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- 運命の分岐点と守りたいもの -

『魔の手が迫る王国と赤い満月』

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ジークの声に後押しされる形で、ドラゴン族の… 古の言葉を言葉無き内なる心で詠唱する。

金色の瞳が輝きを増し、金色の髪がうねる。眩い光で部屋が包まれる───…。眩い光に包まれるジキルドと分裂するように小さなドラゴンの形のシルエット、淡い光の塊がヒューンッと風を切って飛び出した。と同時に、ジークの切羽詰まった声が後ろから聞こえた。


『俺のことはいい!此処は任せろ!!お前は早くオーディットを… くっ!?』


《無駄だ…》

ジークと攻防を繰り広げるソレはこちらを嘲笑うかのように不気味に嗤う

《時は満ちた… 我らの時代がもうすぐそこまで来ている!この時を待っていた…ッ!幾年もの間、ずっとずっと…》


分裂し、残ったジキルドの人型の本体は歓喜に打ち震える。高揚に上擦った声、恍惚とした目はやがて狂喜を孕み、咆哮を上げた。


『───ッくっ、はや…く、行けッ』


ジークの声に再度押される形で、けれども再度振り返ることもなく、小さいドラゴンのシルエットの… 淡い光は愛しい腹違いの義弟を迫る闇から守る為に一心不乱に心許無いその小さな翼を必死に動かす。


(オーディット…っ!!!)

脳裏に浮かぶのは愛して止まないまだ幼い弟。屈託ない笑顔と心配そうに眉をひそめる表情、不安に揺れる瞳。羞恥に両手で顔を隠し、ベットに潜り込むオーディット。思い返すのはころころといろんな表情を見せた弟の姿───。


代々、ドラゴン王に受け継がられる禁忌とも云える秘術、分魂の術は本来の姿を、魂を二分にすることによって力もドラゴンの姿も二分の一しかない。

(───…それでも、)


たとえ、

力を半分に分裂してでも、

(オーディット…っ!)


必ず、守ると誓った。───あの日に。

【星降る夜に】の一節に、かけがえのない愛しいオーディットを守ると。

あの日に誓った言葉に嘘偽りはない。

───それを守るためにも、


(はっ…!)


「これは…  」

とてもそれどころではなかったからか、気付くのが遅れた。いったい、いつからか…。城に蔓延る今までに感じたことのない禍々しい瘴気しょうきにその目には剣呑さが帯びる。

「!?月が……っ」


その瞳を外へと移したとき、視界いっぱいに入るのは毒々しく、まるで血に染まったように赤く染まる禍々しい満月。

「しま――ッ!」

     (オーディット!!!)


嫌な予感が背中を駆けた。
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