1 / 4
1
しおりを挟む
海洋国家バスラ王国の南方に広がるヨーテ湾から更に先、アステリア海域と呼ばれる海の奥深くに、イタズラ好きで物知りな妖魚族ヘイラルたちの国、ダリオテレスがあった。
「なんだよ。今日はえらくご機嫌だな」
ダリオテレスの第七皇子で、皇太子の近衛騎士団長を務めるウルスは、年頃になって減らず口を叩くようになった、第四王女で妹のラルーカの扱いに困っている。
「ふふーん。そりゃご機嫌にもなるわよ」
そんなラルーカが鼻歌を歌い、あまつさえわざわざウルスの部屋に乗り込んで来て笑顔を見せるから、つい声を掛けたのだ。
「何があったんだって聞けばいいのか」
「今日はね、お忍びで陸に遊びに行って来たの」
「ああ。なるほどな」
「そして遠くからだけど拝見できたのよ!マーラルたちが騒ぐのも頷けるわ。とにかくとても麗しい王子様だったのよ」
黄色い声で騒ぐラルーカがご機嫌な理由に見当がつくと、ウルスは途端に話題に興味が無くなる。
最近話題のバスラの第二王子、バショウがとんでもなくイケメンだと騒ぎになっているからだ。
燃える紅蓮に銀が混ざった珍しい色味の髪。日に焼けて引き締まった褐色の肌。すらりと背が高く、凛とした顔立ちは、ふとした時に見せる笑顔に少女のようなあどけなさを残した、いわゆる美少年だと聞く。
なんでもバショウ王子は、幼少から病弱で塞ぎがちな皇太子のスザクに代わり、最近になって本格的に政に加わるようになったそうだ。
スザクの面子のためか、あまり表立っては活動していないようだが、その控えめな態度も好感が持たれる要因なのだとか。
「へっ。たかが人間だろ」
妖魚族は人間とは一線を画す美麗な種族であり、なんと言っても他に類を見ない金色に輝く瞳が印象的だ。
ウルスは呆れたように吐き捨てると、窓に映る自身の姿を見つめる。
猛々しく金色に輝く瞳、緑がかった黒の艶めいた髪。鱗が浮かぶ青磁のような妖魚族独特の白い肌。鍛え上げた逞しい体つきでも、どこか貧弱に見えてしまう。
「これだから脳筋は、はぁ。ほら!見てみなさいよ、バショウ様の姿絵買ってきたの」
ラルーカが得意げに広げた姿絵を見て、ウルスは思わず息を呑んだ。
「…………っ」
「どうよ、これこそ本物の選ばれし王子様よ」
満足そうに得意げな顔をするラルーカの声で我に返ると、ようやく絞り出した声でせせら笑う。
「た、大したことねえな」
嘘だ。あまりの美しさにひと目で心を射抜かれた。ウルスはこんなにも美しい人間を見たことがない。
「はあ?美意識死んでるんじゃないの」
ラルーカがゴミでも見る目をウルスに向ける。
「姿絵なんか盛って描いてるもんだろ。絶対本人は大したことねえよ」
いやいや有り得ない。必死に否定を口にして頭の中を振り切ろうとする。
相手は人間で種族も違うし、あまつさえ王子様、つまり男だ。ウルスと同じモノが股間に付いているということだ。
ウルスは誰よりも女が好きだ。しっとりと肉感的な豊かさを湛えた女性らしい女が好きだ。
確かにバショウの顔は美しい。しかし美麗ではあるが精悍な顔つきだし、すらりとしていて曲線的な体つきでもない。やはりどう足掻いても男なのだ。
「は?ちょっと自分が男前とか騒がれてるからって、全然路線の違うイケメンに嫉妬?みっともないわね」
「ラルーカ、お前なぁ」
「いいわ。直接ホンモノを見に行きましょ」
「は?」
「近々バスラで第三王女の成人を祝う舞踏会が催されるの。上のお兄様たちなら正式に招待されているでしょうけれど、ウルス兄様は七番目だからお誘いもなかったでしょ?」
「ああ、確か護衛を付けるかどうするかって、いつかの朝会で聞いたような……」
「はあ。ホントにいい加減なんだから。仕方ないから私からエドルクお兄様に頼んでみるわ」
エドルクは同じ母を持つダリオテレスの第一皇子、つまり皇太子だ。
「おいおい、兄貴に頼むってまさか、国を背負ってそんな舞踏会に出ろって言うんじゃないだろうな」
「バカね、そんなこと出来るワケないでしょ。お兄様のおそば付きとして潜り込むのよ」
「そんなの兄貴が許す訳がないだろ」
「そのために説得するんでしょ!近衛騎士団長自ら警護するのよ?一番違和感がない方法じゃない。ホント脳筋の相手は疲れるわ」
そう吐き捨てると、ラルーカは早速エドルクの元へ向かうためか、ウルスの部屋を出て行ってしまった。
「なんだよ。今日はえらくご機嫌だな」
ダリオテレスの第七皇子で、皇太子の近衛騎士団長を務めるウルスは、年頃になって減らず口を叩くようになった、第四王女で妹のラルーカの扱いに困っている。
