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南条家との出会い編
彼が李家の人間なら話は別だよ?
しおりを挟む「あ、れ…?」
「お、れは… な… に、を…っ」
正気に戻ったのか、今まで暴れていた彼は『頭が痛い』と頭痛をこらえるように眉をしかめて額に手を当てていた。
「南くん…!!よかった!正気に戻ったのですね!」
駆け寄る雪斗は両手を広げて彼に抱き着き、安堵した溜め息を吐く
「…っ!?」
そんな雪斗の突然の行動に驚いたのだろう彼は目を見開いて、
「と、義父さん!?ど、どうしたんですかいきなり…」
「………(やっぱり、本人は覚えてない…か)」
今の発言に些か眉を寄せる。…と、ぐらりと彼の体が傾いて崩れ落ちた。
「南くん!?」
「大丈夫、気を失っただけだよ。一時的とは言え、さっきまで暗示に掛かって暴れていたんだ。正気に戻ったなら尚更、負担が大きいんだろ」
「──で?雪斗、僕に先ず言わなきゃいけないことがあるよね?」
「ウィリアムズ…!」
唇をキュッと噛みしめる雪斗の表情に秘かに溜め息が零れる。その憂いた表情は学生だったあの頃だったら周りの人間が思わず息を呑むほど儚げな雰囲気を醸し出す。
……ま、本人は無自覚なんだろうけど。紳士的である僕に感謝してほしい。他の人間だったなら襲われてもおかしくない表情で。けれど、雪斗は信頼する人以外には冷めた表情しか見せない。学生時代に天下の副会長様と畏れられていたのはその為だ。
「そんな顔してもダメだよ?僕、最初に言ったはずだよねぇ?何か変わったことがあったら随時報告するようにって。これは雪斗だけじゃない、ファミリー全員に誓わせていることだ。君が一時の感情でそれを破れば他の者たちに示しがつかなくなる… 僕の言いたいこと、わかるよね?」
「そ、れ… はっ」
「他の者から報せを受けて急ぎで来てみれば… 」
俯く雪斗に溜め息が零れる。僕だって、雪斗に悪意が無いことくらいわかる。でも、僕が駆けつけたのが寸前で良かったものの、もしもあと数秒遅れていたら雪斗たちは怪我だけじゃ済まなかったかもしれない
「南くんには記憶が失くて、拾ったのは私ですし… そのまま放り出すことなんて出来ませんでした。それに、彼はとても良い子で…っ!私の心の拠り所として、養子に迎え入れたんです」
「その話ならある程度は遣いから聞いてるよ。…確かに、君が養子に迎え入れるのも自由だ。事後報告でも問題なかった… でもそれは、『普通の子』だった場合の話だ。彼があの『李家』の人間なら話は別だよ」
李家の人間を側に置くことがどれほど危険と隣り合わせなのか、雪斗が誰よりも一番知っているはずなのに…。
「…それでも、放って置けなかったんです。彼を…。側に置くことがどんなにリスクが高いか、危険なことかはもちろんわかっています。けれど、彼は、南くんはまだ子供で… あの一族から逃げて来たこの子を他人事のように思えなくて、だから…っ!」
きゅっと気を失っている彼を抱きながら、それでも揺るがない決意の宿った瞳を見て、溜め息と共に肩を竦める。雪斗が一度こうなればその意思は固く、頑として譲らないのは昔からだ。
───まったく、僕も一度 懐に入れた身内には甘いよねぇ…。
「じゃあ、君はどうするつもりなんだい?まさかと思うけど、長年に渡って掛けられた暗示も解かずに彼を学園に通わせようとかは思ってないよね?」
「そ、それは…っ」
「確かに、君の言うように彼は悪人とは思えない。けど、雪斗、君だってさっきの彼を見たはずだ。どこでスイッチが入るかわからない暗示を解かないことにはその子を学園に通わせるなんて無理だよ」
その子、のところでじっと雪斗に抱き抱えられて目を閉じている南とやらを見据える。
「……わかっています。自分がどれほど無謀なことを口にしているのかを。ですが、彼はまだ子供で普通なら学園に通う年頃です。昔の自分と似て非なる、彼を見て… 放って置けないのも私自身の我が儘です。
だから、
彼は… 南くんは私の学園に入れるつもりです。何かあればすぐに対処できるように…」
ぐっと拳を握りしめて僕を見上げる雪斗だけど、残念ながら僕の意見は… 反対だ。
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