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2章

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さて、目元を赤く腫らしたリナリアを引き連れて、サラとミネルヴァは大広間へと戻った。
パロマとジュリアの体調も動ける程度には回復しており、これからどうしたものかと言ったところでミネルヴァがそういえば、と話を切り出す。


「名乗りが遅れてすまない。
ミネルヴァ・L・カロラ・レアードだ。
こんなナリだが、この国の王女の座についている」

「私はサラ!サラ・エトワールやで!よろしくなあ~!」

「ああ。何か分からんが、おまえのおかげで助かった。
礼を言う」

「えへへ~それほどでも~」


よーしよしよしと、待てができた犬のように頭を撫で繰り回された。
それでもこの旅路で初めて人に褒められ、悪い気がしないサラはでへでへと頬を緩ませる。
そんな締まりのないサラの自己紹介と交代で、ジュリアがワトーを後ろに連れてミネルヴァ達の前に出た。

「翡翠の森を讃えし国。レニセロウスが第一王女、ジュリア・ド・レニセロウスですわ」

仰々しく本名を名乗りお辞儀をするジュリアを見て、これは仕方がないかとサラは腕を組む。
ジュリアの変化の指輪はカスコーネに壊されてしまって、今や麗しいエルフのお姫様オーラをとめどなく解禁しているのだから。
初見の人たちは驚いただろうとミネルヴァの方を見るも、さほど驚いていない。
目を奪われているのはパロマだけだった。
え、なんで?とサラがつまらなさそうにしているとワトーがスススと寄ってきた。
王族なんだからお互いの事くらい知ってるってのバーカ、と小声で悪態をつかれたサラは、むうっと頬を膨らませる。
そんな程度の低い会話をこそこそしている中でも、王族同士の実りある話は続いていく。


「此度はその心労の程、お察しする。
国の病はどうなっている?」

「それを解くべく、旅をしている最中ですわ」

「ま、変な魔導師も引っ付いてきちゃいましたけどね~」

「ワトー」


ジュリアがワトーの言動を嗜めるように名前を呼ぶと、当の本人は珍しく反省の色を見せないまま腰だけを折って後ろに下がった。そのやり取りを見たミネルヴァが苦笑いを浮かべて一つの提案をする。


「まあ、なんだ。堅苦しい姿勢は互いにやめようじゃあないか。こんな状況下で王族も何もあるまい」

「…そう、ね。では改めて。よろしく、ミネルヴァ」

「ああ。よろしく頼む。
そちらは姿が違うが…ジュリアの従者か?」

「ノアイユ・ワトーっす。蕎麦が好きでーす。
よろしくおねがいしまーす」

「もうノアったら!ちゃんとなさい!
あ、ええと…姿については深い事情があって…」


ジュリアが変化の指輪と偽名について話すとミネルヴァは納得したのか、深くうなずいた。


「成程。確かに、まだまだエルフへの偏見を拭い去ることは難しい国も多いからな…。
まあ、私は気にしていないから、普段の姿でいてくれて構わんぞ。
しょっちゅう人目を気にしていては滅入るだろう。
楽にできる時くらい羽を休めておけ」

「え」


話の流れでミネルヴァから頭をくしゃりと撫でられたジュリアは、瞳が零れ落ちそうなほど目を見開く。
驚き固まるジュリアを見かねて、ミネルヴァの傍からべりっと引きはがしたのはワトーだった。


「…姫様に気やすく触らないでもらえますかね、ミネルヴァ王女殿下」

「すまんすまん。つい癖でな。
そうだ、パロマ。おまえ、体は平気か?」


じろりと睨まれたミネルヴァは左耳後ろを掻きながら、ジュリアにも急に触れて悪かったなと軽く謝る。
そのついでと言ったら怒られそうだが、ジュリアの近くにいたパロマに目が留まったミネルヴァが声をかける。


「ダイジョーブでーす。ご心配ありがとーございまーす」

「パロマ!あなたという人はいつになったら礼儀を覚えるのですか!」

「え~?ちゃんとしてますよ~。リナリア様~」

「その間延びした口調を矯正しろと再三申し上げているのですけど?!」


キャンキャンと子犬同士の喧嘩を見ているような気分になった時、サラははて、と首をかしげる。


「パロマってミネルヴァとも知り合いなん?」

「え~?前にも言ったじゃん!ミネルヴァ様はしょっちゅう町に来てるって!
地元民で喋ったことない奴なんかいないんじゃない?そのせいでお付きの人は大変みたいだけど」

「城下は実に面白いからな!しかしまあ、パロマとは町ではなく地下道で出くわしたんで驚いたものだ。
なにせ、ろくに使われていない方の地下道をシャベル1本で城へ繋がる方向に捻じ曲げてきたんだ、そんなガッツのある変人を放っておくのは失礼だろう?」


