室のドアはまだカードキーを使って開け閉めされていて、まあ、その鍵も教職員と風紀委員会の役員は腕時計でも開けられるんだけど。
風紀がカードキーなしで開けられるのは、過去に何度も体育倉庫や特別教室に生徒が閉じ込められる事件があったからだ。事件現場を押さえるのは風紀の役目で、俺達生徒会側は直接手を出せず、報告を受けてから加害者に処罰を与えることしか出来ない。
それはともかく、控室に入ってしばらくして放送委員が忙しなく動き出した。マイクや音響、照明の操作も放送委員の仕事で、控室からもバタバタと足音が聞こえて来る。
「……」
鏡の前で余裕の顔で髪を弄っているメンバーをよそに、俺は椅子に深く座った姿勢で固まっている。その時、
「羽柴、行くぞ」
不意に鷹司に肩を叩かれ、我に返った。
「大丈夫。上手く行くよ」
椿野の声に励まされ、控室を出る。そのままステージ裏まで進み出て出番を待つ。
「只今より生徒会による新入生歓迎会を執り行います」
そんな少々堅苦しい放送委員の司会で、今年度の新入生歓迎会が始まった。
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