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2章

2-15 寝所

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サラがもう一度目を開けて最初に見たものは、大理石の床だった。
まさか自分だけまた白昼夢に入ってしまったのか?
それにしてもミュー君の後ろに居た大きな影は何だったのだろう…。
んん?ちがうそうじゃない!


「くび!!…ってあれ?!繋がってる?!」

「やあっと起きたか、アポニテ」

「うええっ?!生きてる?!えっ!?みんなおる!ええっ!?」

「せからしか」


スパンッとワトーに叩かれた後頭部がじんわりと痛む。
生きている!でもさっき間違いなく、ミュー君に首をちょん切られた。
いったいどういう事なんだ?
まさかミュー君はマジシャンだったのか?!?!
首と胴体分断マジックだったのか?!?!
などとサラが一人で百面相していると、いつの間にか左横に居たミネルヴァが大きくため息をついた。


「何の妄想を膨らましてるのか知らないが、ここは寝所だ」


んで、あのガキ曰く『死者』しか入れないから一度魂と体を引きはがす必要があったんだ、とミネルヴァは続けて言う。
なるほど~!死んでないと入れないなら仕方ないか~…って、待て待て待て。


「やっぱり死んでるやん!!」

「ごめんなのだよー。ぼくは生者にはさわれないし、寝所には死者しか入れないから…。
一回死んでもらうしかなかったのだよー!」


たはー☆と屈託のない笑顔で言うセリフではないのだが、
状況が状況だけに致し方なかった…と呑み込むしかあるまい。
まさかいっぺん死んでみる?な体験をするなんて思いもしなかった。
サラは自分の体にどこかおかしなところはないかと、改めて手を開いたり閉じたりしてみる。
うん、正常だ。触ってみておかしな…あれれ~?おっかしいぞ~?


「うで!腕が通り抜けんねんけど?!?!」

「おーい、誰かコイツに魂のくだり説明してやってくれー」

「いや、雑う!私の扱い雑過ぎん?!」

「よーし、かくかくしかじかこれこれうまうまで、
さよならさんかくまたきてしかくっす!」

「意味わからんってえええ!!」


と、まあおふざけは大概にして、まじめに説明してもらうと至極単純な話だった。
今、サラ達は『死者』として寝所に存在しているため、肉体を持たない魂だけの状態。
だから幽霊よろしく自分の体から何からすり抜けてしまう半透明なのだ。
しかも魂だけの状態とは肉体という入れ物…例えるなら鎧とか盾がないのと同じ。
防御力が皆無の代わりに、魔力や移動速度が上がっているらしいが無理は禁物だ。

ちなみに朗報とワトーがニヒルに笑いながら教えてくれたのは、肉体には戻れないとのこと。
これのどこが朗報だ、悲報にも程がある。
そしてそのサラ達の肉体は、ミュー君によってきれいに床に並べられていた。
まるで死体のよう…いや、まあ魂と分離しているから死んでいるようなものなのだが…。

自分の体を第三者目線から見る機会なんてそうそうないので、サラはまじまじと見つめる。
鏡で見るのとは違う感覚だ。何というかこう…腿が太…全体的に…いや、やめておこう。
これ以上見ていると虚しさで昇天してしまいそうだ。
サラが空虚な目をしていると、ジュリアが腕を組んでミュー君に詰めよる。


「全く、都合よく嵌められたものだわ。
結局、寝所の問題をどうにかしないと私たちは生きて外界に出られないなんて…。
もしこれで私たちがしくじったら、どうするおつもり?
人間とエルフの命が狩られて、はいおしまいなのかしら?」