「ふふーん。そりゃご機嫌にもなるわよ」
そんなラルーカが鼻歌を歌い、あまつさえわざわざウルスの部屋に乗り込んで来て笑顔を見せるから、つい声を掛けたのだ。
「何があったんだって聞けばいいのか」
「今日はね、お忍びで陸に遊びに行って来たの」
「ああ。なるほどな」
「そして遠くからだけど拝見できたのよ!マーラルたちが騒ぐのも頷けるわ。とにかくとても麗しい王子様だったのよ」
黄色い声で騒ぐラルーカがご機嫌な理由に見当がつくと、ウルスは途端に話題に興味が無くなる。
最近話題のバスラの第二王子、バショウがとんでもなくイケメンだと騒ぎになっているからだ。
燃える紅蓮に銀が混ざった珍しい色味の髪。日に焼けて引き締まった褐色の肌。すらりと背が高く、凛とした顔立ちは、ふとした時に見せる笑顔に少女のようなあどけなさを残した、いわゆる美少年だと聞く。
なんでもバショウ王子は、幼少から病弱で塞ぎがちな皇太子のスザクに代わり、最近になって本格的に政に加わるようになったそうだ。
スザクの面子のためか、あまり表立っては活動していないようだが、その控えめな態度も好感が持たれる要因なのだとか。
「へっ。たかが人間だろ」
妖魚族は人間とは一線を画す美麗な種族であり、なんと言っても他に類を見ない金色に輝く瞳が印象的だ。
ウルスは呆れたように吐き捨てると、窓に映る自身の姿を見つめる。
猛々しく金色に輝く瞳、緑がかった黒の艶めいた髪。鱗が浮かぶ青磁のような妖魚族独特の白い肌。鍛え上げた逞しい体つきでも、どこか貧弱に見えてしまう。
「これだから脳筋は、はぁ。ほら!見てみなさいよ、バショウ様の姿絵買ってきたの」
ラルーカが得意げに広げた姿絵を見て、ウルスは思わず息を呑んだ。
「…………っ」
「どうよ、これこそ本物の選ばれし王子様よ」
満足そうに得意げな顔をするラルーカの声で我に返ると、ようやく絞り出した声でせせら笑う。
「た、大したことねえな」
嘘だ。あまりの美しさにひと目で心を射抜かれた。ウルスはこんなにも美しい人間を見たことがない。
「はあ?美意識死んでるんじゃないの」
ラルーカがゴミでも見る目をウルスに向ける。
「姿絵なんか盛って描いてるもんだろ。絶対本人は大したことねえよ」
いやいや有り得ない。必死に否定を口にして頭の中を振り切ろうとする。
相手は人間で種族も違うし、あまつさえ王子様、つまり男だ。ウルスと同じモノが股間に付いているということだ。
ウルスは誰よりも女が好きだ。しっとりと肉感的な豊かさを湛えた女性らしい女が好きだ。
確かにバショウの顔は美しい。しかし美麗ではあるが精悍な顔つきだし、すらりとしていて曲線的な体つきでもない。やはりどう足掻いても男なのだ。
「は?ちょっと自分が男前とか騒がれてるからって、全然路線の違うイケメンに嫉妬?みっともないわね」
「ラルーカ、お前なぁ」
「いいわ。直接ホンモノを見に行きましょ」
「は?」
「近々バスラで第三王女の成人を祝う舞踏会が催されるの。上のお兄様たちなら正式に招待されているでしょうけれど、ウルス兄様は七番目だからお誘いもなかったでしょ?」
「ああ、確か護衛を付けるかどうするかって、いつかの朝会で聞いたような……」
「はあ。ホントにいい加減なんだから。仕方ないから私からエドルクお兄様に頼んでみるわ」
エドルクは同じ母を持つダリオテレスの第一皇子、つまり皇太子だ。
「おいおい、兄貴に頼むってまさか、国を背負ってそんな舞踏会に出ろって言うんじゃないだろうな」
「バカね、そんなこと出来るワケないでしょ。お兄様のおそば付きとして潜り込むのよ」
「そんなの兄貴が許す訳がないだろ」
「そのために説得するんでしょ!近衛騎士団長自ら警護するのよ?一番違和感がない方法じゃない。ホント脳筋の相手は疲れるわ」
そう吐き捨てると、ラルーカは早速エドルクの元へ向かうためか、ウルスの部屋を出て行ってしまった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
令和おとぎ話(1)「リトル・マーメイド(人魚姫)」~現代の童話集~
マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
恋愛
「美容整形=人魚姫が貰った姿を変える魔法」というアイデアを思い付いて書きました。
◆あらすじ◆
夕凪・人魚姫(ゆなぎ・いさき)は大学進学を機に都会にやって来たばかりの田舎娘。
