36 / 36
- ファンタジア王国と王都フィル -
古代魔法と疑惑の眼差し
しおりを挟む
「……それにしても、軽すぎる」
見目麗しいエルフ様はそう言ってその端正な眉をひそめた。
家では何も食べさせてもらえないのか?と言われて慌てて首を振る。
「ち、ちが…!残飯だけど、コックに貰って…」
言ったのがまずかったのかもしれない。
「アクラス家ではご飯も満足に食べさせて貰えないのか?」
自分がやったしまった失態にサッと青ざめる。
「…まだ顔色が悪いな。なにを勘違いしているか想像するに容易いが、別にお前に怒っているわけじゃない」
「え?」
「いや、なんでもない。気にするな」
もしかして、実は… いい人?
「……あの、自分で歩けます」
「その脚でか?」
さっき、派手に転んだだろう?と言われて初めて足から血が出ていることに気が付いた。
ズキズキと急に痛み出す脚の怪我に顔をしかめていると、クラウド様はふぅ、と小さく息を吐いて僕の傷口にそっと手を翳し、
『щпожЫЭЖξδεζι――… 』
「(これは… 古き言葉!)」
エルフの言葉とは違う古代魔法の詠唱に目をぱちくりとさせる。淡く光がその手の平から放たれると瞬く間に傷口が塞がっていて…
「どうだ?」
「痛くない…です」
「あ、ありがとうございます」
古代魔法は今、この世界では失われつつある文明の一つである。…というのも、その名のとおり、古き時代に使われていた魔法が主であり、今現在使われている現代魔法よりも遥かに力が凌ぐからだ。
遥か昔の大戦により、多くの書物が焼失した…。その多くのものが古代魔法の禁術書だと聞く。それにより、師から弟子へと口伝による方法で… ごく一部の、限られた者にしか伝わっていないそれはまさしく秘術に近いものだった。そしてそれは大抵、精霊が視える者で・・・
それは即ち、
(く…っ!)
そう、不本意ながら私にも扱えるんです…!それも、師もいないというのに、何の因果か、頭にスラスラと知識が入っていて… 本当この世界の神様の嫌がらせとしか思えません!!
ただでさえ、魔法が使えるというのが厄介な上に、精霊まで視える… あげく、限られた者しか扱えることが出来ない古代魔法を扱えるということが公にバレてしまったら… 破滅です!!!身の破滅という未来しか見えないんですがっっ!!
それに、あの根の腐った親にこれがバレてしまえばどんな悪事に利用されるか、たまったものじゃありません!!だから、ずっと魔法を使えることを隠してきました。練習も周りに人がいないことを確認した上でやってきましたが、ハッキリ言ってその練習も必要性が感じられないほど自分で言うのもあれですが、完璧で…
だから、エルフが、クラウド様が古代魔法を使っているのを目の当たりにしても特に驚きもなにも感じませんでした。
…そう、それが、
「古代魔法を見ても大して驚かないんだな?」
まさか自分の未来をある意味、変えることになるだなんて… 誰も思わないじゃないですか!
「え、っ」
ハッとして自分の犯した失態にようやく気づく。
「普通の人間は古代魔法を使えない。目の前で見せても驚かないなんて大したものだな」
「え、あっ…!お、驚いて声が出なかったんです!!その魔法は使える人がいないという話なのに、目の前でお目に掛かれるなんて…」
慌てて苦し紛れに咄嗟に思いついた私の言い訳に、気のせいでしょうか… エルフ様のその瞳が何もかもを見抜くように細く細められたのは──。
……どうしてか。このとき、嫌な予感が背中を駆け抜けた。
見目麗しいエルフ様はそう言ってその端正な眉をひそめた。
家では何も食べさせてもらえないのか?と言われて慌てて首を振る。
「ち、ちが…!残飯だけど、コックに貰って…」
言ったのがまずかったのかもしれない。
「アクラス家ではご飯も満足に食べさせて貰えないのか?」
自分がやったしまった失態にサッと青ざめる。
「…まだ顔色が悪いな。なにを勘違いしているか想像するに容易いが、別にお前に怒っているわけじゃない」
「え?」
「いや、なんでもない。気にするな」
もしかして、実は… いい人?
