リトル君の魔法学園生活

鬼灯

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92_記憶

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『リトルは眠ったか?』

「ああ、どういう事だ」

 光の王が安心したように息を吐いた。

『リトルの許可無しに説明することはできない。ただ、そのピアスはリトルがパニックになった時に一時的に眠らせるものだ。この瞬間のことは覚えていないだろう』

「…分かった」

 これ以上尋ねても答えは出てこないだろう。僕がいくら心配したところで無駄だ。そもそも、教えてくれるはずがない。リトルを助けたいと思っても、僕にその資格はない。

「おい、何があったんだ。俺もさっき目覚めたばかりなんだぞ」

 ダルそうに同室者が歩いてきた。コイツも眠り花を嗅いでいたな。外傷もなさそうだし、問題はないだろう。

「自分の中に何かいるっと言ってパニックを起こした。ピアスの力で今は眠っている」

「…フィルさんの虫除けがこんなところで役に立つなんてな。強欲、ミーナ先生に伝えてくれ。俺はまだ話すこともあるんでな」

 命令されることは癪だが仕方ない。僕に今できることはそれくらいしかない。僕は転送魔法で保健室に向かった。








 ###########





 強欲の気配が無くなったのを確認して、俺はフィルさんに話しかける。


『ヒルエ、事は結構深刻だ。お前も覚悟しとけ』

「覚悟って何を」

『お前も分かっているだろう。過去と向き合う時が来る。お前の中の闇はリトルの闇と繋がっている』

 ため息が出る。いくらの贖罪を積めば、平凡な生活を望めるのか。俺はリトルと一緒に平凡になりたいだけなのに。


「リトルが全て思い出せば、俺はきっと殺されてしまうな。その時はフィルさん、そのまま死なせてくれ。自分の死体は自分で燃やすから」

『…決まってもいない未来を考えるな』

 決まっていないと断言できるはずはない。全ては俺から始まってしまったのだから。

「平凡になりたいな」

『いつになく弱気で調子狂うな。お前達は俺が守る。コウヤとミーナにも事情を話す。味方はいるさ』

「あぁ…」

 不安はぬぐえない。最悪の未来はいつだって前触れなく訪れるものだ。

 俺はリトルを抱えあげる。少し軽くなったか。

「部屋に帰る。目が覚めたら、忘れているんだろう?リトルの中にいるのはやっぱり…」

『わからない。全て憶測だ。今は共鳴していくしかない。もう止められないんだから』

「あぁ、また連絡する」

 リトルをベットに寝かし、リビングでコーヒーを飲む。心が晴れない。イライラする。



「ヒルエ…?」

 部屋に入ってきたのはセルトとギルだった。

「強欲から共鳴したって聞いて、リトルは?」

「今は寝てる」


「そっか。また側にいれなかった」

 セルトは悲しそうな顔をする。2人の気持ちは良く分かる。だからこそはっきりさせなければ。


「良いんじゃないか?これからどんどん危ない方に転んでいく。お前達の実力じゃ、そのうち太刀打ちできなくなる。お前らはリトルの日常だ。お前達がいなくなることをリトルは恐れている。ギルは闇属性の特性として、側に要るべきだったが、もう、精神安定のレベルを越えてしまった。いずれ、リトルは壊れる」

「ヒルエ…」

 ギルが名前を呟く。動揺が見てとれる。分かるさ。そのもどかしい気持ちも。

「足手まといってこと…?」

「そうだな、王が絡んでいる以上お前達は足手まといだ」

「何かあったのか…?」

「事態はすごく悪い。絶対になにか起きる。それこそ世界を揺るがすほどのなにか。もう、個人の問題じゃない。そんな面倒で危ないことにお前らを巻き込んだらきっと後悔する、セルトの気持ちもギルの気持ちも分かっている。だから、全部俺のせいにしていい」

 この結果がどんな結末だとしても。関われば過去を知ることになる。俺はそれが怖い。


「ねぇ、ヒルエは一緒にいるんでしょう!?僕たちはどうしてダメなの!」

「俺はもう引き返すわけには行かないし、そんなこと許されない」

 俺は自分の罪と向き合わなければならない。今まで逃げてきた付けを払わないと。

「じゃあ、引けないな。リトルの為もあるがお前のことも心配だから。足手まといだと思ったら身を引くし、命は大事にする」

「リトルのことはヒルエが一番だって分かってるけど、やっぱり僕はヒルエに負けたくない。でも、それ以上に2人の力になりたい。友達だから!」


「そうか…ありがとう」

それでも俺は俺の過去とリトルの過去をこいつらに知られるのが怖い…。愚かで臆病な蝶だ。




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