「うう、ごめんなのだよー…。
もし失敗しても、兄ちゃんを見つければ生きて帰れると思って…」

「でもそのお兄さんはネル様と一緒にいるんですよね?」

「ううう…その通りなのだよー…」

「お兄さん?どういうこと?」

「ああそうか。コイツ、がきんちょが話していた時はまだ気絶していたんだったな」

「サラねえちゃんのためにもう一度説明するのだよー」


どうやらサラが目覚めるまでに寝所で起こったことや自己紹介は済んでいたらしい。
ひとり置いてきぼりを食らったサラは、ミュー君の話に耳を傾ける。


「ぼくには『セークリット』っていう兄ちゃんがいるのだよー。
ぼくらはねえねのお仕事のお手伝いをしている『御使い』なのだよー」

「お仕事の手伝い?世界樹がどうとか供給がどうとかってこと?」

「ううん。調和のお仕事じゃなくて、眠りのお仕事のほう」

「眠り?何かを眠らせるん?
あ、もしかして睡眠不足の人の悩みを解消する~みたいなこと?」


サラがそう言うと、ジュリアが信じられないといった表情で口を開いた。


「…あなた、まさか本当に知らないの?」

「え?う、うん。」

「眠り…それは人が作り出した隠語です。本来、ネル様は『生と死の神』ですから」

「死…?!」

「死の神、と聞いたら一般人が印象操作を受けやすいと学者様が判断したそうです。
生に関しても死というワードを連想させやすい単語ですから、
世界樹と大地の均衡を保つ…という意味で「調和」に変更したのだとか。
ですから、現在の文献ではネル・ヒュプノス様は『眠りと調和の神』と表記されているのです。
まあこの程度、社会に出れば嫌でも耳にすると思いますが…貴女の育った温かな環境では違ったようです」


リナリアからの補足を聞いてサラは驚愕する。生と死の女神だったなんて…。
サラの勝手なイメージでは人々に安眠を与えつつ、世界の調和をしてくれる優しい女神様だと思っていた。
まさかそんな重要な神様だとは露ほども知らなかった。
この際リナリアに嫌味を言われたことなんかどうでも良くなるほどに、サラは驚いていた。

だって、そうなればミュー君は生と死の女神の御使い、ということになる…。
じゃあやっぱり、あの時ミューくんの後ろにいた黒い影は、見間違いではなかった。
こんな小さな子が、まさか…そんな…。
サラが戸惑っていると、ミュー君は眉根を下げて困ったように笑う。


「そう。ここは魂の眠る場所、だから『寝所』。ぼくが死んだモノの魂を刈り取る。
それからねえねが魂を修復して、兄ちゃんが新しい体にキレイになった魂を入れて送り出すところなのだよー。
だからみんなを肉体に戻せるのは、ねえねか兄ちゃんだけなのだよー」

「や、やっぱりそれって…ミュー君は死神…」

「…うーんと、カミサマじゃないから死の使いって感じなのだよー。
あー…でもでも!死期を知っているのは、ねえねだけなのだよー!
ねえねがエルフに死の夢を見せて、ほかのイキモノに死に誘う眠りを与えて、体から魂を分けるのだよー。
ぼくは体から離れた魂を回収するだけ~。
兄ちゃんやねえねと違ってカンタンなお仕事なのだよー。
でも今は…ねえねが正気に戻らないと、正しく死が訪れないし…
兄ちゃんも居ないから転生も止まっちゃってるのだよー!」


本来は体から離れた魂を稲刈りのように収穫するだけなのだが、
緊急時には一度だけ、ミュー君の意志で無理やり魂を身体から引きはがすこともできるらしい。
先ほどサラ達がやられたように。
それでもこの仕事はカンタンだ、というミュー君はとても辛そうに笑っていた。
人の死を間近で見る仕事なんて、簡単なはずがない。
小さな体で受け止めるには重すぎる役回りだ。
ネル様の仕事が多く、一人でこなせなくなってきた時期に自分たちはつくられたんだとミュー君は言うが、
それならもっと動かしやすそうな大人の体を与えてやればよかったのに…。
兄であるセークリット君もミュー君と同じような背丈の子供姿らしいが、なぜ子供の姿で創ったのだろうか?
不便さの方が多い気がするが…。

と、それよりも考えるべきはネル様だ。
正気ではない、というミュー君の言葉から何か事件が起こったのだろう。
お兄ちゃんも居ない緊急事態。余程の事があったに違いない。


「いったいネル様とセークリット君に何があったん?」

「…1週間くらい前、変な二人組が寝所の結界を無理やり破って入ってきたのだよー」

「二人組?」

「黒いフードを目深に被っていて、僕は顔を見られなかったのだよー。
警戒した兄ちゃんが僕を隠して、ねえねと一緒に奥の間に入ったのだよー。
話し声は聞こえたけど何を話してるかはぜんぜん分からなくて…。
すぐに大きな物音と一緒にねえねの悲鳴が聞こえて、
もう耐えられなくって扉を開けたら、
あの二人組はいなくて、でも、ねえねが呪いを受けて暴走してて…
兄ちゃんは…兄ちゃんは、おかしくなったねえねに襲われててっ…!
兄ちゃんが僕を見て、にげろって…すぐにここを閉じろって…叫んでっ…!」