褒めているんだか、けなしているんだか。
兎にも角にもパロマとミネルヴァ、そしてリナリアはよく見知った間柄である、という事が判明した。
いやはや、井戸を通る際にちらりと聞いてはいたが、まさか手掘りで地下道の整備をしていたとは驚きである。


「やあっと貫通したーって思ったら、掘った先の道で名の知れたイケメン王女サマが急きょ視界降臨じゃん?
アレはさすがに首切られっかなって焦った~」

「ああ。一瞬、癖で剣を抜きかけたんだがな。
改めて見れば、泥にまみれて小汚い娘じゃあないか。
それにすぐ投降して身元も割れたから、害はないと判断した」


まさかその変な女と今では毎日のように地下道で挨拶する中になるとはゆめゆめ思うまいて、と笑い飛ばすミネルヴァの後ろに般若が立っていることを本人は気づいておらず、パロマだけがサッと顔を青くした。


「…パロマ。あなたという人はまだ懲りずに利用しているのですか?何度となく注意勧告は出しましたよ?
あそこは地盤が緩くて危険なので、今後一切、通らないようにと!」

「ああああリ、リナリア様は自己紹介!自己紹介しなくていいのかなあ~?!ひとりだけしてないよなあ~!!
アタシはもうみんなと顔見知りだけど~!!」

「なっ、今はそんな話は…「おっと。それはいかんな」


リナリアに詰められた末に慌てて言い放ったパロマの意見が、意外にもまかり通ってしまった。
えっ、と表情を曇らせるリナリアの二の腕をミネルヴァがしっかり掴み、さあさあと皆の前に突き出した。
眉間に山脈を連ならせて目も細めるリナリアの表情は、お世辞にも話しかけやすいとは言い難い。
異様に神妙で厳格な雰囲気を保ったまま、彼女は腹をくくったように息を大きく吸い込んだ。


「…リナリア・マツユキです」

「リナリア。おまえ…それだけか?」

「従者ですから、名前だけで十分です」

「あいっかわらず可愛げのないヤツだな。
もうちょっと茶目っ気を出せんのか」


何か問題でも?と言いたげなリナリアを見たミネルヴァは左耳後ろを軽く指で掻いて、ため息をつく。


「すまんな、コイツ人見知りで面倒くさい奴なんだ。
でも慣れてきたらモソモソ話し出すから懲りずに話しかけてやってくれ。
あとはツンデレ属性も持ってるから、全部照れ隠しで本当は喜んでるんだなと理解してやってほしい。
うまくいったら完全に懐くし、頭をなでると喜ぶようになる。
ちなみに好きな食べ物はアップルパイだぞ」

「ら、ライナ様!!」


まるで新種の動物の手懐け方のように紹介され、挙句の果てには好物も勝手に公表されたリナリアは慌てて抗議を唱えようとするも、その前に優雅な横やりが入る事となる。


「まあ、アップルパイがお好きなの?
おいしいわよね。私もお紅茶に合うから好きだわ」

「…っ!!」

「良かったなリナリア。アップルパイ同盟でも組んどくか?」

「組みません!!」

「あら、残念。はじめてティーパーティーのお相手ができたと思ったのだけれど…」


ジュリアがとても悲しそうにそう呟くと、リナリアはバツの悪そうな顔で両指を遊ばせる。
つい、と目線を逸らしつつ薄い唇を尖らせて、もたもたと口を開く。


「……す、すこしだけなら…」

「いつでもオッケー毎日でもウェルカムお友達ができて嬉しいです、とのことだ!良かったなジュリア!」

「違います!おかしな意訳は止めてください!!」


小さな一言があっという間にミネルヴァによって意を介さない長文へ変換され、リナリアは目を白黒させる。
慌てふためくリナリアへの追い打ちは止まらない。
意訳への猛抗議にかぶせるように、ジュリアが目を潤ませて言い放つ。


「じゃあ、やっぱり…私とは紅茶を飲んでくださらないのね…」


大きな瞳いっぱいに涙をためて視線を落とすジュリアは、まるで深窓の令嬢が決して叶わぬ恋を憂いているような雰囲気を醸し出す。こんなの放っておけるはずがない。
野生の動物ですら心配して彼女の膝にすり寄ってしまうようなプリンセスぶりなのだから。
早くだれか慰めてあげないと、とサラがおろおろしているとミネルヴァが口を開いた。


