― 閻魔庁 琥珀の備忘録 ―

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プロローグ

勇者サマの妄言がいい加減、耳障りなんですが

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立て続けに術を豪快に放つ琥珀はついにあと一歩のところまで鬼を追い詰めた。

「ふ…っ 小賢しい。ですが、それもここまでです」


俄かに笑みを吊り上げる琥珀に椿も琥珀に加勢すべく印を組む…

――‥ がしかし、ここで予想だにしなかったことが起こった。


『あぁーーっ!!!琥珀に椿も、お前ら俺を放って何してんだよ!?』

琥珀があと一歩、……のところまで追い詰めた時だった。
琥珀の耳に不快な声が聞こえたのは。


  ドォォオォン!!!

「…………」

そのおかげで捕縛の術の印を組んでいた琥珀は注意力が疎かになり、外してしまった。慌てて、再度印を組み、鬼に目掛けて術を放とうとしたその矢先、阻まれた。


 ドンッ!

「なにやろうとしてんだよ!?危ないだろ!!!」

こいつだって反省してる!捕まえるなんて可哀想だ!という勇者様に開いた口が塞がらない

『琥珀っっ!!!』

気付いたときには遅かった。

「…っ!しま…っ!?」

鬼はこの隙を無駄にせず、裁きの間に積み上げられた亡者の一人の現世の思い出の品を1つ手に取ると、そのまま輪廻の川に投げ入れ、一瞬こちらを振り返るとにぃーっと口角を上げた。


 そして、

普段では考えられない穏やかな輪廻の川が鬼に現世の思い出の品を投げ入れられたことにより、渦が巻き、異空間を作り上げた。

慌てて印を組むも、鬼は躊躇せずその渦に飛び込んでしまった。

愕然と立ち尽くす私に勇者様と取り巻きのエイたちが何か喚いているが耳にすら入らない。それほど、自分の失態に酷く動揺していた。


「まさか、あそこで術を、失敗しくじるなんて…」

だから、

動揺のあまり気付かなかった。

椿の後ろにいた隼人が鬼が手にした現世の思い出の品を『あれって… 俺が生きてたときに愛用してたBLゲームのソフトじゃ…』

しかし、ぽそっと呟いた隼人の言葉は椿にも届かなかった。


「………なぜ、私の邪魔をしたんですか」

それは自分が思っていたよりも低い冷気を帯びた声だった。

「ッな、なんで怒るんだよ!!?琥珀が悪いんだぞ!!いくら悪いヤツだからって痛めつけようとするなんて!!!」


琥珀は最低だ!!!と指をビシッと突きつける勇者サマは、一体何様のつもりでいるのでしょうか?
そんな勇者サマの言葉に便乗するかのようにエイ達が私に罵倒を飛ばしてくる…

あぁ、本当に…


キャンキャン吠える彼らを流し目に薄っすら笑みを浮かべると、椿は『あ゙ー… おいおい、止せ止せ止せ』と額を押さえている。

「そうやって閻魔を脅してるんだろ!!!」

……はい?

勇者サマが放った聞き捨てならない言葉に眉をひそめる

「じゃなかったらおかしい!!!俺が第一補佐官になるって言ったのに、閻魔は琥珀がいるからいいって!琥珀だけで充分だって!!」

そんなのおかしい!と地団駄踏む勇者サマに冷ややかな目を向ける。


「エイもライも!!天使たちも、他の王もみんな俺が第一補佐官に相応しいって!!俺もずっと疑問に思ってた!」

「…………」


「だけど、今の琥珀を見てわかった!!やっぱり琥珀が第一補佐官なのは駄目だ!人の痛みを知らないようなヤツに閻魔の側近は務まらない!!!

琥珀みたいな冷酷なヤツがやるよりも俺が代わりに第一補佐官になったほうがいいって!他の王も、エイとか鬼も言ってた!琥珀は武力行使だって!恐怖で支配する悪いヤツだってエイも言ってたし!!」


――‥ まったく、彼は何を言っているのでしょうか。恐怖で支配するもなにも、規律を乱す者に罰を与えるのは管轄者として当然のことだと思いますし、
でなければ、他の者に示しがつきません。彼は他の王も言っていたと言いますが、王とて馬鹿ではありません。

こんな滅茶苦茶な言い分が通用するような者に王など務まるわけがあるはずないでしょう。――‥ まぁ、大体のことは想像つきますが、恐らく隣で喚き立てる彼が仕事の邪魔になったのでしょう。


地獄界において、13王は特に休む暇があまり無いほど仕事に追われます。勇者サマの妄言に付き合っていられるほど暇ではありません。

 
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