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【番外編3】同棲後の修羅場(4.奪われた感情)
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一筋。
闇の中に光が見えた。
瞼が重い。石のようだ。こじ開けるように目を見開く。
ボツボツ。細かい穴。
細かい穴がランダムにあいた白い天井が見える。天井に埋め込まれた蛍光灯が、突き刺すように瞳孔を照らしてくる。光が痛くて目を細めた。
・・・ここ・・・どこ?
不思議に思って身体を起こした途端、燃え盛るような激痛が腹部に走った。
「いっ!」
あまりの痛みに、腹部を両手で覆う。ゴテゴテとした物が指に触れた。傷を保護するための腹帯だった。腕には細長いチューブが繋がれており、透明な液が体に流れ込んでいる。点滴だ。
私はベットの上にいた。すぐそばにある医療機器のモニターで、緑の線が規則的に波を打っている。どうやらここは、病院の個室らしい。自分の状態を理解した途端、記憶が蘇った。
私・・・お腹に包丁を刺したんだ。
そんな事をしたつもりはなかった。でも、自分の弱さに耐えきれず、身体に怒りをぶつけた感覚は残っていた。
強くなろう、この状況に慣れよう。そう思ったのに・・・結果はコレだ。
やっぱり・・・
弱いままなんだ・・・私
「ハハ・・・」
頬の肉がヒクヒクと痙攣し、笑いが込み上げてきた。
「アハハハ!!!もー!全然慣れてないじゃん、私!!!」
可笑しくてたまらなかった。声を上げて笑う度に、内臓をえぐるような痛みが体を襲う。どうでもいい。いっそ割けてしまえ。ぐちゃぐちゃになればいい。
笑い転げていると、大きな手に肩を掴まれた。
「望!」
声の主に、顔を向ける。多波さんだった。ベッドの横に立っている彼を見た瞬間、驚きのあまり息が止まった。
・・・酷い顔。
頬はこけ、髭がまばらに伸びている。目は落ちくぼみ充血しているのに、瞳は爛々と光っていた。
多波さんがナースコールを押すと、病室の外から慌ただしい足音が近づいてきて、医師と看護師がやってきた。私の容体を確認すると病室を去り、再び多波さんと二人きりになった。
ベッドの横に置かれたパイプ椅子に、彼は項垂れるようにして座り込み、唇を噛み締めていた。その悲痛な表情を見ていられなくて、私は必死に言葉を紡いだ。
「・・・ごめんなさい、割れたコップの片付けをしてたら、うっかり滑って・・・」
「俺が悪い」
「・・・え?」
「ずっと考えていた。俺のすべき事を・・・気づくのが、遅過ぎた。本当にすまない」
「なんで謝るの?多波さんは病気だから、悪くないよ」
多波さんはゆっくりと顔を上げた。そして、喉から絞り出した嗚咽のような声で、私に語りかけた。
「辛かったよな・・・俺が女と寝ていて、嫌だったよな。本当に・・・すまない」
恐怖。途方もない。底なしの。彼の発したその言葉は、私にとって恐怖そのものだった。
やめて・・・そんな事言わないで・・・
必死に頬の筋肉を吊り上げ、私は満面の笑みを作り上げた。
「大丈夫だよ!もう慣れたから!」
とびきり明るく言えたのに、多波さんはますます痛ましい表情になった。
「全部、俺が悪い。彼氏が他の奴と寝ていたら、傷ついて当たり前だ。望は何も悪くない」
彼の否定的な感情に、私は必死に抗議した。
「当たり前じゃないもん!大丈夫だもん!多波さんは優しいもん!他の女と寝てるのは、オバケだもん!」
興奮するように身を乗り出すと、彼は私の肩を押さえつけるようにして、ベッドに戻した。鼻先にある大きな瞳が、真正面から私を見つめている。多波さんは言った。ハッキリとした、強い口調で。
「オバケなんていない」
「・・・え」
「俺がやってるんだ。理性が無くても、意識がとんでも、俺がやってるんだ。俺がそう思いたいんだ。思わないと、いけないんだ。でないと俺は、ずっと望を苦しめる」
