上 下
16 / 32

【番外編1】望と多波の甘い夜(4.翌朝)

しおりを挟む
目が覚めると朝だった。

ベッドで眠っている私の顔に、窓から差し込んだ、まばゆい朝日が走っている。

眩し・・・

瞼をクシャリと閉じ、寝返りをうった。少しウトウトした後、ぼんやりする意識の中、もう一度、目を開いた。うっすらと。糸みたいに細く。

あ・・・

私の服。袖口の模様。昨日と違う。新しいパジャマを着ている。ショーツも濡れていない。脚を伸ばしてシーツを探ると、昨日の情事の後は、どこにも残っていなかった。

多波さん、片付けてくれたんだ・・・

いつもそうだった。裸のまま寝てしまう私に、寒くないように服を着せ、汚れたシーツや服を洗濯カゴに入れ、新しいシーツを敷いてから、彼は眠りにつく。その気遣いに、いつもジーンとしてしまう。

ちゃんと・・・お礼言わないと・・・

ピィイイイイーーー

笛吹ケトルの音。

のそり

キッチンの死角から、多波さんが出てきた。若草を彷彿とさせるグリーンのワイシャツを着ている。

カチン

大きな手が、コンロの火を止めた。

コポコポコポ・・・

ケトルのお湯がマグカップに注がれると、コーヒーの香ばしい匂いが部屋中に広がった。いつもの香りに、心が和む。多波さんは、こちらを向いて微笑んだ。

「おはよう」

「おはようございます」

私も笑みを返す。それから、昨日のお礼を言おうと言葉を続けた。

「多波さん、昨日ありがとうございました。私、先に寝ちゃって・・・ひゃ!?」

ベッドから立ち上がろうとした瞬間、ガクリと膝が折れた。

「おい!」

ドサッ!

床に尻餅をついたと思ったのに、多波さんに抱き止められていた。

「わ、わー・・・」

自分の体の状況に、驚きを隠せなかった。おっかなびっくり、腰を手でさすってみる。

「どうした!?」

と、彼はオロオロ。

「腰が・・・」

「腰がどうした!?」

「・・・フワフワする」

「な!?」

「・・・立てない」

「なにぃ!?」

いかつい顔から血の気が引いた。滝のような冷や汗が流れ始める。

「どこだ!?どこが痛い!?!?」

真っ青な彼を安心させたくて、頭の中で状況を整理して、それから、ゆっくり説明した。

「あの・・・どこも痛くないんです。なんか・・・こう・・・フワフワ、ホワホワして、力が入らなくて・・・。腰が、心地よさに酔いしれてる感じ・・・」

・・・なにこれ・・・多波・・・マジック?

ホカホカしている私とは裏腹に、やっぱり多波さんは顔面蒼白だった。

「仕事休みだろ!今日は何もするな!」

「でも、多波さんに、やらせてばっかりじゃ・・・」

「寝ろ!」

多波さんは、私をベッドに押し付けて、掛け布団をかけ、キッチンに消えた。

タタタタタタ!

荒ぶる包丁の音。

グツグツグツ!

今度は、鍋の煮える音。グツグツという音が止むと、彼はお盆にお茶碗とスプーンをのせて、キッチンから出てきた。

「食え」

玉子がゆが、お茶碗の中で、ほかほかと湯気を立てて揺れている。おかゆの上に、海苔で作った文字が浮かんでいた。

~愛してる~

海苔で「愛」って作れるんだ・・・

まず、そこに感動。

私はスプーンを受け取ると、ぐるぐると海苔を絡め取り、先端にまとわりついた、黒い塊をパクリと食べた。

「む・・・」

しょぼんとする、多波さん。

「ふふっ・・・」

可愛くて、口元が緩んでしまう。愛おしさのあまり、彼の頬に手が伸びる。そっと包み込み、そのままキスを贈った。

「な!?!?」

巨体が、耳まで真っ赤になる。

私はにっこり微笑んで、ありったけの思いをワンフレーズに込めた。

「私も愛してます」

**番外編2へ続く**
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カナリア

春廼舎 明
恋愛
ちやほやされて、サクセスストーリーやシンデレラストーリーに乗る女の子たちが羨ましい、妬ましい。 そう思うのは、努力してる私こそむくわれるべきという不満の現れ傲慢の塊なんだろうか。 手に入れても、掴んだと思った途端指の間からこぼれ落ちていく。 仲間に恵まれないのは仲間をつなぎとめておけない自分のせいなのか。 外から見たらありふれたシンデレラストーリー。自分の目で見ればまた違って見えると気がついた。 ※閑話含め全50話です。(49+1)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...