≪花の降る午後≫

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≪ビーツのスープ≫

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夜な夜な一人の幼き少女が、吹き荒ぶ厳寒の街角で、物売りに励んでいた。

彼女が売る物は、リップスティック。

 そう!
彼女は、リップ売りの少女。

冬場は、乾燥して唇もカッサカサ。

自らの手作りのリップで、街行く人の唇がつやっつやになれば!との想いで、少女は声を出し売りに励みます。

「リップスティック…リップスティックは、いかがですか~?唇の乾燥や、口の横が切れてしまった方はいませんか~?天然の植物オイル配合の、リップスティック…リップスティックは、いかがですか~?」

しかし、こんな夜更け、人っ子一人通りません。

あまりの寒さに、少女の声は震え、どんどん小さくなってゆきます。

かじかむ手で持つカゴに、目をやる少女。

「この中のリップスティックを全部売り切るまでは、家に帰れない。だって親方に叱られてしまうもの…」

しかしながら、少女も寒さには勝てません。

何とか、少しばかりの暖を取りたい!

「そうだ。このリップスティックを燃やし、ちょっとだけ暖まろう。ちょっとだけ…」

少女はポケットに入っていた、マッチを擦りリップに点火し、わずかばかりの暖の時を過ごします。

しかし、ほんの数分でリップは燃え尽きてしまいます。

「もっと暖まりたい。」

もう一本、もう一本…少女は次々と売り物のリップに、火をつけてゆきます!

少女は、リップが灯す火の中に、自分には無い家族団らんの温かい風景や、七面鳥がメインの温かい豪華なディナーを、垣間見ました。

もしここに、ビーツのスープがあれば、どれほど少女の身体は暖まるでしょうか。

もはや、長きに及ぶ厳寒の時に、少女の身体は凍え徐々に意識が遠退いてゆきます。

少女の身体は、もう限界を迎えました。

最後に灯したリップの火の中に、いつもいつも自分の味方をしてくれた、大好きなおばあさんが現れます。

おばあさんは、決して多くを語る事なく柔らかな笑顔で、温かく少女を抱き締め包み込みます。

現実世界を離れ、火の中に取り込まれた少女の顔は、目を瞑った安堵の表情でした。

ーーーーー。

神様は、すぐさま次の入れ物を用意しました。

輪廻転生。

少女の魂は、何度も何度も生まれ変わった物でした。

リップの前は、マッチを。

そしてこの後は、モップ売りの少女として。

その後は、シップ売りの少女として。

シナリオは、ちゃんと決まっているのですー。

おばあさんは、きっと火の中の世界で、半分セロファンを剥がした湿布を手に持って、少女を癒す為のどれほどのビーツのスープよりも温かい満面の笑みで待っている事でしょう。


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