― 閻魔庁 琥珀の備忘録 ―

文字の大きさ
上 下
36 / 41
- アルファード王国と黒い獅子 -

『 - 戸惑う感情 - 』

しおりを挟む
   

  ガウッ

『冷徹というのは否定はしないが。。君の場合はそれは仕方がないんじゃないか… 司法長サマ?』

    え、、

「なん、で… 知って・・・?」

驚いたあまり、目が大きく見開くのが自分でもわかる……。

「なに、簡単なことだよ。君は私を誰だと思っているのかな?歴代随一の魔力を誇る前魔王だ。そんな私が君に纏う異端な気配に気づかないとでも?地獄界の三権神の司法サマの名前は確か、鬼澄神だったかな?」

いつの間にか、もふもふの黒い大きな獅子から人型に戻ったアラルドはニコリと穏やかな笑みを向ける。


「司法の立場は他の三権神と違い、冷酷さも持ち併さなければならない。それは… 罪を犯した十二王を含め神をも裁く断罪という執行の職務を果たす上で必要不可欠。優しいだけではその職務は果たせない… それが司法という役職だ」

「…………」

「司法となる者は罪を犯した者の執行を務める者。慈愛も大切だが、冷酷さも持ち併さなければ何れその者の心ももたない。心が壊れるのは時間の問題だ」

爽やかな笑顔を向け、私の頭に手を置くと髪をクシャリとあやすように撫でる。


「……それでもって、裁く側がどんな時でも私情を挟んで与えられた職務に支障を出すわけにはいかない。だから、司法になる者の人選はそれらも含め慎重に選ばれると聞く」

   にこり、

「私が聞いた地獄界の司法の鬼澄は… 過去の出来事から人間が殺したいほど嫌いだと… 憎んでいる聞く。だが創世神により、地獄界の司法として任を与えられ就いた君は、心情を表に出さないよう極力、感情を抑えていると… 私は聞いているよ。私情を挟まないという上では完璧とまではいかないが、それでも本人は努力していると… 見ている者は見ているよ?君の努力をね」

そう締め括るアラルドに髪を撫でるその手を払い落とし、剣呑な眼差しを向ける。


「買いかぶり過ぎですよ…ッ!

それに!だいたいッなぜ、そこまで知って…ッ!それはッ 機密事項のはずです。三権神でも知っているのは限られているというのに…
歴代随一とはいえ、前魔王がなぜその話を…!」

口を荒くする私に臆することなく、アラルドは含んだ笑みを向ける。


「……ッ」

「創世神はまだ大人になりきってはいないとはいえ、殺めることに躊躇しないその冷酷さに目を付けて君を格上げし、地獄界の司法の職務に就かせたと聞く。だが、そんな司法もまた冷酷だけではやってはいけない。私情を挟んではいけないしね」


「だからっ!貴方は少々私を買い被り過ぎなんです!私は… 私は司法になる前の昔の記憶が……酷く曖昧なんです。ほとんどが抜け落ちていて、どれが正しい過去の記憶なのか、断片的な記憶は不確かで… どうしようもない不安に駆られるんです。なにか重要なことを…大切なことを忘れている気がして――‥ 」


『それは君が鬼になる前、のことかな?』


「そうかな?思い出せない記憶があるというのなら、それはまだ君にとって今は思い出す必要がない。…そう取れることもできると思うがね。それに、司法の立場も、閻魔の右腕という第一補佐官の立場も、君の実力があってことだと思うが」

「…………」


「まぁ、だけど」


ぽんぽん、と頭を撫でる優しい手のひらに意図せず心地よく思わず目を細めてしまう。けれどもそんな自分に気づかず、アラルドは優しい眼差しを向けてくる。


『───君を選んだには理由があると私は聞いたよ?』


ま、本人がどう解釈しているからはさて置き、創世神の意図は少し違うようだが、と小さく漏らしたアラルドの言葉は───… 聞こえなかった。

「…………」

    ふぅ、

「本当に… 何処から聞いたのか此方が聞きたいくらい何でもご存知なんですね」

最初は剣呑な眼差しを向けていたけれど、ここまで知っているのなら隠したところで仕方がない。


「だから、君が冷酷だと言われたところで気にする必要性はないと思うが」

「…………」

今、気付いたのですが…

「もしかして、私を慰めているんですか?」


首を傾げると、そんな私になぜかアラルドは苦笑する。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

処理中です...