当時の事を思い出したのか、ミュー君は涙ぐみながらも懸命に言葉を紡ぐ。


「僕…もう、兄ちゃんの言う通りにするしかなくて…!」


ミュー君がしょんぼりする度に、帽子の猫耳も自然と垂れさがっているような印象を受ける。
彼としても必死だったのだろう。生者には触れない彼が助けを求められるのは死者だけ。
それもただの死者ではなく、力の強い死者を探さなくてはいけない。チャンスは一度きり。
ひとりぼっちで何とかしようとした結果が、多少強引だっただけだ。


「ミュー君、ようがんばったなあ」


えらいえらい、とサラがミュー君の頭を優しく撫でつける。
するとミュー君がぎゅうっとサラに抱き付いてきた。


「ぼく、ぼく……扉の仕掛けを動かすことしか、できなくて…」


ぎゅっ、と服の裾を握りしめながらミュー君が悔しそうに顔をしかめる。


「だーいじょうぶ!お姉ちゃんたちに任しときぃ!」

「子供姿に絆されてるお人よしアポニテに出来るんすかねえ~?」

「その場の勢いだけで発言するのはどうかと思うわ」

「突入するにしても、作戦を立ててからだ。神相手に特攻なんて馬鹿げている」

「軽々しく安請け合いするなんて…責任感が欠如していますね」


サラの意気込みに対してジュリアたちはまるで信用していない様子だ。
ミュー君を安心させるために言った言葉がここまで否定されると、
さすがのサラでも少し気落ちしてしまう。
サラとしてはジュリア達と打ち解けてきたと思っていたのだが、
まだ彼女らとは心の溝があるらしい。
エデンの人とはすぐに仲良くなれたのに、やはり他国の人とは環境やら色々と違うし、仲良くなるまでに幾分か時間が必要なのかもしれない。


「と、とにかく!私は精一杯がんばるから!待っててなミュー君!」

「うん。ありがとうなのだよー!サラねえちゃん!」


サラの根拠のない言葉でも少しは救われたのか、ミュー君は明るさを取り戻す。
そして難色を示しているジュリアたちの方を見つめる。


「嫌がるのも無理はないと思うのだよー…。
奥の間に入ったら出られないし、そんな中、死者の状態でねえねと戦うのは難しいって誰だって思う…」

「待て。もしかしなくとも、内側からは開かないのか?」

「へ?そうなのだよー」


ミュー君の返答を聞いた全員が頭を抱える。
サラですら今は血が通っていないのに、血が引いたような感覚だ。
一度入ったらミュー君を呼ぶまで出られない。しかも死者状態なので防御力ゼロ。
そこにいるのは暴走した神さま。
ダメだ、さっき言った言葉を取り消したくなってきた。
ジュリアたちの言う通り、自分は考え無しだったようだ。


「マジっすか…最悪っすね…」

「お兄さんが正気なら、すぐにでも扉前で叫びそうなものですが…それもなかったんですよね?」

「うん…。兄ちゃんは、きっと、この部屋のどこかにいる…と思う…。
すっごく薄っすら魔力は感じるから、まだ消滅はしてない、はず…」

「望み薄ね」


ジュリアの言葉にミュー君がびくり、と体を震わせる。


「おねがいっ!おねがい、します…!にいちゃんを、ねえねをたすけて…っ!
にいちゃんだけでもいい!にいちゃんさえ助けられれば、みんなを生者として送り出せるから…!」


祈るように両手を固く結んだミュー君は瞳を潤ませて懇願する。
ここまで言われると流石に首を縦に振るしかない。
落ち着いて考えてみれば、部屋に入る以外に道はないのだ。
ネル様の相手は難しいだろうが、部屋のどこかに倒れているであろうセークリット君さえ助け出せば、一先ず肉体に戻ることは出来るかもしれないのだから。

小刻みに震えるミュー君を見たミネルヴァが、少し荒く後頭部を掻いてまた大きなため息をつく。
不器用な気遣いにミュー君も心を開いたのか、サラからようやく離れてこう言った。