「苦しくなんかないよ。私、多波さんと一緒で幸せ・・・」
「俺は自殺しない。もう二度と。約束する」
「え・・・」
――自殺
その言葉が頭の中いっぱいに反響し、体が記憶に引き摺り込まれる。
一年前。アパートのキッチン。私は血だまりにへたり込んでいる。赤黒く染まっていくスカート。掌を濡らす生々しい温もり。血の泉に横たわる巨体。
はぁ・・・はぁ・・・
「望」
優しい声の後、右手に温もりを感じた。意識が病室に引き戻される。
私はいる。病室にいる。私の手を、多波さんが包み込んでくれている。大きな手の温もりが、あのキッチンの光景をかき消していく。彼は包み込んだ手を、もう一度力強く握った。
「あの時は、本当に辛い思いをさせた」
その言葉に顔を上げる。彼と視線が重なった。憂いに満ちた真っ直ぐな眼差し。胸が潰れそうだった。
「俺の自殺未遂が、望を追い込んだ。望から、嫌という感情を取り上げてしまった・・・気づくのが遅すぎた。本当にすまなかった」
私の手を握ったまま、彼は懺悔するように頭を下げた。
「これ以上、望を苦しめたくなくて、俺は死を選んだ。そう思っていた。でも、考えてみれば、ただの逃げだった。どんなに足掻いても変わらない状況で、望を傷つけて、無力な自分に絶望していたんだ。・・・もう、現実に打ちのめされたくなかった・・・最低だな。本当に」
「・・・多波さん」
「結局、俺の自殺未遂は、望をさらに傷つけた。君から奪ってしまった。君の感情を。望にとっても、俺にとっても大切な、嫌という感情を」
彼は私の両肩に手を添え、真っ直ぐにこちらを見据えた。目の前の大きな瞳が、蛍光灯の光を受けてギラギラと乱反射している。多波さんは、切望した。身を裂くような、切実な声で。
「頼む。望の本当の気持ちを、聞かせてくれないか。辛い時は辛い、嫌な時は嫌だと言ってくれないか。俺は全力で受け止める。残った傷はいつか必ず、俺が癒す。一生をかけて・・・だから・・・」
そこまで言うと、多波さんは口をつぐんで、うなだれた。病室が沈黙に沈む。医療機器の規則正しい音だけが、部屋に響いている。彼は私の肩を握ったまま、何分経っても離れなかった。この病室で、このまま何年も過ぎて、一生が終わってしまう気がした。でも、私の一言が沈黙を崩した。
「・・・嫌い」
声と一緒に涙がこぼれ、手の甲でパタリと跳ねた。
「嫌い・・・多波さんなんか、大っ嫌い」
拳を振り上げ、たくましい胸板に思い切り叩きつけた。
とんっ!
全力で叩いたのに、弱々しい音だった。それでも、叩いた。何度も、何度も、何度も。
「クズ!人でなし!大っ嫌い!なんで、女連れ込むの!?学習能力ないの?どんな気持ちで、私があの部屋にいると思う?分からないなら、愛してるなんて言わないで!上辺だけの言葉なんていらない!多波さんが優しくするから、離れられないじゃない!こっちの身にもなってよ!!多波さんなんか、大嫌い!バカ!嫌い!嫌い!大っ嫌い!!」
傷の痛みも忘れて、叩き続けた。体内で荒れ狂う激情が皮膚を突き破り、体をミンチにしてしまいそうだった。
嫌――
ずっと殺してきた感情だった。私が嫌と言えば、多波さんは傷つく。そうしたら、彼はまた命を絶とうとするかもしれない。それだけは避けたかった。だから、私は殺した。彼に対する負の感情を。殺してきたはずなのに、とまらない。暴言も、拳も。
恨んでいる。私は、こんなにも彼を恨んでいる。女と寝る彼、暴力を振るう彼、それを謝る彼、なのに繰り返す彼、なのに優しい彼。何もかも全てが憎い。憎い。憎い。反吐が出る。彼との記憶が憎悪となって、私の口と拳を駆り立てた。
多波さんは、されるがままだった。ただ私を見つめ、じっと暴言に聞き入り、拳を胸に受け続けていた。
暫くすると、広い手が私の上に降りてきて、そっと頭を撫でた。大切なモノを、慈しむような手つきだった。その手が私を抱き寄せる。優しい匂いが鼻先をかすめた。
