上 下
22 / 88

『なぜか、姉の身代わりをやれと言われました』

しおりを挟む

─────……
───…

「父上、アランです」

扉をノックすると、すかさず『入れ』という父の声が聞こえた為、中に入るとそこには執務机で組んだ手の上に顎を置き、深い深い溜め息をつく父上がいた。

「……父上?」

『ああ、来たかアラン』


そう言う父上は酷く顔色が悪い。やはり、何かあったんだろうか?そして、思いつめた表情の父上がやっと口を開いた。

『…単刀直入に言おう。すまない、アラン。姉の代わりに殿下の… 王太子の婚約者を務めてほしい』

「……は?」


・・・あっれ?おかしい。姉上に付き合わされて毎日寝不足に見舞われている僕の耳がとうとうおかしくなったらしい。あの厳格な父上の口から出たあるまじき言葉に思わず耳を疑った。

「すみません、父上。最近、寝不足が酷くて…」


どうも、言葉を聞き間違えたみたいですと笑顔で言えば父上はその表情をしかめた。

『…いや、聞き間違えなんかじゃない。お前が自分の耳を疑う気持ちはわかる。だが、もう… これしかないんだ』


「・・・・」

笑顔のまま固まった、いや、顔が引き攣る僕の反応は何もおかしくないと思う。

『はぁ、ソフィアが… 家出したんだ』

固まる僕を見て、さすがに罪悪感を覚えたのか父上はそう切り出した。

「は… え、姉上が家出したんですか!?」

『そうだ。ソフィア付きのメイドが朝、部屋に入ったときに気付いたらしい。机に置き手紙があったそうだ』


そう言って酷く焦燥した表情の父上は頭を抱えていた。

『これと言って、あの子の最近の様子に特に変わったところもなかった!敢えて言うなら、王太子との婚前だというくらいしか…。だが、この婚約はそもそもあの子のほうから強請ったものだ。嫌になって逃げ出した、とは考えにくい。だから、何に不満があってこんな状況を招いたのか、検討がつかん…っ!』


・・・いや、間違いなく、それでしょ。つか、えっ…まさか昨日の今日で、え!?こんな行動に移すなんて… これ、ひょっとして、僕だけが真相を知ってる?……でも、もし父上に。いや、やっぱりダメだ!僕までもが絶対にとばっちりが来ることは目に見えている!

ってことはあれか。

姉上は家出というより、駆け落ち…?


『───そういうわけだ。こちらから、縁組みを申し込んで置きながら、こちらの都合で白紙というわけにはいかんだろう?婚約破棄にしたって、そうだ。下手をすれば我が公爵家の評判が落ちるばかりか、王家との信頼関係までに影響する…。』

う、ん…?だからって、なんで僕が代わりに?


『だ… だから、だな?その、お前に… 姉のソフィアに代わってその身代わりを務めてほしいのだ』

妙案だとばかりにこちらを見た父上がなぜか瞬時に表情を強張らせた───。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

ただの悪役令息の従者です

白鳩 唯斗
BL
BLゲームの推し悪役令息の従者に転生した主人公のお話。 ※たまに少しグロい描写があるかもしれません。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

学園生活は意外と大変

白鳩 唯斗
BL
毎年恒例の親族達の日帰り旅行で、事故が起きた。家族を全員失った魁星は、葬式に参加する。 そこで、唯一生き残った親族、はとこの雪人の存在を知ることになる。 権利争いが起きないようにと、魁星が雪人を養子に迎えることになり、父親になってしまう。 15歳の魁星は高校に通いながら、6歳のはことの面倒を見ることになる。 面倒見の良い優しい主人公です。 シリアスは少なめかもしれません。

処理中です...