「ハア~。ったく、仕方あるまい。ガキ、その奥の間というのはどこにある」

「ライナ様っ」

ミネルヴァの発言にリナリアは不安の声をあげたが、それが聞き入れられることは無かった。


「やるだけやってみるしかないだろう。それに死者の状態なら、痛みなく戦える」

「ねえねは死者にも生者にもさわれるから、攻撃くらったら普通にいたいのだよー!」

「は?」

「いたいいたいいたいいたいのだよー!!」


ぐりぐりぐりぃとミネルヴァがミュー君のこめかみをげんこつで挟み込む。
ミネルヴァの苛立ちも分からなくはない。
死者になっても負傷するなら、ネル様との戦闘はどこでやったっておんなじだ。


「とにかく、人数有利はあるんすから奇襲でもかけてみましょうや。ね、姫様」

「そうね…。ここでじっとしていても…」

「死んでいるだけですからね。せめて何かして悔いのないようにしておきましょう」

「リナリア」

「…申し訳ございません、つい口が滑りました」

「ハァー…ったく、おまえは…」


とげとげしい物言いをワザとするリナリアを窘めたミネルヴァだったが、本人に反省の色はなさそうだ。
気にするなよ、という意味なのか、ミネルヴァはポンポンとミュー君の頭を雑に撫でつけた。
少し体をこわばらせたミュー君だったが、ミネルヴァの横顔を見てすぐに顔を緩ませる。


「ありがとうなのだよー、ライナねえちゃん!」

「ミネルヴァだ、クソガキ」


ミネルヴァの小さな優しさに触れたミュー君は、クソガキと言われようが気にしない様子で更に破顔した。
そして一行を引き連れて、仰々しい真っ白な扉の前で足を止める。
骨のように真っ白なその扉に鍵穴はなく、代わりに大きな魔法陣が刻まれている。
見たことのない象形文字が陣の中を渦巻くように連なり、中心部分には銀色の魔石が埋め込まれていた。


「ここに魔力を送ったら、扉は開くのだよー。
でも中に入ったら魔力を送っても何をしても開かないから、出たい時は声をかけて欲しいのだよー!」


ミュー君が魔石部分を指さして言う。
それに対し、サラ達は示し合わせたかのように各々の武器を取り出す。
半透明であるはずのサラ達がなぜ物質を持てるのかって?
どうもミュー君の話では、この世界に存在するすべてのモノには魂が宿っているのだそうだ。
それは物質も人間と同様に。つまりサラ達が手にしているのは武器の霊体である。


「サラ姉ちゃん。たぶん…兄ちゃんはねえねに見つからないように、部屋のどこかに隠れてるんだと思う。
でも警戒心の強い兄ちゃんの事だから、ねえねが見えるところにはいるはずなのだよー!」

「わかった!探すんは得意やで!
かくれんぼで隠れる時は下手くそやったけど、鬼役の時はめっちゃ強かってんから~!」

「神様との死闘付きかくれんぼで鬼役か。難易度高そうだな?」

「ネル様に弱点などは無いのですか?」

「ええ?えーと、うーんと…あ!ねえねは眠気には勝てないのだよー!」

「眠気って…弱点って言えるんすかねソレ」

「私の睡眠魔法が効くといいけれど…」


ジュリアのエルフ魔法の中に、睡眠魔法があるらしい。
ならばネル様に魔法をかけて眠っている隙にセークリット君を救出!
そしてあわよくばネル様の呪いも解呪してあげれば万々歳だ。


「いけるいける!入ってすぐジュリアが睡眠魔法かける作戦で行こ!」

「そんな簡単に…失敗したらどうするのですか?」

「逃げる!」


リナリアの問いにサラが堂々と答えれば、盛大にため息をつかれてしまった。


「そこは逃げながら考える、にしておこうか。
戦場では考えることを止めた奴が先に死んでいくもんだからな」

「へー?そうなんや」


ミネルヴァに諭されたサラは首をかしげたが、素直にその忠告を心にとどめた。
いくつもの戦場を駆けてきた先駆者がそう言うのだから間違いないだろう。
ミネルヴァとジュリアが作戦を練る中、サラは扉をまじまじと見ていた。
そういえば今は霊体なんだし、この扉も体のように通り抜けられないだろうか?
もし通り抜けられるならミュー君にわざわざ扉を開けてもらわなくて済むし、逃げるのも楽ちんだ。
そう思い、試しにサラが扉に手を押し付けると扉がズズンと開いた。


