上 下
3 / 10
1章:オルヴァーリオの湖底

2階層:仮初の仲間

しおりを挟む




 冒険者支援協会。基本的には人がごった返しており、時折一般人も立ち寄っては受付で何やら記入している。
 ここ冒険者支援協会の支部では冒険者の素材買取や戦闘訓練、冒険者志望の若者が技能を上げるための講座など様々なことができる。一般人からの依頼なども受け付けており、ダンジョンに潜るだけではなく、依頼者の任務を受け、ダンジョンで素材を収集したりするギルドやパーティもある。
 比較的しっかりした造りの建物は町の建物と比べると新しく、内装もどこか洒落た雰囲気を漂わせている。内装担当は支部長とかの趣味らしいのでここの支部長はきっと趣味がいいのだろう。

 そして俺は昨日採取した薬草を売りになじみの受付嬢に無言で薬草の入った袋を叩きつける。
「あら、随分と不機嫌ね」
 そうクールに返すのは凛とした黒髪の女性。髪をきっちりまとめており、清潔感を漂わせる。いかにもデキる女という風貌の彼女はここの受付嬢、サリーナ。
 同郷ということもあり年上だがそこそこ互いのことを知っているためほかの受付嬢よりも話しやすいためいるときはだいたいこいつに声をかける。現在27歳でだいぶ行き遅れだが男の影は一切ない。いい年してまだ結婚しないのかよと思うが口に出したら戦争だ。
「何かあったのかしら?」
「うし、ろを見ろっ!」
 そう指差す先には大勢の人間に囲まれたミシェルの姿。
 誰もがミシェルに好意的でやつを勧誘しようとする人間が次々と現れ、一緒にいたせいでなぜか敵意を抱かれ、挙句の果てに足を踏まれたり見えないように小突いて弾いたりと嫌がらせを食らった。
「くそっくそっくそっ! あいつなんなんだ!」
「あら、ミシェル? あの子も相変わらずだけど……周りも飽きないわねぇ」
 他人事だと言わんばかりに薬草を確認し、秤にかけて買取金額を書類に記入していく。
「何、あの子を誘ったりしたの? あんたが? 珍しいこともあるものね」
「ちっげぇ!! あいつが! 昨日から! 付きまとってんだ!」
「あら、もっと意外。あの子、自分から他人を誘ったことなんてないのに」
 サリーナはたいして驚いた様子も見せず淡々と現金を確認して俺に差し出す。1200ニル。まあ薬草ならこんなものだが今はやつのせいもあってかこのはした金にイライラさせられる。



『僕とパーティ……いや、ギルドを組もうよ。他にも仲間を集めてさ』

『そういうの間に合ってます』



 一時的に組むならいい。だがほかに仲間も集めてギルド? 無理無理。
 そりゃ引く手数多なやつは簡単に言えるだろう。やつ目当てでギルドに入りたがる男だっていそうだし。だがもうギルドなんて――
「辛気臭い顔するのやめてよ。何、まだ引きずってんの?」
「お前みたいな順風満帆に冒険者生活を満喫して引退しても職のあるやつにはわかんねーよ」
 サリーナは元冒険者だ。このへんではなくもっと難易度の高いダンジョンを巡っていたらしいが実力は正直俺もよくわかっていない。聞いてもはぐらかされるのでまあそこそこの地位にはいたはずだ。
「はぁ……あの子ははないから大丈夫でしょ」
「俺、そう思って前回失敗してるから見た目で判断しねーの」
 女に惑わされて失敗して人生終わりなんてまっぴらだ。ああ嫌だ。女の冒険者とか本当に嫌だ。
 ミシェルは確かにあんまりそういう女っぽくはないが腹の底で何を考えているかなんてわからない。女はそういう生き物だと思っている。実力ない癖して寄生するやつの多いこと多いこと。
「なに、あの子と組まないの? 喜んで組んどきなさいよ。かなり美味しいわよあの子」
「美味しいって……何が」
 すっ、と差し出されたのは冒険者カードの写し。いわゆるソロがパーティ募集する際の自分のアピールするためのものだ。
「技能のところ見てみなさい」
 全ては載っていないもののある程度技能が載っている。
 最初、やけに技能の数が多いな、と思ってワンテンポ遅れて気づく。
 ――なんだこの技能!?


・鍵開け(85):宝箱や扉の鍵を解錠する。練度が高ければ色々な鍵を破ることもできるだろう。
・偵察(80):敵の位置距離を事前に把握し戦闘を回避・奇襲を仕掛けるなどができる。練度が高いほど索敵能力が高く、正確さや細かい情報まで得られる。
・罠師(85):罠の発見・解除をすることができる。連度が高ければ高いほど成功率が上がる。また、罠設置も可能。練度が高ければ高いほど巧妙に仕組むことができる。
・盗む(70):相手の懐から持ち物や装備品をくすねる技能。連度が高いと相手は盗まれたことに気づかないかもしれない。
・地図作成(70):ダンジョンで地図作成する技能。練度に応じて正確、表現が上昇する。
・聞き耳(80):遠くの音を聞き取る。練度が高いほどより正確に、詳細にわかる。


 技能値が軒並み高い。ここまで高いともはやドン引きするレベルに高い。
 挙句、ステータスが極端すぎる。攻撃や防御が一般人に毛が生えた程度しかないのに敏捷、器用、幸運が俺を超える高さだ。一応器用が高いので攻撃ができないわけではないのだろうができても威力がほんの少し程度に違いない。
 道理で戦闘がまともにできないわけだ……。ナイフ使いということは接近戦だしこれは致命的すぎる。が、それを補うだけの後半のステータスがある。

