断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。

- 王国の陰りと忌まわしき魔女の呪い -

『過去の因果と悲しみの記憶…』

広々とした大理石の回廊を抜けて、ふと夜空を見上げる。

「…どうやら、上手くいったみたいだな」

誰に言うでもなく、


「───だが、何もジキルドに噛み付く必要はなかったと思うが？」

その呟きは闇へと向けられる…。

つい、と視線を向ける先、壁際の影から現れたのは黒い生き物で。彼は一言。プモッ！と鳴いて姿を現した。

    プギュウ！

『ルティが嫌がることは許容しない。あのときのルティは怖がっていた。だから… 噛みついた』


ツン！とそっぽ向くバクに、ジークは頭痛をこらえるように額に手を当てている。

「だからって… ジキルドに攻撃はまずいだろう？あれでもドラゴンなんだぞ？いくら、仮の姿で人型を取っているとはいえ、やり方ってものが――‥ 」


大好きなルティもといオーディットがジキルドに騎士の誓いを立てられそうになった。それに対しても納得し難いことだというのに、愛しいルティが今にも倒れそうなほど顔色が蒼白になっているのを見逃せなかったバクは乱入という形でジキルドの手に噛みついたのだった。

     プキュゥ！

『じゃあ、あのまま見てろって？キミは言うのかい？ジーク！あれじゃあルティがいつ倒れてもおかしくなかった！』

ジキルドがルティもといオーディットを掴み掛かった件をバクは重く見ている。魔女の呪いという不穏分子だけでなく、ジキルドはルティに実際攻撃してしまった。…あげくは騎士の誓いを立てようとした。それが許せなかったのだ。

「だが、フラミー」

そう呼び止めたジークに眉をひそめる。

     プモッ！

『ルティが混乱するから、今はバクって呼んで』

バクは黒い小さな体を翻す。
ボフン！という煙と共にそこに現れたのは… 黒目黒髪の超絶爽やか系の青少年が腕を組んで立っていた。

『大体さ、ジキルドにも問題があるんじゃないの？』

「………はぁ、お前の言いたいこともわかる。だが、今回は前回・・とは違う。あの子は生き延びた。だが、前回とは状況も違う。なぜなら、今回はイレギュラーが起きて、全ては予想だにつかないからだ」

『わかってるさ、そんなこと！この世界の命運を握るのがルティだっていうことも…。この呪われた世界を終わらせることが出来るのも、またルティしかいないということも…。全ての始まりはルティの死だった！あの子が一番最初に死んだとき、全てを呪ったことが始まり…。

《死は始まりに過ぎない…》

それが一番最初のあの子がバルキア帝国の兵士に斬りつけられたときに口にした、命が絶たれたときの最後の言葉だった』

悲痛な面持ちでバクは俯く。そして、ジークも… その瞳には深い悲しみと憂いを湛えていた。