「え?!えっ嘘!?」

「わあああ!霊体で扉に触っちゃダメなのだよー!
魂は魔力そのものだから、反応して開いちゃうのだよー!!」

「ごめん!もう開いた!」

「ええい仕方あるまい!行くぞ!」

「想定外の事ばかりね…」

「全くこれだから平和ボケアポニテは」

「注意力も散漫でしたか…」


部屋の中に駆け込みながらミネルヴァを筆頭にサラへ文句が突き刺さる。
本当にすまないとは思っている。だが開いてしまったものは仕方ない!
全員が部屋の中に入ると即座に後ろで扉が施錠される。
これでミュー君に助けを求めない限りは、完全に密室だ。
そして眼前にはこちらに気づいた様子の女神様。
まがまがしい黒紫色のモヤを纏い、真っ黒な髪を揺らして、暗くよどんだ紫色の瞳が鈍く光りサラ達を捉える。


「アアアアアアアッ!!!」


悲鳴のような奇声のような、聞いているこちらも喉が裂かれそうな呪われた神の叫び。
最早言うまでもなく、眠りと調和の神、ネル・ヒュプノスは自我を失っていた。


「…なかなかに具合が悪そうっすね」

「姫君、手筈通りに」

「そちらもね」

「え、何…「あなたはこっちです」


ミネルヴァとジュリアが視線で合図する中、サラはリナリアに腕を引っ張られ柱の陰に引きずり込まれる。
何がどうなっている、とサラが目を白黒させているとジュリアが左手の指輪を引き抜いた。
それは瞬く間に形を変え、指揮者のタクトのような形状の杖に変化した。
光沢のあるピンク色の細いその杖は、握り手部分が木製で所々に金の彫り物が施されている。
誰が見ても分かる一級品だ。
その杖をジュリアがひとたび振れば、真紅のバラの花びらが彼女の足元に落ち、
その一つ一つが桃色の魔法陣を形成していく。



《翡翠の森より来たれ安らぎの風―



その詠唱の援護に回っているのがミネルヴァとワトー。
右からミネルヴァがネル様に斬りかかり、ワトーは左から体術でサポートしている。
詠唱にかかりきりになっていて無防備なジュリアにヘイトが集まらないよう、二人が視線を集めていた。
その作戦は驚くほど順調に進み、エルフ魔法にしては長めだったジュリアの詠唱が完了する。


―神を誘うはとこしえの眠り
ピクシーが舞い踊るは睡魔の風

ソメイユ ヴォン・フェーブル》



眠りを誘う魔法が、柔らかく春の日差しのように温かい風に乗ってネル様の周囲をめぐる。
心地よいかすかな風にネル様が目を細め、動きを止めた。
成功したか?!そう思った矢先だ。
ネル様がふうっと息を吹きかけると、あっという間にジュリアの魔法は破られてしまった。
まるでタンポポの綿毛を散らすようにかき消された様を見て、ジュリアは一度サラ達の隣にある石柱の陰に体を滑り込ませる。
ジュリアが退く間も牽制役としてワトーとミネルヴァが攻撃の手を止めずにいたが、ネル様の纏うモヤが彼女への攻撃をすべて吸収してしまい、こちらの体力ばかりが削られていた。


「クソッ!当たらないっす!!」

「厄介な…!このモヤを消さないと勝機はないぞ!」

「分かってますって!!」


ミネルヴァの後方からの斬撃に合わせてワトーが飛び膝蹴りを正面切って叩き込もうとする。
しかし、前後に別れての攻撃もモヤが動いて吸収してしまった。
サラも何か援護をしたいが、こうも近接戦をしている仲間が多いと魔法のチョイスが難しい。
そもそもサラが使ってきた魔法の範囲が大きいのだ。
最小でも豊作時の丸々太ったスイカ位のサイズがある。
それをあんな混戦にぶち込めば、いくら機動力が高いワトーでも瞬発性のあるミネルヴァでもかすり傷は負ってしまうだろう。サラ達の方ばかり負傷するのは宜しくない。
だったら攻撃系じゃなくて補助系魔法、いわゆる状態異常魔法を使えば話は早いのだが、それも先ほどのジュリアの魔法で効果はいまひとつ、という結果が出てしまった。


