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【番外編3】同棲後の修羅場(3.望と刃)
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家に帰ってすぐに、いつも通りお風呂に入って、いつも通り窓際のベッドで多波さんと横になった。
目を閉じる・・・でも、眠気はこない。1時間経っても、2時間経っても。多波さんは、もう眠ってしまったようだ。静かな寝息が聞こえる。深夜3時。私は仰向けになったり、うつ伏せになったりして、何度も寝返りを打っていた。
多波さんが寝る前に新しいシーツを出して、綺麗にベッドメイクしてくれたのに、寝返りをしすぎてシーツがしわくちゃになってしまった。波打つ生地を伸ばしすように、手で撫で付ける。
・・・この上で、女と寝てたのか。まあ・・・いつものことだよね・・・もう慣れた。
――女と、どんな事したのかな?
――最後までしたのかな?
突然、忌々しい考えが頭に響いた。慌てて、自分にゲンコツをお見舞いする。
そんな事、考えないの!
嫌な考えを振り払うように、布団をすっぽりかぶった。ギュッ。目を閉じる。真っ暗な視界の中で、はじめて気がついた。寝ている多波さんと背中が密着している。寝息に合わせて、パジャマがゆるゆると擦れている。温かいはずなのに、全身に鳥肌がたった。背中からもシーツからも、刺すような冷気を感じる。
・・・暑いのに・・・寒い。
布団の中で、体をよじっている時だった。喉にウッと苦味が込み上げてきた。気持ち悪い。吐きそう。吐きたくない。ぐっ・・・飲み込む。すると、喉がべっとり張り付いてしまった。
「水・・・」
ベッドから起きてキッチンに向かう。食器棚からグラスを取って、流しの蛇口をひねった。細い蛇口から、水がほとばしる。細かな泡を立ててグラスに満ちていく。グラスの縁までたっぷり注いで、一気に飲み干す。
ゴクゴク・・・
――そもそも意識がないんだったら、家まで帰ってこれないよ。
――多波さんは、意識があるんじゃない?
ゴクゴク・・・
――本当に病気なの?
頭に反響する声に、ハッとした。
やめて!やめて!多波さんは、そんな人じゃない!!病気だから!オバケのせいだから!!違う!!!違うの!!
――でも、キスしてるよ?
やめて!!
――その先もしてるよ?何回もしてるよ?
ガチャン!!
何かが砕ける音。足元を見ると、手の中にあったグラスが割れていて、破片がキッチンの床に散乱していた。窓から差し込む月明かりに破片が反射し、キラキラと光り輝いている。小さな夜空のようだ。
割れたグラスを片付けようと、シンク下の扉を開けて、ビニール袋と新聞を探す・・・探しているはずなのに・・・目が、吸い寄せられた。別のモノに。シンク下の扉。備え付けの包丁ラック。そこの三徳包丁に。
スルリ。包丁を抜き取る。柄が冷たい。手に馴染む。月明かりにかざすと、刃が光り輝く。
綺麗・・・
生き生きとした刃に、安らぎを覚えた。
――あの女、どこで多波さんと会ったのかな?
――彼から声をかけたんじゃない?
――どんな言葉で誘うの?
――知らない女を口説いた口で、知らない女とキスをして、その口で望にもキスしてるんだ!
あはは・・・間接キスじゃん、知らない女とキスしてるんだ、私。・・・アハハ・・・このベッドで脱いで、ここで抱き合って、ここでキスして、ここで触って、ここで嬲って、ここで、ここで、ここで・・・でも大丈夫・・・もう慣れた、慣れたから大丈夫
アレはオバケだから・・・多波さんは悪くないから・・・でも、オバケは多波さんの体にいて、多波さんの体で、女を捕まえて、キスして・・・だめ!!考えちゃダメ!!
・・・多波さんは、悪くないよ
そうだよ・・・そもそも、多波さんが病気だって知ってて、一緒になったのは私じゃない。今までだって、何回もあった。今更、気にするなんて、おかしいでしょ?気にすること自体が、変だよ。多波さんが他の女と寝るって分かってて、一緒になったんだから・・・
だから・・・気にする私がおかしいよ。
私が・・・
・・・悪いんだ。
私がいけないんだ。
全部!!全部!!!私が弱いせいだ!!
瞬間――
ズンッ!!
目の前に鮮やかな閃光が走り、腹部に飲まれていった。
あ・・・
ゴンッ!!