「望を苦しめているのは、俺なのに・・・俺は、まだ・・・君と一緒にいたいんだ・・・本当に・・・手に負えないクズだ」
あの声と同じだった。三年前、アパートで「君と一緒にいたい」と言ったあの声と。私が多波さんの本当の気持ちを知った、三年前のあの時から、彼は何一つ変わっていなかった。
ずるい・・・ずるいよ・・・
「嫌い、嫌い・・・多波さん・・・なんか・・・」
彼の温もりが洪水のように流れ込んでくる。止められない。体内を激しく揺さぶられ、押さえつけた感情が、なすすべもなく沸き上がる。
嫌いなのに、憎いのに、どうして・・・こんな気持ち・・・無くなればいいのに。全部、全部・・・消えればいいのに。
どんなに抵抗しても、無駄だった。涙がとめどなく頬を伝い、抑えきれない感情が、堰を切ったように溢れ出した。
「・・・好き、私も多波さんが好き、大好き。他の人じゃヤダ。多波さんじゃないと、嫌だ!!多波さんじゃなきゃダメだよ!!わああああああああ!!!!!」
私はグシャグシャの顔を、大きな胸板に押しつけて泣いた。
「いつか必ず、望を幸せにする。一生をかけて、本当の幸せを、君に捧げる。それが俺の夢だ」
子供のように泣きじゃくる私を、多波さんは、ただひたすら抱きしめていた。
多波さんは「俺が悪い」と言うけれど、結局、私だってワガママだった。彼を心配するふりをして、自分の心配をしていた。彼が死んで、一人取り残されるのが怖かったんだ。
バン!!!!
突然、大きな音が病室に響いた。病室の入り口のドアを、乱暴に開け放った音だった。ドアを開けた人物を見て、私は目を丸くした。
息を弾ませながらドアの前に立っていたのは、FS会のサラだった。
闇の中に光が見えた。
瞼が重い。石のようだ。こじ開けるように目を見開く。
ボツボツ。細かい穴。
細かい穴がランダムにあいた白い天井が見える。天井に埋め込まれた蛍光灯が、突き刺すように瞳孔を照らしてくる。光が痛くて目を細めた。
・・・ここ・・・どこ?
不思議に思って身体を起こした途端、燃え盛るような激痛が腹部に走った。
「いっ!」
あまりの痛みに、腹部を両手で覆う。ゴテゴテとした物が指に触れた。傷を保護するための腹帯だった。腕には細長いチューブが繋がれており、透明な液が体に流れ込んでいる。点滴だ。
私はベットの上にいた。すぐそばにある医療機器のモニターで、緑の線が規則的に波を打っている。どうやらここは、病院の個室らしい。自分の状態を理解した途端、記憶が蘇った。
私・・・お腹に包丁を刺したんだ。
そんな事をしたつもりはなかった。でも、自分の弱さに耐えきれず、身体に怒りをぶつけた感覚は残っていた。
強くなろう、この状況に慣れよう。そう思ったのに・・・結果はコレだ。
やっぱり・・・
弱いままなんだ・・・私
「ハハ・・・」
頬の肉がヒクヒクと痙攣し、笑いが込み上げてきた。
「アハハハ!!!もー!全然慣れてないじゃん、私!!!」
可笑しくてたまらなかった。声を上げて笑う度に、内臓をえぐるような痛みが体を襲う。どうでもいい。いっそ割けてしまえ。ぐちゃぐちゃになればいい。
笑い転げていると、大きな手に肩を掴まれた。
「望!」
声の主に、顔を向ける。多波さんだった。ベッドの横に立っている彼を見た瞬間、驚きのあまり息が止まった。
・・・酷い顔。
頬はこけ、髭がまばらに伸びている。目は落ちくぼみ充血しているのに、瞳は爛々と光っていた。
多波さんがナースコールを押すと、病室の外から慌ただしい足音が近づいてきて、医師と看護師がやってきた。私の容体を確認すると病室を去り、再び多波さんと二人きりになった。
ベッドの横に置かれたパイプ椅子に、彼は項垂れるようにして座り込み、唇を噛み締めていた。その悲痛な表情を見ていられなくて、私は必死に言葉を紡いだ。
「・・・ごめんなさい、割れたコップの片付けをしてたら、うっかり滑って・・・」