「…詰みましたね…」

「つみ?」

「私の国にあるボードゲームで使われる用語です。
敵を倒すすべが無くなり、負けを認めざるを得ない状況の事を言います」

「ああ~なるほど…って、いやいやいや!まだ早いって!部屋入って5分も経ってないで?!」

「しかし、現状どうすることもできませんよ。
ここは早急に『セークリット』というお兄様を探して退室した方がよさそうです」

「それは、そうかもやけど…!」


退室する、つまりはネル様の暴走をそのままにして寝所を出て行くという事なのだろう。
そんなのは嫌だ!ここまで一人で踏ん張って耐えていたミュー君はどうなる?
あの子の気持ちと約束を踏みにじる事だけはしたくない。
何か手立てはないか…とサラが思案しているとドガンッと大きな物音がした。


「ライナ様!!」

「えっ?なに?!っ…ミネルヴァ!ワトー!」


顔をあげた先には吹っ飛ばされたワトーに覆いかぶさる血濡れのミネルヴァ。
特に左腕の裂傷が酷く、赤黒い血だまりがどんどん海を作っている。
主人の一大事に耐えきれず、サラを護衛していたリナリアは柱の陰から飛び出して駆け寄った。
サラも後をついて行こうと立ち上がったが、小声で名前を呼ばれて足を止める。


「ジュリア?何してんの、はよ行かんとワトーとミネルヴァが!」

「だめ、行っては駄目よ。堪えて」

「何で!?みんなで行った方がカバーできるやん!」

「サラ、落ち着いてよく見るの。ミネルヴァは確かに中傷だけれど、足は動くわ。
何より彼女が庇ってくれたお陰でノアはほぼ無傷。
あそこにリナリアが行くだけで人手は事足りているの。
それより私たちがしなくてはいけないのは『セークリット君』を探すことよ。
こうなったらいち早く少年を見つけ出し、ミネルヴァを連れて撤退すべきだわ」


サラの意見に対し、ジュリアが矢継ぎ早に説き伏せる。
早口になったジュリアを改めてみれば、焦燥感がぬぐい切れていない。
彼女も本来は、従者の元に駆け寄りたいのだ。
無傷だとわかっていても、それでも…今すぐにでも。


「この部屋のどこかに隠れられるところがあるはずなの…。
それを探すわよ。あなた、かくれんぼは得意なのでしょう?」

「う、うん。分かった!ちょっと真剣に隠れられそうな場所、考えてみる!」


そう言ってサラは辺りをぐるりと見渡した。
部屋の中に隠れられそうな物は無い。殺風景な正方形の部屋で、4本の支柱が天井まで伸びているだけ。
特に屋根裏があったり、梁に登れたりは出来なさそうだ。となれば後は…下だ。
床下や地下に空間があるか調べるのは簡単だ。
それがかくれんぼで隠れている人をあぶり出すためなら尚更。
いたずらっぽくサラが口角を上げるのを見て察したのか、ジュリアが口を開く。


「私が扉の前へ行ってミューリット君に合図を送るわ。全員が揃った時点で一気に脱出しましょう」

「オッケー!それまでにセー君見つけたらええんやな!」

「時間は限られているし難しいわ…でも、やるしかないの。
私の方でも貴女にネル様の手が及ばないよう色々試すけれど、期待はしないで頂戴」

「わかってるって!ミネルヴァにも思考を止めた奴が負けって教えてもらったし!
私なりに考えて動いたるで~!」

「そ、そう…。あまり張り切り過ぎないようにね…」


妙に息巻いているサラに対し、ジュリアは言葉を少し詰まらせ困惑の表情を浮かべる。
隣のお姫様が不安、心配、不信といった負の感情3コンボを巡らせていることなど、サラは全く気が付かない。
久しぶりにあの魔法が使えると思うと、ウキウキが止まらないのだ。
じゃあ行くわね、とジュリアが浮足立っているサラを残して扉の方へ走った。
その後ろ姿を見て、察しの良いリナリアやワトーは作戦に気づいたらしい。
リナリアがミネルヴァに肩を貸して足を進めつつ、ワトーが適度にネル様の相手をしながら距離を離していく。
流石みんな戦い慣れているなあと呑気に感心していたサラもグッと伸びをしてから杖を構える。


「ふっふっふ~。ちょーっと強引やけど、これが一番確実やんね!さあ出てこいセー君!」



《水底に潜む静謐の水竜よ
彼の地に白水の急流を湧き起こしたまえ


ウォーターラピッド》



手早く詠唱を済ませればサラの足元で魔法陣がオレンジ色に輝く。
杖先の翼が数度羽ばたいた途端、どこからともなく急速に水が押し寄せてきた。


「なに?!水攻め?!」

「何考えてんだアポニテ~!」

「っ、エトワールさん!そういうものは先に言ってください!」

「ご、ごめんって~!」


セー君をあぶりだすことしか考えていなかったサラは、仲間の位置を把握できていなかった。
突如として水流に巻き込まれたリナリアたちだったが、何とか柱に捕まるなどして持ちこたえてくれている。
扉前には水が来ていなかったため、ジュリアもリナリアたちが早く合流できるよう、エルフ魔法で風を送ったりしてサポートしている。


