上 下
22 / 32

【番外編3】同棲後の修羅場(3.望と刃)

しおりを挟む
家に帰ってすぐに、いつも通りお風呂に入って、いつも通り窓際のベッドで多波さんと横になった。

目を閉じる・・・でも、眠気はこない。1時間経っても、2時間経っても。多波さんは、もう眠ってしまったようだ。静かな寝息が聞こえる。深夜3時。私は仰向けになったり、うつ伏せになったりして、何度も寝返りを打っていた。

多波さんが寝る前に新しいシーツを出して、綺麗にベッドメイクしてくれたのに、寝返りをしすぎてシーツがしわくちゃになってしまった。波打つ生地を伸ばしすように、手で撫で付ける。

・・・この上で、女と寝てたのか。まあ・・・いつものことだよね・・・もう慣れた。

――女と、どんな事したのかな?

――最後までしたのかな?

突然、忌々しい考えが頭に響いた。慌てて、自分にゲンコツをお見舞いする。

そんな事、考えないの!

嫌な考えを振り払うように、布団をすっぽりかぶった。ギュッ。目を閉じる。真っ暗な視界の中で、はじめて気がついた。寝ている多波さんと背中が密着している。寝息に合わせて、パジャマがゆるゆると擦れている。温かいはずなのに、全身に鳥肌がたった。背中からもシーツからも、刺すような冷気を感じる。

・・・暑いのに・・・寒い。

布団の中で、体をよじっている時だった。喉にウッと苦味が込み上げてきた。気持ち悪い。吐きそう。吐きたくない。ぐっ・・・飲み込む。すると、喉がべっとり張り付いてしまった。

「水・・・」

ベッドから起きてキッチンに向かう。食器棚からグラスを取って、流しの蛇口をひねった。細い蛇口から、水がほとばしる。細かな泡を立ててグラスに満ちていく。グラスの縁までたっぷり注いで、一気に飲み干す。

ゴクゴク・・・

――そもそも意識がないんだったら、家まで帰ってこれないよ。

――多波さんは、意識があるんじゃない?

ゴクゴク・・・

――本当に病気なの?

頭に反響する声に、ハッとした。

やめて!やめて!多波さんは、そんな人じゃない!!病気だから!オバケのせいだから!!違う!!!違うの!!

――でも、キスしてるよ?

やめて!!

――その先もしてるよ?何回もしてるよ?

ガチャン!!

何かが砕ける音。足元を見ると、手の中にあったグラスが割れていて、破片がキッチンの床に散乱していた。窓から差し込む月明かりに破片が反射し、キラキラと光り輝いている。小さな夜空のようだ。

割れたグラスを片付けようと、シンク下の扉を開けて、ビニール袋と新聞を探す・・・探しているはずなのに・・・目が、吸い寄せられた。別のモノに。シンク下の扉。備え付けの包丁ラック。そこの三徳包丁に。

スルリ。包丁を抜き取る。柄が冷たい。手に馴染む。月明かりにかざすと、刃が光り輝く。

綺麗・・・

生き生きとした刃に、安らぎを覚えた。

――あの女、どこで多波さんと会ったのかな?

――彼から声をかけたんじゃない?

――どんな言葉で誘うの?

――知らない女を口説いた口で、知らない女とキスをして、その口で望にもキスしてるんだ!

あはは・・・間接キスじゃん、知らない女とキスしてるんだ、私。・・・アハハ・・・このベッドで脱いで、ここで抱き合って、ここでキスして、ここで触って、ここで嬲って、ここで、ここで、ここで・・・でも大丈夫・・・もう慣れた、慣れたから大丈夫

アレはオバケだから・・・多波さんは悪くないから・・・でも、オバケは多波さんの体にいて、多波さんの体で、女を捕まえて、キスして・・・だめ!!考えちゃダメ!!

・・・多波さんは、悪くないよ

そうだよ・・・そもそも、多波さんが病気だって知ってて、一緒になったのは私じゃない。今までだって、何回もあった。今更、気にするなんて、おかしいでしょ?気にすること自体が、変だよ。多波さんが他の女と寝るって分かってて、一緒になったんだから・・・

だから・・・気にする私がおかしいよ。

私が・・・

・・・悪いんだ。

私がいけないんだ。

全部!!全部!!!私が弱いせいだ!!

瞬間――

ズンッ!!

目の前に鮮やかな閃光が走り、腹部に飲まれていった。

あ・・・

ゴンッ!!

キッチンの床が、鈍い音で揺れる。ほとばしる激痛。暗転する視界。

望の意識はバラバラに飛び散り、闇に霧消した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される

Lynx🐈‍⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。 律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。 ✱♡はHシーンです。 ✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。 ✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

憧れの童顔巨乳家庭教師といちゃいちゃラブラブにセックスするのは最高に気持ちいい

suna
恋愛
僕の家庭教師は完璧なひとだ。 かわいいと美しいだったらかわいい寄り。 美女か美少女だったら美少女寄り。 明るく元気と知的で真面目だったら後者。 お嬢様という言葉が彼女以上に似合う人間を僕はこれまて見たことがないような女性。 そのうえ、服の上からでもわかる圧倒的な巨乳。 そんな憧れの家庭教師・・・遠野栞といちゃいちゃラブラブにセックスをするだけの話。 ヒロインは丁寧語・敬語、年上家庭教師、お嬢様、ドMなどの属性・要素があります。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

処理中です...