キッチンの床が、鈍い音で揺れる。ほとばしる激痛。暗転する視界。
望の意識はバラバラに飛び散り、闇に霧消した。
目を閉じる・・・でも、眠気はこない。1時間経っても、2時間経っても。多波さんは、もう眠ってしまったようだ。静かな寝息が聞こえる。深夜3時。私は仰向けになったり、うつ伏せになったりして、何度も寝返りを打っていた。
多波さんが寝る前に新しいシーツを出して、綺麗にベッドメイクしてくれたのに、寝返りをしすぎてシーツがしわくちゃになってしまった。波打つ生地を伸ばしすように、手で撫で付ける。
・・・この上で、女と寝てたのか。まあ・・・いつものことだよね・・・もう慣れた。
――女と、どんな事したのかな?
――最後までしたのかな?
突然、忌々しい考えが頭に響いた。慌てて、自分にゲンコツをお見舞いする。
そんな事、考えないの!
嫌な考えを振り払うように、布団をすっぽりかぶった。ギュッ。目を閉じる。真っ暗な視界の中で、はじめて気がついた。寝ている多波さんと背中が密着している。寝息に合わせて、パジャマがゆるゆると擦れている。温かいはずなのに、全身に鳥肌がたった。背中からもシーツからも、刺すような冷気を感じる。
・・・暑いのに・・・寒い。
布団の中で、体をよじっている時だった。喉にウッと苦味が込み上げてきた。気持ち悪い。吐きそう。吐きたくない。ぐっ・・・飲み込む。すると、喉がべっとり張り付いてしまった。
「水・・・」
ベッドから起きてキッチンに向かう。食器棚からグラスを取って、流しの蛇口をひねった。細い蛇口から、水がほとばしる。細かな泡を立ててグラスに満ちていく。グラスの縁までたっぷり注いで、一気に飲み干す。
ゴクゴク・・・
――そもそも意識がないんだったら、家まで帰ってこれないよ。
――多波さんは、意識があるんじゃない?
ゴクゴク・・・
――本当に病気なの?
頭に反響する声に、ハッとした。
やめて!やめて!多波さんは、そんな人じゃない!!病気だから!オバケのせいだから!!違う!!!違うの!!
――でも、キスしてるよ?
やめて!!
――その先もしてるよ?何回もしてるよ?
ガチャン!!
何かが砕ける音。足元を見ると、手の中にあったグラスが割れていて、破片がキッチンの床に散乱していた。窓から差し込む月明かりに破片が反射し、キラキラと光り輝いている。小さな夜空のようだ。
割れたグラスを片付けようと、シンク下の扉を開けて、ビニール袋と新聞を探す・・・探しているはずなのに・・・目が、吸い寄せられた。別のモノに。シンク下の扉。備え付けの包丁ラック。そこの三徳包丁に。
スルリ。包丁を抜き取る。柄が冷たい。手に馴染む。月明かりにかざすと、刃が光り輝く。
綺麗・・・
生き生きとした刃に、安らぎを覚えた。
――あの女、どこで多波さんと会ったのかな?
――彼から声をかけたんじゃない?
――どんな言葉で誘うの?
――知らない女を口説いた口で、知らない女とキスをして、その口で望にもキスしてるんだ!
あはは・・・間接キスじゃん、知らない女とキスしてるんだ、私。・・・アハハ・・・このベッドで脱いで、ここで抱き合って、ここでキスして、ここで触って、ここで嬲って、ここで、ここで、ここで・・・でも大丈夫・・・もう慣れた、慣れたから大丈夫
アレはオバケだから・・・多波さんは悪くないから・・・でも、オバケは多波さんの体にいて、多波さんの体で、女を捕まえて、キスして・・・だめ!!考えちゃダメ!!
・・・多波さんは、悪くないよ
そうだよ・・・そもそも、多波さんが病気だって知ってて、一緒になったのは私じゃない。今までだって、何回もあった。今更、気にするなんて、おかしいでしょ?気にすること自体が、変だよ。多波さんが他の女と寝るって分かってて、一緒になったんだから・・・
だから・・・気にする私がおかしいよ。
私が・・・
・・・悪いんだ。
私がいけないんだ。
全部!!全部!!!私が弱いせいだ!!
瞬間――
ズンッ!!
目の前に鮮やかな閃光が走り、腹部に飲まれていった。
あ・・・
ゴンッ!!
キッチンの床が、鈍い音で揺れる。ほとばしる激痛。暗転する視界。
望の意識はバラバラに飛び散り、闇に霧消した。
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