「やらかしちゃったな~…次からは気いつけんと…」


ただ、この水流のおかげでネル様に不意を衝く事は出来たらしい。
彼女が水に足を掬われて体勢を崩しているうちに、早くセー君を探し出さなければ…。
ひざ下あたりまでの水流がとめどなく流れ続けているのに、部屋の水位は上がらない。
それは何故か?どこかに流れ込んでいるからだ。
地下に空間があるとすれば、間違いなく出入りするための隙間が発生する。
そこに水が急激に流れ込めば、水の流れの変化は一目瞭然。


「みーつけた!」


部屋の隅の一角。そこに渦巻いている水。


《リフレクター》


靴底に魔法反射壁を纏わせれば、自らの魔法で創られた水流の水面を走り抜けることができる。
この裏技は昔、お兄ちゃんから教えてもらったものだ。
本来、魔法防御壁や反射魔法壁はドーム状にしたり、正円にして対象者を守る術だ。
だが、兄はそれを体の一部にだけ展開して敵の魔法の上を歩いたり掻い潜ったりしていた。
いわゆる応用なのだが、これがとてつもなく難しい。
サラが何とか頑張って習得できたのは、靴底に魔法壁を張るものだけだった。
だが、この裏技のおかげでサラは急激にかくれんぼに強くなった。

エデンでのかくれんぼは一般的に魔法の使用が認められている。
強い魔導師になるための足掛かりとしても良い訓練法で、こどもたちにとっては最高の遊びだ。
そのかくれんぼで、鬼役になったサラは最強だった。
なんせ怪しいところを水攻め、相手が魔法で脱出しようとしたら距離を詰めて攻撃してとどめ。
反対に魔法で反撃してきたら、弱めの雷魔法をお見舞いしてあげれば麻痺して動けなくなる。
その際に移動手段として大活躍したのが、この裏技である。


「まあ、あとから反則行為認定されて使えんくなったけどなあ~」


そう独り言ちながら水が下る先の床板の隙間に杖をねじ込む。
てこの原理を利用して持ち上がった床板を取り除き、ぽっかりと開いた地下空間を覗き込めば、ずぶぬれの少年がこちらを睨んでいた。


「え、えーと…はじめまして~!サラ・エトワールでーす…アハハ~!」

「笑いごとかよこのポンコツ魔導師!さっさと助けろコノヤロー!」


ムキー!と目くじらを立てて怒りをあらわにしている彼こそがセークリットで間違いないだろう。
サラはほんまにすまんかったと頭をペコペコ下げつつ、彼の体を引っ張り上げる。
セークリットは本当にミューリットと兄弟なのか怪しいほど性格や雰囲気は似ていないようだ。
だが、服装は色味こそ違えど作りは同じだし、よくよく見れば外見は似ている。
小生意気なセー君の方が少し釣り目気味でそばかすがあるものの、凛々しく端正な顔立ちだ。
あとはそうだな…


「ミュー君よりちっちゃいんやね」

「な、ばっ、ちっげえよバーカ!!ミューのアレは帽子で盛ってんだよバーカ!」

「あはは、かわい~!」

「や、やめろ!撫でてんじゃねーぞコノヤロー!」


弟より背が低いことをずいぶん気にしているお兄ちゃんだったらしい。
照れ隠しにバーカバーカと繰り返す様すら可愛らしく、サラはセー君の頭をパン生地のようにこねくり回した。
その度にセー君からの好感度は下がっていったが気にしない。
諦めたのか死んだ魚のような目をして、撫で繰り回されるがままのセー君が突然サラの手を払いのけて一点を見つめる。


「っ!ねえね…!」


急に動きを止めたセー君の視線の先にあったのは、ネル様。
サラの水魔法はまだ流れ続けていたが、神である彼女にとっては赤子の手をひねる様な物だった。
ふわりふわりと宙を歩くネル様が向かう先は扉。
此方の事など気にも留めていない様子だった。何かがおかしい。
今まで気が狂ったように近場の物や人を無座別に攻撃していたのに、急に大人しくなった。