「あーあーこれじゃあジュリアがかわいそうだろう。
ひどい奴だなあリナリア。おまえに心ってもんは無いのか?」

「あ、あります…!」

「どんと来いと言っている、いつでも誘ってやってくれ」

「まあうれしい」

「ああああああ!!もう!!」


実に楽しそうに笑うミネルヴァとジュリアに挟まれたリナリアが、苦悶の表情で頭を抱える。
ミネルヴァがリナリアを弄くり倒して遊んでいる姿はどこかのお姫さまが蕎麦好きの従者をミノムシにしている様子に瓜二つだ。

そうだ、どこかのお姫さまと言えば。
すっかり姿かたちも見えなくなった、あの儚くも美しい涙はどこへ行ったのか。
サラはジュリアの演技にまんまと騙されてしまったようだ。
なかなかやるじゃないか。まあ全審査員がスタンディングオベーションしてしまう実力派演技女優の自分ほどではないが、とサラは腕を組む。
その横で一種のコントのようにも見えるミネルヴァ達の会話の応酬を聞いていたワトーがおお、と称賛の息を漏らす。


「姫様が生き生きとしてらっしゃる…」

「リナリア様っていじられキャラだったんだ~…」



「ちがいますってばあああ!!もう!!!」


ワトーとパロマの意見をよそに、女王様たちのおもちゃにされる被害者は白旗代わりの大声をあげた。

これ以上やるとリナリアが拗ねてしまうとの事だったので、サラ達はやっと本題に入るため、その場に輪になって座る。
リナリアがらみのコントで少々場も和んだ6人は、外の様子について情報を共有した。
町には例の魔物が数えきれないほどいること。
魔物の足元に散乱していた武器、それが人々の成れの果てだということ。
ヒュブリスが居たこと。
見たまま、聞いたままの限りを話し終えると、ジュリアが下唇に指を軽く添えて考え込む。


「むごいっすね…」

「カロラの民まで犠牲になるなんて…」

「……」


話を聞かされたジュリアたちは俯き、その表情に影を落とす。
お通夜のような暗いムードの中、ミネルヴァがひとついいかとジュリアに問いかける。


「民を救う方法を…知らないか?
私には、国を救う責務がある」

「そうね…。確証はゼロに等しいけれど…エデンにあったアルティナ様の杖『デア・ゲネシス』。
今サラが持っているこの杖が魔力を完全に取り戻せば、治るかもしれないわ。正直…限りなく望みは薄いけれど」


ジュリアはミネルヴァとリナリアに杖の足りない魔石の事や、レニセロウスのことを詳しく話した。


「…成程。
雲の行く先である我が国を案じてここに来た、という事か…」

「ええ。…あの、こんな時にお尋ねする話じゃないかもしれないのだけれど…どうしても気になることがあって。
マーファクトの兵が、こちらに来ているのはご存じかしら…?」

「…カーバンクル隊の事ですか?」


リナリアが言った『カーバンクル隊』という単語にジュリアはびくりと肩を震わせる。
サラの隣に座るワトーからは無言の怒りのようなものを感じた。
怒りと悲しみと恐怖。すべてが混濁した表情を浮かべる二人は、サラが想像する以上にカーバンクル隊への怨嗟があるようだった。
追手の安否は彼女らにとって生死にかかわること。
本当なら名乗るよりも先に聞きたかっただろうに、ジュリアは話の流れを崩すまいと笑顔を作っていたのだ。

そんな2人の様子を見たリナリアはミネルヴァに何かの確認を取るように目線を合わせると、意図を汲んだミネルヴァが神妙な面持ちでうなずいた。


「彼らが検問を過ぎたのは一昨日です。
今は休戦しているとはいえマーファクトの軍人ですから、国での滞在地の確認も取ったと門番から報告を受けました。
カーバンクル隊に所属する3人の男が『モルゲンゾンネ』に宿泊すると」

「…だから宿を聞いたのね」


そういえばリナリアはワトーがスリにあった時、ジュリアに宿泊先はどこかと聞いていた。
カーバンクルと同じ宿なのかを危惧していた、と話すリナリアの口ぶりからして、あの時にはすでにジュリアたちがエルフであると目星をつけていたらしい。


「カーバンクルと聞いて思いつくのは一つしかない。
カロラにエルフが逃げ込んでいるのだろうと確信した私は、国中の宿屋と検問内容を調べていた。
そして昨日のことがあって疑惑は確信に変わった」

