喪女の恋した優しいクズ〜 職場が女ばかりで恋愛経験のない社会人女性が、一生に一度の溺れる恋をする話〜

肝心な時にないアレ

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10.望の決意

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「多波さんと、一緒に暮らす」

そう告げると、サラは鼻で笑った。

私は、再びFS会を訪れていた。多波さんには内緒だ。どうしても、サラと二人で話がしたかった。自分の気持ちを、彼女にぶつけておきたかった。

応接間にある黒革のソファーにサラは腰を掛けると、テーブルに置かれたティーカップの紅茶を飲みながら言った。

「たまたま電車で隣になったから、一緒になるの?それって、アナタじゃなくても、良かったってことよ?多波は自分に興味があったなら、誰でも良かったのよ」

サラがニヤニヤしていたので、私も笑って返してやった。

「どうでもいいの、そんな事。多波さんは、今、私と一緒にいたいと思ってくれてる。それが全て」

「アナタ、20代後半?」

「個人情報ですから、言いません」

「フフフッ・・・、隠して何の意味があるの?20代後半。この時期は貴重よ、結婚するにも、出産するにも」

・・・どこかで、聞いたフレーズ。そうだ、母だ。母が、いつも口すっぱく言っていた。

――30歳までに結婚しなさい!歳取ったら、結婚も出産も大変なんだよ!

・・・アンタは、私の母親か。

サラは優雅な手つきで、ティーカップをソーサーに置いてから、話を続けた。

「多波を治療しようとした女性の話は、聞いているわよね。その人は三年粘った。でも、治らなかった。三年を棒に振ったのよ。例えば、アナタが27歳だと仮定して、3年経ったら30歳、5年なら32歳、10年なら37歳よ。37で、結婚と出産は難しいわ。アナタ、多波と破局したら、もう道はないわ。わかる?」

「それでも、いいの」

そんな話、とっくに片付いてる。迷いなんてなかった。

「ねぇ。サラさん。多波さんの事、悪魔って言ってたよね?よく考えてよ。悪魔はどっち?私達でしょう?多波さんは、コントロール不能な性欲で溺れてるんだよ?自分が辛い時に、溺れている彼に縋って蹴落として、私達だけ助かって、彼はどんどん沈んでいく。誰も引き上げようとしない。私達の方がよっぽど悪魔だよ。色々あったけど、私は多波さんに感謝してる。多波さんは、辛い時、いつも優しくしてくれた。欲しいモノをくれた・・・」

話せば話すほど、声が震える。それでも、言葉を振り絞った。

「だから今度は、多波さんが本当に望んでいるモノを・・・私は、彼にあげたい」

「フフッ、結構な正義感ね」

「それにね。これは、多波さんのためじゃない、私のためなの。ここで諦めたら、私は多波さんを忘れられない。一生後悔する。ダメだったとしても、後悔なんてしない。自分が納得するまでやったら、綺麗な過去になる。私は、自分の気持ちに区切りをつけるために、多波さんと一緒にいたいの」

「・・・ここまで、立派なバカは初めてだわ」

サラは蔑むような笑みを浮かべた後、ティーカップに小鼻を近づけ、紅茶の香りを楽しむように目を閉じた。私は彼女を真正面から見据え、もう一度告げた。ここに来た本当の目的を。

「あなたがFS会を解散するまで、私は帰らない。」

「はぁ・・・」

私の決意を掻き消すように、サラは盛大なため息をついた。応接間が静寂に包まれる。サラはティーカップに真紅の唇を添えて、紅茶を一口、二口飲み、

ガチャン

乱暴にカップを置いた。

「無理よ、FS会の解散は。」

「なら私、ここに泊まります。」

「最後まで聞きなさい!!」

ピシャリと打ち付けるように、サラは言った。顔を引きつらせ、忌々しそうに、こちらを見ている。でも、彼女が続けた言葉は、意外なものだった。

「そのかわり、休止にしてあげる。いいわ。多波にも、休養が必要だわ。」

サラは、私の耳元まで口を寄せると、冷淡な声で囁いた。

「せいぜい、もがくといいわ。多波との生活なんて、地獄そのものよ。アナタが絶望するところ、見せてちょうだい。」

彼女は満面の笑みになった後、言葉を続けた。

「全力で笑ってあげるから。」

「ありがとうございます。」

私も、ありったけの笑顔でお礼を言った。すると、ソファーに座っていたサラはよろめいて、テーブルの角に足をぶつけた。間抜けな格好。化け物を見るような目で、こちらを見ている。

「ば、馬鹿なの!?」

「うん。馬鹿だよ。」

サラは馬鹿にしたつもりみたいだけど、嬉しくて仕方がなかった。休止とはいえ、これでやっと多波さんは、FS会から解放される。

多波さんが、苦しみから解放される。

そう思っただけで、舞い上がりそうだった。
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