リトル君の魔法学園生活

鬼灯

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91_本物

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目が覚めると見慣れた保健室の天井だった。最近は保健室の常連になっている。

「起きたか」

ベットの横の椅子に居たのはスペルビアだった。べーっと舌を出して、青いバラを俺に見せた。

「見たんだな、僕の罪を」

「ごめん…」

「いいや、謝らなくても良い。リトルに知られたってやることは変わらない。残り768人の命を探すだけだ」

「そうか…」

「止めないのか…?」

「止めることが正しいのかな…。止められても、なにコイツって俺なら思う。俺が正しいと思うことが、スペルビアにとって正しいことだとは思わないよ。ただ俺は、スペルビアがこれ以上傷ついて欲しくないっとは思う。命を奪う行為がお前を傷つけるならやめた方が良い」

「…やめられはしない。偽物が本物にはなれないように、罪人が聖人になれないように、恨みが愛情に変わることがないように、僕が強欲な願いを捨てられることはない」

「そうか…」


スペルビアは覚悟を決めているのだろう。その結果が、どのようなものであっても必ず受け入れるのだろう。

「お茶会をしよう…雨も止んだ。お前と2人でお茶会がしたい」

「分かった」


ミーナ先生には勝手にベットから動いて怒られてしまうだろうな。それでも今は、お茶会をしよう。









############







シープさんがお茶会の準備をしていく。シープさんは確かに首を落とされたんだけど、土人形は死ぬことはないらしい。良かった。

「僕は人より魔法が得意で、マナー苦手だった。そんな僕を見かねて、母は定期的にお茶会をしてくれた。それが僕には嬉しくて、大切な時間だった」

だから、スペルビアはお茶会をしようと最初に言ったのだ。確かにお茶会の時間はメンバーがメンバーなだけに大変だったが楽しかった。

「シープさんも一緒に飲もう!」

「いえ、私は執事ですので」

「いいからいいから!」

俺は強引にシープさんを椅子に座らせる。シープさんは驚いているが、かまわない。

「どういうつもりだ」

「良いんじゃないか」

「は?」

「本物とか偽物とかそういうの。うまくは言えないんだけどさ、これは偽物じゃなくて別の本物なんじゃないか。シープさんはスペルビアの執事で俺はスペルビアのお茶会仲間」

スペルビアは目を大きくしてビックリしている。俺、変なこと言ってしまっただろうか…スペルビアは大きく息を吸うとゆっくり吐いた。



「不思議だ。なんだか久々にお茶の味を感じた。シープ、お前のお茶はあいつと同じ味がしたんだな」

スペルビアのこんな穏やかな笑顔を初めてみた。いつもは自信家で偉そうで、しかめっ面が多い人だった。

「今、スペルビアがシープさんの名前呼んだよ!」

「光栄でございます、坊っちゃん!」

シープさんは嬉しそうにスペルビアにおかわりのお茶をいれる。ほら、人形なんかじゃない。これは絆だ。

「うるさい!名前がないと困ると言ったのはお前だろう」

「そうだよー!呼びやすくて良い名前だろ!」

「はい、とても良い名前でございます。ありがとうございます」

「甘やかすな、シープ」

そっぽを向いて恥ずかしそうにしているスペルビアがとてもかわいく見えた。






ーまるで僕の弟のよう。






「ッ!」

俺は急に立ち上がった。その衝撃でティーセットが倒れ、紅茶はテーブルクロスに染みを作る。

俺に弟なんていない。おかしい、自分の中になにかがいる。


「フィルさん…」

俺は震える手でケータイを出して電話をする。コール音が聞こえる。

『もしもし、リトル?』

フィルさんの声が聞こえるのに手がうまく動かない。耳に当てることもできず、小さな声でフィルさんが何度も呼んでる。しゃべらなきゃ。

「シープ、あの同室者を呼んでこい。落ち着けリトル、白の王に連絡しているんだろう。しっかり耳に当てろ。ゆっくりしゃべれ」


スペルビアは冷静にその場を指示すると、俺の手を支え、ケータイを耳に当ててくれた。

「フィ、ルさん」

『リトル、何かあったのか!?どうした?』

「自分の、中に誰かがいる…。誰かの記憶が…」

『大丈夫だ、リトル。お前はお前だ。お前の中に何が居ようとお前だ。お前の近くに誰がいるか?』

俺はスピーカーにしてスペルビアにも聞こえるようにする。

「七つの大罪の強欲だ。僕がいる」

『強欲、リトルの耳にピアスがあれば、魔力を流してくれ』

「わかった」

スペルビアは耳のピアスに触れた。魔力を流してくれる。暖かい魔力が体を巡っていくのが分かる。

そこで俺の意識はなくなった。








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