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始まりは…

『僕の安眠のために殿下に一刻も早く姉上を引き取ってもらいたい』

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「僕は現実主義者リアリストなだけですよ、あなたと違って」

ムッと眉を寄せて正論を突きつける。

なんでこうも、姉上にイラッとくるのか…。
一度は僕に反抗期の訪れでも来たのだろうかと思ったこともあったけれど、きっと違う。僕の頭痛と憂鬱の元凶たる原因は間違いなく姉上だ。姉上に決まっている。

『アランってば、いつから反抗期になったのよ?』


部屋に置いてあったクッションを抱き抱えて、ブーブーと頬を膨らます姉上にますます頭が痛くなる。……そのうち、僕は胃までもが痛くなりそうだ。

そう考えると、殿下に一刻も早く姉上を引き取ってもらいたい。そう… 僕の安眠のために!そうすれば毎夜毎夜、僕の部屋に押しかけ深夜遅く… いや、時には早朝まで乙女ゲームとやらの話を興奮気味に聞かされることもなくなるのだろうと思うと、それもあと少しの辛抱だと自身に言い聞かせる。

  一番、何が苦痛かって?

毎回毎回、ほぼほぼ同じ内容の話を延々と繰り返し聞かされるんだ。どこの新興宗教の教祖サマだよ!と突っ込みたくなるほど、それはもう洗脳じゃないかと思っている。

小さい頃から延々と姉上に聞かされていた僕は一言一句間違いなく語れる自信はある。

けれど、そんな姉上を無下にできないのは姉上がその話をできる人というのが早々いないからである。姉上は公爵令嬢。貴族の中で上位に立つと言っても、貴族社会は化かし合いとスキャンダルと蹴落とし社会である。

たとえ、王族からの信頼が厚かろうと他の貴族を束ねるトップに立とうと… 信頼における人間は限られている。ニコニコしていても、実際には腹の探り合いで一瞬でも相手に弱みを見せてしまえば、たちまち食われてしまう。

貴族社会とはそういうものだ。

だから、姉上に群がる取り巻きの令嬢もいるけれど、姉上はいつだって孤独。孤高に振る舞わなければいけない。少しでも隙を見せないために。

特に、女性ひいては令嬢たちの社会は男性よりもなかなか過激なものだと僕は認識している。

罵倒、裏切り、スキャンダル、噂… 

それを面白おかしく流すのもまた令嬢や貴婦人方が多い。それが貴族の性と言われればそうかもしれない。そういうこともあり、また内容が内容だけに父上に話せば心の病と疑われ兼ねない… だから、姉上はその話をする相手に僕を選んだ。

そして、僕もそんな姉上を放っておけなくて、つい手を取ってしまった。

……だけど、

それが安眠の妨げになると誰がそのときに思う?まさか姉上が皆が寝静まった頃を見計らって僕の部屋に押しかけてくるとはそのときは思わなかった。
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