「……あの、自分で歩けます」
「その脚でか?」
さっき、派手に転んだだろう?と言われて初めて足から血が出ていることに気が付いた。
ズキズキと急に痛み出す脚の怪我に顔をしかめていると、クラウド様はふぅ、と小さく息を吐いて僕の傷口にそっと手を翳し、
『щпожЫЭЖξδεζι――… 』
「(これは… 古き言葉!)」
エルフの言葉とは違う古代魔法の詠唱に目をぱちくりとさせる。淡く光がその手の平から放たれると瞬く間に傷口が塞がっていて…
「どうだ?」
「痛くない…です」
「あ、ありがとうございます」
古代魔法は今、この世界では失われつつある文明の一つである。…というのも、その名のとおり、古き時代に使われていた魔法が主であり、今現在使われている現代魔法よりも遥かに力が凌ぐからだ。
遥か昔の大戦により、多くの書物が焼失した…。その多くのものが古代魔法の禁術書だと聞く。それにより、師から弟子へと口伝による方法で… ごく一部の、限られた者にしか伝わっていないそれはまさしく秘術に近いものだった。そしてそれは大抵、精霊が視える者で・・・
それは即ち、
(く…っ!)
そう、不本意ながら私にも扱えるんです…!それも、師もいないというのに、何の因果か、頭にスラスラと知識が入っていて… 本当この世界の神様の嫌がらせとしか思えません!!
ただでさえ、魔法が使えるというのが厄介な上に、精霊まで視える… あげく、限られた者しか扱えることが出来ない古代魔法を扱えるということが公にバレてしまったら… 破滅です!!!身の破滅という未来しか見えないんですがっっ!!
それに、あの根の腐った親にこれがバレてしまえばどんな悪事に利用されるか、たまったものじゃありません!!だから、ずっと魔法を使えることを隠してきました。練習も周りに人がいないことを確認した上でやってきましたが、ハッキリ言ってその練習も必要性が感じられないほど自分で言うのもあれですが、完璧で…
だから、エルフが、クラウド様が古代魔法を使っているのを目の当たりにしても特に驚きもなにも感じませんでした。
…そう、それが、
「古代魔法を見ても大して驚かないんだな?」
まさか自分の未来をある意味、変えることになるだなんて… 誰も思わないじゃないですか!
「え、っ」
ハッとして自分の犯した失態にようやく気づく。
「普通の人間は古代魔法を使えない。目の前で見せても驚かないなんて大したものだな」
「え、あっ…!お、驚いて声が出なかったんです!!その魔法は使える人がいないという話なのに、目の前でお目に掛かれるなんて…」
慌てて苦し紛れに咄嗟に思いついた私の言い訳に、気のせいでしょうか… エルフ様のその瞳が何もかもを見抜くように細く細められたのは──。
……どうしてか。このとき、嫌な予感が背中を駆け抜けた。
1
お気に入りに追加
913
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
優しい庭師の見る夢は
エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。
かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。
※主人公総受けではありません。
精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。
基本的にほのぼのした話になると思います。
息抜きです。不定期更新。
※タグには入れてませんが、女性もいます。
魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。
※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。
お付き合い下さいませ。
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
ヒロインの兄は悪役令嬢推し
西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
気になって読んでみたんですが、最高です😭👏✨
魔道団長?エルフの人が主人公に加護欲をそそられているところとかめっちゃいいです✨精霊結構鬼畜ww。更新楽しみにしています!!
嬉しいコメントありがとうございます!!
エルフはいいですよね!確かに精霊は鬼畜かもですww(๑╹ω╹๑ )
3日以内には更新できるかと思うので、もう、暫しお待ちください(●´ω`●)
更新ありがとうございます!待ってました!!
主人公の過去と現状が酷すぎて泣けます…
そういうとこ好物ですが、やはり徐々にでも愛されて幸せに欲しいです。
今後のキャラに期待してます!
長らくお待たせしました!
コメント嬉しいです!ありがとーございます(●´ω`●)
ですねー!主人公にはぜひとも幸せになってもらいたいですね🙂また、随時更新していきますのでよろしくお願いします(*´∀`*)
コメントありがとーございます(*´∀`*)
確かに、会長は… ちょっとヘタレですねwカッコイイところもあるんですけど(笑
5月末までにまた更新出来たらと考えていますのでよろしくお願いします(*´꒳`*)ノ