「俺が悪い」
「・・・え?」
「ずっと考えていた。俺のすべき事を・・・気づくのが、遅過ぎた。本当にすまない」
「なんで謝るの?多波さんは病気だから、悪くないよ」
多波さんはゆっくりと顔を上げた。そして、喉から絞り出した嗚咽のような声で、私に語りかけた。
「辛かったよな・・・俺が女と寝ていて、嫌だったよな。本当に・・・すまない」
恐怖。途方もない。底なしの。彼の発したその言葉は、私にとって恐怖そのものだった。
やめて・・・そんな事言わないで・・・
必死に頬の筋肉を吊り上げ、私は満面の笑みを作り上げた。
「大丈夫だよ!もう慣れたから!」
とびきり明るく言えたのに、多波さんはますます痛ましい表情になった。
「全部、俺が悪い。彼氏が他の奴と寝ていたら、傷ついて当たり前だ。望は何も悪くない」
彼の否定的な感情に、私は必死に抗議した。
「当たり前じゃないもん!大丈夫だもん!多波さんは優しいもん!他の女と寝てるのは、オバケだもん!」
興奮するように身を乗り出すと、彼は私の肩を押さえつけるようにして、ベッドに戻した。鼻先にある大きな瞳が、真正面から私を見つめている。多波さんは言った。ハッキリとした、強い口調で。
「オバケなんていない」
「・・・え」
「俺がやってるんだ。理性が無くても、意識がとんでも、俺がやってるんだ。俺がそう思いたいんだ。思わないと、いけないんだ。でないと俺は、ずっと望を苦しめる」
「苦しくなんかないよ。私、多波さんと一緒で幸せ・・・」
「俺は自殺しない。もう二度と。約束する」
「え・・・」
――自殺
その言葉が頭の中いっぱいに反響し、体が記憶に引き摺り込まれる。
一年前。アパートのキッチン。私は血だまりにへたり込んでいる。赤黒く染まっていくスカート。掌を濡らす生々しい温もり。血の泉に横たわる巨体。
はぁ・・・はぁ・・・
「望」
優しい声の後、右手に温もりを感じた。意識が病室に引き戻される。
私はいる。病室にいる。私の手を、多波さんが包み込んでくれている。大きな手の温もりが、あのキッチンの光景をかき消していく。彼は包み込んだ手を、もう一度力強く握った。
「あの時は、本当に辛い思いをさせた」
その言葉に顔を上げる。彼と視線が重なった。憂いに満ちた真っ直ぐな眼差し。胸が潰れそうだった。
「俺の自殺未遂が、望を追い込んだ。望から、嫌という感情を取り上げてしまった・・・気づくのが遅すぎた。本当にすまなかった」
私の手を握ったまま、彼は懺悔するように頭を下げた。
「これ以上、望を苦しめたくなくて、俺は死を選んだ。そう思っていた。でも、考えてみれば、ただの逃げだった。どんなに足掻いても変わらない状況で、望を傷つけて、無力な自分に絶望していたんだ。・・・もう、現実に打ちのめされたくなかった・・・最低だな。本当に」
「・・・多波さん」
「結局、俺の自殺未遂は、望をさらに傷つけた。君から奪ってしまった。君の感情を。望にとっても、俺にとっても大切な、嫌という感情を」
彼は私の両肩に手を添え、真っ直ぐにこちらを見据えた。目の前の大きな瞳が、蛍光灯の光を受けてギラギラと乱反射している。多波さんは、切望した。身を裂くような、切実な声で。
「頼む。望の本当の気持ちを、聞かせてくれないか。辛い時は辛い、嫌な時は嫌だと言ってくれないか。俺は全力で受け止める。残った傷はいつか必ず、俺が癒す。一生をかけて・・・だから・・・」
そこまで言うと、多波さんは口をつぐんで、うなだれた。病室が沈黙に沈む。医療機器の規則正しい音だけが、部屋に響いている。彼は私の肩を握ったまま、何分経っても離れなかった。この病室で、このまま何年も過ぎて、一生が終わってしまう気がした。でも、私の一言が沈黙を崩した。
「・・・嫌い」
声と一緒に涙がこぼれ、手の甲でパタリと跳ねた。
「嫌い・・・多波さんなんか、大っ嫌い」
拳を振り上げ、たくましい胸板に思い切り叩きつけた。
とんっ!