「な、なるほど……確かにこれはスカウトとしては優秀だな……」
 こいつが戦わなくても周りが戦えばいいだけだし、いるだけで無益な戦闘回避は余裕だろう。
「あら、技能ももちろんだけど一番重要な部分を見落としてるわよ?」
 そう言ってトントンと指さしたのは技能の端の方にある一文。


・女神の施し(90):幸運の数値とは関係なしに宝箱のアイテムのランクが上昇する。値が高ければ高いほど高ランクが出やすくなる。


「…………」
「どうしたの、急に真顔になって」
「え、これって……マジ?」
「大マジ」
「……本物? 90? は?」

 女神の施し。ダンジョンにおけるランダムな戦利品である宝箱にはランクが存在する。1~10まであり、ダンジョンにもよるがこのあたりでは高くても3くらいまでのランクしか出ないだろう。そのランクを引き上げる生まれついての体質。例えばもし、ミシェルを連れて宝箱を発見し、やつに開けさせればランク3が限界であろうダンジョンでもうまくいけばランク5~6くらいが出てしまうかもしれない。技能値が90もあるため上昇率は高いはず。つまり、高難易度ダンジョンにいけばほぼ確実に9、10という幻想級のアイテムすら手に入るかも知れないということ。売ろうがそのまま装備しようが一躍冒険者の上位に上り詰めるかも知れない可能性を秘めている。

 そんなの誰だって勧誘にするに決まってるだろ!!

 咄嗟にミシェルを確認するために振り返る。偶然、視線が合ってミシェルが周りに断りを入れてから駆け寄ってくる。
「そっちの用事は終わったかい? で、どうする?」
 ニコニコと含みある笑顔で見てくる。これは俺がミシェルの技能を見たことに気づいている顔だ。
 あんなの見たあとで邪険にできる冒険者なんているはずがない。そう言いたげな顔。わかっていたからさっき家でカードを見せなかったのかこいつ。
 だがこいつは根っからのやばいナルシストで変態でストーカーだぞ。いいのか、こんなやつと組んで。
 いやでもあれだけ優秀な奴がギルド作ろうって誘ってるって相当稼ぐチャンスなんじゃ。

 でも――また騙されたら。

 いや、一度くらいは信じても――。




『クズが』


 かつて言われた言葉。幻聴ではあるが胃がじくじくと痛む。
 パン、と目の前で手を叩かれはっとする。呆れたような、でも面白いといいたげなミシェルの顔。こんなときまで整っていていっそイラつく。
「もー、そんなに悩む? しょうがないなぁ。じゃあ、お試しで1回だけ二人でダンジョン行こう。それで判断してくれよ」
 1回だけ、試しに。
 なぜ、こいつはここまで俺を誘おうとするのか。
 一周回って詐欺を疑いそうになる。実は俺を嵌めようとしてるんじゃないかって。

 でも、ここで断ってしまえば、何かを手放してしまいそうな、そんな気がした。

「わかった……。とりあえず一度だけな」

「よろしい! それじゃあまずは昼食とダンジョン準備だ!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介
ファンタジー
オンラインゲームをプレイしながら寝落ちした佐藤綾人は 気が付くと全く知らない場所で 同じオンラインゲームプレイヤーであり親友である柳原雅也と共に目覚めた。 そこは剣と魔法が支配する幻想世界。 見た事もない生物や、文化が根付く国。 しかもオンラインゲームのスキルが何故か使用でき 身体能力は異常なまでに強化され 物理法則を無視した伝説級の武器や防具、道具が現れる。 だがそんな事は割とどうでも良かった。 何より異変が起きていたのは、自分自身。 二人は使っていたキャラクターのアバターデータまで引き継いでいたのだ。 一人は幼精。 一人は猫女。 何も分からないまま異世界に飛ばされ 性転換どころか種族まで転換されてしまった二人は 勢いで滅亡寸前の帝国の立て直しを依頼される。 引き受けたものの、帝国は予想以上に滅亡しそうだった。 「これ詰んでるかなぁ」 「詰んでるっしょ」 強力な力を得た代償に 大事なモノを失ってしまった転生者が織りなす 何かとままならないまま チートで無茶苦茶する異世界転生ファンタジー開幕。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

女神がアホの子じゃだめですか? ~転生した適当女神はトラブルメーカー~

ぶらっくまる。
ファンタジー
魔王が未だ倒されたことがない世界――ファンタズム大陸。 「――わたしが下界に降りて魔王を倒せば良いじゃない!」 適当女神のローラが、うっかり下界にちょっかいを出した結果、ヒューマンの貧乏貴族に転生してしまう。 しかも、『魔王を倒してはいけない』ことを忘れたまま…… 幼少期を領地で過ごし、子供騎士団を作っては、子供らしからぬ能力を発揮して大活躍! 神の知識を駆使するローラと三人の子供騎士たちとの、わんぱくドタバタ浪漫大活劇を描くヒューマンドラマティックファンタジー物語!! 成長して学園に行けば、奇抜な行動に皇族に目を付けられ―― はたまた、自分を崇めている神皇国に背教者として追われ―― などなど、適当すぎるが故の波乱が、あなたを待ち受けています。 ※構成の見直しを行いました。完全書下ろしは「★」、大部分を加筆修正は「▲」の印をつけております。 第一章修正完了('19/08/31) 第二章修正完了('19/09/30)⇒最新話、17話投稿しました。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

処理中です...