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- ファンタジア王国と王都フィル -

エルフと攻略対象者

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「ハァハ…ァ…ッ!」


も… っ もう限界ですっ!!!ちらりと後ろを見れば、ひぃぃっ!まだ追いかけてくる…!!

後ろに気を取られたのがいけなかったのかもしれない。いえ、というよりも… そもそも運動神経ゼロの私が此処まで走れたのも、奇跡に近かったのかもしれません。


足をもたつかせ、

「ぁ…っ!」

気が付いたときには遅く、


ベシャッ!という音。スライディングと共に顔を派手に地面に打ち付ける私は… いろんな意味でもう限界です…っ! う"ぅー… なぜ、私だけこんな目に…っ

絶望感ばかりが心を満たしていく。

もう… 疲れてしまって、この先を思うと悲観しかない。このまま、精霊に殺されたほうがマシなのかもしれない。

「ぅ…っ!ひ、っ…くッ」

泣かないって決めたのに。


ぽろぽろと次から次へと涙がこぼれ落ちる───。

   そんなときでした。


『…何を泣いている?』

「は、ぇ?」


パチクリと、涙で濡れた目で相手の姿を捉えると、

「ぅわ…っ!」

その人は僕の両脇に手を入れ、いとも簡単にふわりと持ち上げました。


「あ、あの…?」

目の前のその人は白銀に輝く美丈夫で。

幾多もの布が折り重なった品のある白い神聖な衣装、その袖口には金色の刺繍がきめ細かく刻まれており、誰もが見惚れる白皙はくせきの美貌と、魔力と智力を併せ持つ瞳… 


  さらには、

滑り落ちるようなさらさらとした銀糸ぎんしのような髪、端正さと華やかさ、そしてその美麗な顔。極め付けは… 尖った耳。

 って。ちょっと待ってください!!なぜに、ここにエルフがいるんですか!
しかもこの人…!ヒロインの攻略対象者だったはず。名は確か…


クラウド・レナード。

訳ありで、この国の魔術師長。


種族はエルフで、しかもエルフの中でも特に人間と関わることを嫌うとされている… 。
しかし、実際は嫌っているのではなく、ただ単に人との接し方で不器用なだけで… 持ち前の仏頂面と口数少ないことが誤解を生み、敬遠されているとかいう設定だったはず。

しかし本人は、だからと言って特に気にはせず、関わる必要性もないからと敢えてそのままにしているという話。

確か昔、姉だったあの人が乙女ゲーに出てくるこのエルフについてよく語っていたのを思い出す。なんでもヒロインはそんな誤解はよくないと、周囲の誤解を解き、そんなヒロインの一途さ、純真無垢な気持ちに絆され恋に落ちるとかなんとか言っていたのを思い出します… あの人のタイプではなかったようですが。

……そんな人がルイ・アクラスとこうして会うなんて… ゲームの設定上になかったと思うんですが!?確か、彼と会ったのは… ルイ・アクラスを裁きの間で断罪する場面だった、は…ずッ!?ってことはまさか… まさか…っ!

「ふ、ぅ…っ!ひっく!」

涙が止まらない。

『おい?ま…t』

「あ、あんまりで…すっ!わ、私が… ひっく!私が何をしたって言うんですか…っ ぅわぁぁぁあぁぁあぁん!!!!」


恥ずかしげも無く、思いっきり… 幼子のようにわんわん泣き喚く私を目の前のエルフは放置するでもなく、眉を寄せるでもなく、幼子のように泣き続ける私を見据えると…

「ほぇ?」

『泣くな。…目が腫れる』

エルフに抱き抱えられていました。
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