超絶キラキラネームの割に外見は地味子だけど、純朴で優しくて頑張り屋さんな女子大生だ。
「バイト代が入ったし、今日は贅沢にハーゲンダッツでも買っちゃおうかな~♪」
今日も、生活費の足しにと始めた深夜のコンビニバイトを終え、ルンタッター♪ ルンタッター♪ とルンルン気分で自宅アパートへと帰宅していたのだが――、
「あれ、あんなところに誰か倒れてる」
偶然、通りかかった路地裏で、一人の青年がゴミ捨て場にぶっ倒れているのを目にしてしまった。
よく見るとかなりのイケメンで、スラリとした高身長に高級なオーダーメイドスーツを身にまとっている。
左腕にはコスモグラフ・デイトナ。
世界一有名な時計屋ロレックスの誇る、最高級の腕時計だ。
青年は学生の頃に企業した会社が、わずか5年で日本でも名の知られた新進気鋭のベンチャー企業になって東証プライムに上場し、さらには成長著しいスタートアップ企業をいくつも経営する、やり手の若手社長だった。
個人総資産は既に100億円を超えていて、経営者の界隈では知らないものはいないほどのやり手の若手経営者だったが、平凡な女子大生の人魚姫はそんなことは知りはしない。
「あの! 大丈夫ですか? こんなところで寝ていたら風邪を引きますよ?」
心優しき人魚姫が心配の余り声をかけたことから、人魚姫と青年社長の恋物語は幕を開けた――。
(*)カクヨム併載です
悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――
唯野晶
ファンタジー
【シリアス悪役令嬢モノ(?)。分からないことがあるのは幸せだ】
ある日目覚めたらずっと大好きな乙女ゲーの、それも悪役令嬢のレヴィアナに転生していた。
全てが美しく輝いているセレスティアル・ラブ・クロニクルの世界。
ヒロインのアリシア視点ではなく未知のイベントに心躍らせる私を待っているのは楽しい世界……のはずだったが?
「物語」に翻弄されるレヴィアナの運命はいかに!?
カクヨムで先行公開しています
https://kakuyomu.jp/works/16817330668424951212
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜
Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・
神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する?
月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc...
新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・
とにかくやりたい放題の転生者。
何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」
「俺は静かに暮らしたいのに・・・」
「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」
「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」
そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。
そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。
もういい加減にしてくれ!!!
小説家になろうでも掲載しております
異世界は黒猫と共に
小笠原慎二
ファンタジー
我が家のニャイドル黒猫のクロと、異世界に迷い込んだ八重子。
「チート能力もらってないんだけど」と呟く彼女の腕には、その存在が既にチートになっている黒猫のクロが。クロに助けられながらなんとか異世界を生き抜いていく。
ペガサス、グリフォン、妖精が従魔になり、紆余曲折を経て、ドラゴンまでも従魔に。途中で獣人少女奴隷も仲間になったりして、本人はのほほんとしながら異世界生活を満喫する。
自称猫の奴隷作者が贈る、猫ラブ異世界物語。
猫好きは必見、猫はちょっとという人も、読み終わったら猫好きになれる(と思う)お話。
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる