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【番外編1】望と多波の甘い夜(4.翌朝)
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目が覚めると朝だった。
ベッドで眠っている私の顔に、窓から差し込んだ、まばゆい朝日が走っている。
眩し・・・
瞼をクシャリと閉じ、寝返りをうった。少しウトウトした後、ぼんやりする意識の中、もう一度、目を開いた。うっすらと。糸みたいに細く。
あ・・・
私の服。袖口の模様。昨日と違う。新しいパジャマを着ている。ショーツも濡れていない。脚を伸ばしてシーツを探ると、昨日の情事の後は、どこにも残っていなかった。
多波さん、片付けてくれたんだ・・・
いつもそうだった。裸のまま寝てしまう私に、寒くないように服を着せ、汚れたシーツや服を洗濯カゴに入れ、新しいシーツを敷いてから、彼は眠りにつく。その気遣いに、いつもジーンとしてしまう。
ちゃんと・・・お礼言わないと・・・
ピィイイイイーーー
笛吹ケトルの音。
のそり
キッチンの死角から、多波さんが出てきた。若草を彷彿とさせるグリーンのワイシャツを着ている。
カチン
大きな手が、コンロの火を止めた。
コポコポコポ・・・
ケトルのお湯がマグカップに注がれると、コーヒーの香ばしい匂いが部屋中に広がった。いつもの香りに、心が和む。多波さんは、こちらを向いて微笑んだ。
「おはよう」
「おはようございます」
私も笑みを返す。それから、昨日のお礼を言おうと言葉を続けた。
「多波さん、昨日ありがとうございました。私、先に寝ちゃって・・・ひゃ!?」
ベッドから立ち上がろうとした瞬間、ガクリと膝が折れた。
「おい!」
ドサッ!
床に尻餅をついたと思ったのに、多波さんに抱き止められていた。
「わ、わー・・・」
自分の体の状況に、驚きを隠せなかった。おっかなびっくり、腰を手でさすってみる。
「どうした!?」
と、彼はオロオロ。
「腰が・・・」
「腰がどうした!?」
「・・・フワフワする」
「な!?」
「・・・立てない」
「なにぃ!?」
いかつい顔から血の気が引いた。滝のような冷や汗が流れ始める。
「どこだ!?どこが痛い!?!?」
真っ青な彼を安心させたくて、頭の中で状況を整理して、それから、ゆっくり説明した。
「あの・・・どこも痛くないんです。なんか・・・こう・・・フワフワ、ホワホワして、力が入らなくて・・・。腰が、心地よさに酔いしれてる感じ・・・」
・・・なにこれ・・・多波・・・マジック?
ホカホカしている私とは裏腹に、やっぱり多波さんは顔面蒼白だった。
「仕事休みだろ!今日は何もするな!」
「でも、多波さんに、やらせてばっかりじゃ・・・」
「寝ろ!」
多波さんは、私をベッドに押し付けて、掛け布団をかけ、キッチンに消えた。
タタタタタタ!
荒ぶる包丁の音。
グツグツグツ!
今度は、鍋の煮える音。グツグツという音が止むと、彼はお盆にお茶碗とスプーンをのせて、キッチンから出てきた。
「食え」
玉子がゆが、お茶碗の中で、ほかほかと湯気を立てて揺れている。おかゆの上に、海苔で作った文字が浮かんでいた。
~愛してる~
海苔で「愛」って作れるんだ・・・
まず、そこに感動。
私はスプーンを受け取ると、ぐるぐると海苔を絡め取り、先端にまとわりついた、黒い塊をパクリと食べた。
「む・・・」
しょぼんとする、多波さん。
「ふふっ・・・」
可愛くて、口元が緩んでしまう。愛おしさのあまり、彼の頬に手が伸びる。そっと包み込み、そのままキスを贈った。
「な!?!?」
巨体が、耳まで真っ赤になる。
私はにっこり微笑んで、ありったけの思いをワンフレーズに込めた。
「私も愛してます」
**番外編2へ続く**
ベッドで眠っている私の顔に、窓から差し込んだ、まばゆい朝日が走っている。
眩し・・・
瞼をクシャリと閉じ、寝返りをうった。少しウトウトした後、ぼんやりする意識の中、もう一度、目を開いた。うっすらと。糸みたいに細く。
あ・・・
私の服。袖口の模様。昨日と違う。新しいパジャマを着ている。ショーツも濡れていない。脚を伸ばしてシーツを探ると、昨日の情事の後は、どこにも残っていなかった。
多波さん、片付けてくれたんだ・・・
いつもそうだった。裸のまま寝てしまう私に、寒くないように服を着せ、汚れたシーツや服を洗濯カゴに入れ、新しいシーツを敷いてから、彼は眠りにつく。その気遣いに、いつもジーンとしてしまう。
ちゃんと・・・お礼言わないと・・・
ピィイイイイーーー
笛吹ケトルの音。
のそり
キッチンの死角から、多波さんが出てきた。若草を彷彿とさせるグリーンのワイシャツを着ている。
カチン
大きな手が、コンロの火を止めた。
コポコポコポ・・・
ケトルのお湯がマグカップに注がれると、コーヒーの香ばしい匂いが部屋中に広がった。いつもの香りに、心が和む。多波さんは、こちらを向いて微笑んだ。
「おはよう」
「おはようございます」
私も笑みを返す。それから、昨日のお礼を言おうと言葉を続けた。
「多波さん、昨日ありがとうございました。私、先に寝ちゃって・・・ひゃ!?」
ベッドから立ち上がろうとした瞬間、ガクリと膝が折れた。
「おい!」
ドサッ!
床に尻餅をついたと思ったのに、多波さんに抱き止められていた。
「わ、わー・・・」
自分の体の状況に、驚きを隠せなかった。おっかなびっくり、腰を手でさすってみる。
「どうした!?」
と、彼はオロオロ。
「腰が・・・」
「腰がどうした!?」
「・・・フワフワする」
「な!?」
「・・・立てない」
「なにぃ!?」
いかつい顔から血の気が引いた。滝のような冷や汗が流れ始める。
「どこだ!?どこが痛い!?!?」
真っ青な彼を安心させたくて、頭の中で状況を整理して、それから、ゆっくり説明した。
「あの・・・どこも痛くないんです。なんか・・・こう・・・フワフワ、ホワホワして、力が入らなくて・・・。腰が、心地よさに酔いしれてる感じ・・・」
・・・なにこれ・・・多波・・・マジック?
ホカホカしている私とは裏腹に、やっぱり多波さんは顔面蒼白だった。
「仕事休みだろ!今日は何もするな!」
「でも、多波さんに、やらせてばっかりじゃ・・・」
「寝ろ!」
多波さんは、私をベッドに押し付けて、掛け布団をかけ、キッチンに消えた。
タタタタタタ!
荒ぶる包丁の音。
グツグツグツ!
今度は、鍋の煮える音。グツグツという音が止むと、彼はお盆にお茶碗とスプーンをのせて、キッチンから出てきた。
「食え」
玉子がゆが、お茶碗の中で、ほかほかと湯気を立てて揺れている。おかゆの上に、海苔で作った文字が浮かんでいた。
~愛してる~
海苔で「愛」って作れるんだ・・・
まず、そこに感動。
私はスプーンを受け取ると、ぐるぐると海苔を絡め取り、先端にまとわりついた、黒い塊をパクリと食べた。
「む・・・」
しょぼんとする、多波さん。
「ふふっ・・・」
可愛くて、口元が緩んでしまう。愛おしさのあまり、彼の頬に手が伸びる。そっと包み込み、そのままキスを贈った。
「な!?!?」
巨体が、耳まで真っ赤になる。
私はにっこり微笑んで、ありったけの思いをワンフレーズに込めた。
「私も愛してます」
**番外編2へ続く**
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