「水ですっきりしたとか…?」

「んなわけあるか!ミューが危ない!!」

「へ?ミュー君?」


ネル様が向かう先は扉。扉の向こうにはミュー君がいる。
しかも、ジュリアと合流したリナリアたちがサラたちの到着を待ってくれているのが見えた。


「サラ!!はやく!!」

「うわわっ!はよ行くで~!!」


セー君を抱きかかえてサラは水面を蹴り上げる。
サラが水を駆けるのが先か、ネル様が漂いつくのが先か。そんなことは見るまでもなかった。
クラゲのように漂うネル様の横を走りぬき、不安と焦燥が入り乱れるジュリアたちの元に辿り着いた。
無事、セー君を扉の前におろせばジュリアが胸をなでおろした様子で扉の向こう側へ声をかける。


「ミューリット君!開けて頂戴!お兄様を見つけたわ!」

「わ、わかったのだよー!!」


扉の向こうにいるミュー君が慌てた様子で返答し、すぐさま扉が開かれる。
なだれ込むようにリナリアとワトーがミネルヴァとジュリアを部屋の外に押し込んだのを見て、
サラは扉を前にして足を止めた。
ひらりとローブを翻し、迫りくるネル様に杖を向ける。


《ウィンドボール》


ヒュゴウッ!とつむじ風がネル様の体めがけて飛んでいく。
それをネル様は左手で払いのけるも、まだサラの方へは顔を向けてくれない。
扉の向こうにいるミュー君だけを見つめるその瞳は、深く暗い紫色の光を灯している。
でも、おかしいのだ。
神術の原理は分からないが、ネル様ほどの魔力を持つ神であれば、
今この距離でもミュー君を攻撃することなんて簡単なはず。そもそも浮遊している間も妙に足取りが遅い。
もっと残酷なことを言えば、指先ひとつでミネルヴァやワトーの命を奪うことも容易い…だろう。
そう考えれば考えるほど、一つの可能性に辿り着いてしまう。

もしかしたらネル様は、水面下で呪いと戦っているのかもしれない。
まだ、希望はあるかもしれない…と。

ミュー君たちがネル様をねえねと慕うように、ネル様だってミュー君たちを大切に想っているはずだ。
だったらサラが次にとる行動は決まっている。


「な、なにしてんだよ!早く部屋から出ないとおまえら…「助ける!」

「はあ?!」

「サラ!!何してるのはやく!!」

「アポニテ!!」

「エトワールさん!!」

「サラ姉ちゃん!!」


リナリアたちがサラを呼んでいる。でも、もうセー君は助け出したし作戦としては達成した。
これはただのわがままだ。


「約束してん!ミュー君と!ねえねを助けるって!やからここに残る!」

「サラ姉ちゃん…!」

「勝てるわけないだろコノヤロー!俺たちのねえねだぞ!めちゃくちゃ強いんだぞ!
しかも暴走してんだぞ!無理だよ!」

「まだ間に合うかもしれんねん!ネル様が頑張ってんのに諦められへんよ!!」

「頑張る?じゃあもしかして…」

「……そうか、抗っている…」

「ライナ様?ライナ様!!意識が…!駄目です早く扉を閉めてください!危険です!」


背中越しにドサッと崩れ落ちる音がした。ミネルヴァは酷い出血だった。
今になってようやく意識を手放したのは、扉をくぐりセー君の姿を確認したからだろう。
重たい音が扉と共に動く。早くみんなを安全な場所に行かせないと。
こんな計画性のかけらもない、勝算も見いだせない賭けに乗るのは自分一人で十分だ。


「大丈夫!ほんまにキツくなったら戻るから!みんなはセー君の力で体元に戻してもらって!」

「っ?!待って、だめ、だめよ!行っては駄目…――!!

「やるだけやってみる!!」


ジュリアのすがるような声をサラは大声で遮った。
最後まで聞き取れなかった彼女の言葉は、またあとで聞くとしよう。
それまではしばしの別れだ。
その時、後ろ手にバタンと扉の閉まる音が聞こえた。


「アアアアアアアッ!!!」


閉ざされた扉とサラを見て、ネル様がまた狂気に陥る。
やはりセー君の言った通り、狙いはミュー君だったようだ。


「大丈夫、やればできる!」


自分を奮い立たせるため、サラは腹から声を出し両足に力を入れた。
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