全力で叩いたのに、弱々しい音だった。それでも、叩いた。何度も、何度も、何度も。
「クズ!人でなし!大っ嫌い!なんで、女連れ込むの!?学習能力ないの?どんな気持ちで、私があの部屋にいると思う?分からないなら、愛してるなんて言わないで!上辺だけの言葉なんていらない!多波さんが優しくするから、離れられないじゃない!こっちの身にもなってよ!!多波さんなんか、大嫌い!バカ!嫌い!嫌い!大っ嫌い!!」
傷の痛みも忘れて、叩き続けた。体内で荒れ狂う激情が皮膚を突き破り、体をミンチにしてしまいそうだった。
嫌――
ずっと殺してきた感情だった。私が嫌と言えば、多波さんは傷つく。そうしたら、彼はまた命を絶とうとするかもしれない。それだけは避けたかった。だから、私は殺した。彼に対する負の感情を。殺してきたはずなのに、とまらない。暴言も、拳も。
恨んでいる。私は、こんなにも彼を恨んでいる。女と寝る彼、暴力を振るう彼、それを謝る彼、なのに繰り返す彼、なのに優しい彼。何もかも全てが憎い。憎い。憎い。反吐が出る。彼との記憶が憎悪となって、私の口と拳を駆り立てた。
多波さんは、されるがままだった。ただ私を見つめ、じっと暴言に聞き入り、拳を胸に受け続けていた。
暫くすると、広い手が私の上に降りてきて、そっと頭を撫でた。大切なモノを、慈しむような手つきだった。その手が私を抱き寄せる。優しい匂いが鼻先をかすめた。
「望を苦しめているのは、俺なのに・・・俺は、まだ・・・君と一緒にいたいんだ・・・本当に・・・手に負えないクズだ」
あの声と同じだった。三年前、アパートで「君と一緒にいたい」と言ったあの声と。私が多波さんの本当の気持ちを知った、三年前のあの時から、彼は何一つ変わっていなかった。
ずるい・・・ずるいよ・・・
「嫌い、嫌い・・・多波さん・・・なんか・・・」
彼の温もりが洪水のように流れ込んでくる。止められない。体内を激しく揺さぶられ、押さえつけた感情が、なすすべもなく沸き上がる。
嫌いなのに、憎いのに、どうして・・・こんな気持ち・・・無くなればいいのに。全部、全部・・・消えればいいのに。
どんなに抵抗しても、無駄だった。涙がとめどなく頬を伝い、抑えきれない感情が、堰を切ったように溢れ出した。
「・・・好き、私も多波さんが好き、大好き。他の人じゃヤダ。多波さんじゃないと、嫌だ!!多波さんじゃなきゃダメだよ!!わああああああああ!!!!!」
私はグシャグシャの顔を、大きな胸板に押しつけて泣いた。
「いつか必ず、望を幸せにする。一生をかけて、本当の幸せを、君に捧げる。それが俺の夢だ」
子供のように泣きじゃくる私を、多波さんは、ただひたすら抱きしめていた。
多波さんは「俺が悪い」と言うけれど、結局、私だってワガママだった。彼を心配するふりをして、自分の心配をしていた。彼が死んで、一人取り残されるのが怖かったんだ。
バン!!!!
突然、大きな音が病室に響いた。病室の入り口のドアを、乱暴に開け放った音だった。ドアを開けた人物を見て、私は目を丸くした。
息を弾ませながらドアの前に立っていたのは、FS会のサラだった。
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