「確信した?それはおかしいっすよ。
指輪で姿は変えているし、特に変な行動もしていない気がするんすけど」

「財布に本名を書くのは止めた方がいいぞ、ノアイユ・ワトー」

「あ」


ワトーが漏らした声にジュリアが頭を抱える。
財布を手渡す前に名前を見つけたミネルヴァは、会話の流れの中で『お客人』という隠語を使い、リナリアにジュリアたちがエルフであることを伝えたそうだ。
エデンの時もワトーの行動が原因で話題になったりしていたのだ。彼女には隠密行動は向かないのではと一人思い、サラは呆れ交じりに乾いた笑いを浮かべる。


「なら、カーバンクルはもう…いない、のかしら?」

「詳しくは分かりません。
『武器』に成ったのかもしれませんし、昨晩の騒ぎで脱出している可能性もあります」

「とにかくここでくすぶっていても仕方あるまい。
これから各自どうするのか、話し合う必要がある」


君たちはどうする?と問われたジュリアが指を下唇に当てて思案する。
ジュリアの回答が出る前に、サラにはどうしても話しておきたいことがあった。


「あ、あの!私!エデンに行きたい!!です!」

「エデン?」

「どうしたのサラ、何か忘れ物でもあったの?」


エデンで起こっている異変をジュリアとワトーはまだ知らない。
サラはあの時聞いたことを思い出しながら、それを言葉にしていく。


「えっと、エデンが…国全体が水晶に覆われたって飛翔亭のおっちゃんから聞いて、それで…みんなが心配で…」

「エデンが水晶に覆われた…?」

「それいつの話っすか?」

「昨日の夜に聞いて…「そのお話でしたら、生きていらっしゃいますよ」

「え?!」


サラはうつむきがちだった顔をバッと上げて、リナリアの方を見る。


「エデンの皆さんはご存命です。私の偵察隊からの調査報告が上がっていましたので、間違いないかと」


それはセントレード国も同様に、とリナリアは続ける。
セントレードの市民は『本』に変えられているが、まだ辛うじて生きている。
カロラに何かあっても早期に対応できるようにと独自で動いていたが、結果は出せませんでしたとリナリアは自虐交じりにそう言った。
ここまでリナリアの話を聞いて、ミネルヴァがピクリと片眉を動かす。


「待て。なんで私のところまで報告が上がってきてないんだ」

「私も現地調査に加わってから上げようと思っていたのです」


本当か?と訝しげにリナリアの顔色を窺うミネルヴァだったが、スンとすまし顔を貫く部下の様子を見てため息をついた。
これ以上詮索したところでリナリアは決して口を割らないだろうと、早々に諦めたらしいミネルヴァは話を続ける。


「…まあいい、となるとだ。
エデンやセントレードの民は姿を変えられているが、まだ魔力をすべて吸い上げられていないことになる」


カロラの人たちは武器にされたうえで、魔力を吸い取られて塵になったのをサラ達は目撃している。
魔力目的だと考えると、エデンやセントレードの人たちも塵となって消えていなければおかしいのだ。
ではなぜ、まだ2国の人々は生かされているのか。


「レニセロウスは植物化っすけど、これらに何か共通点でもあるんすかね…?」

「花とー、本とー、宝石と武器ぃ?新手のなぞなぞ?」


人が姿を変えたものをパロマがダラダラと言う。
魔力を奪うだけなら人のままでもできただろうに、何故ヒュブリスは『物』に変えたのだろう?
人と物の違い…抵抗するかしないかくらいか?
魔力循環がどうとか、色々小難しい論争が真横で繰り広げられる中、サラは自分の考えをまとめるように呟く。


「うーん…まあ、人の時よりかは攫いやすいよなあ。
みんな動かへんし」

「動かない…?」

「それだ!!」

「うわっ、びっくりした!」


サラの何気ない独り言にミネルヴァ達が声をあげた。
急に自分の意見を拾われ、ドクンと心臓がアホ毛と一緒に跳ね上がる。
なんなんだ、いったい。どうした急に。
目を丸くしているサラをよそに、ミネルヴァ達は光明が見えたと云わんばかりに話し出す。


「動くものを物質化すればメリットがある」

「魔力吸収率ね」

「その通りだ。魔力を集めている奴がどうして人をわざわざ物質化させて置いておく必要がある?
さっさと魔力を根こそぎ奪って殺せばいいものを」

「もしかして、吸引力がないのでしょうか?」

「…それも一理ある。もしくは…」

「膨大な魔力を備蓄するための器が完成していない、のかもしれないわね」

「え、え?どういうこと?」


話のレベルが高すぎてサラにはついていけない。
魔力吸収率?器って何?水のように話が流れていく。
サラが会話の濁流に流されているのを見かねて、パロマがちょいちょいとサラの服を引っ張る。


「人が持てる魔力量って生まれた時から決まってるっしょ?」

「うん」


パロマは片手でカバンから鉛筆と小さな手帳を取り出し、簡単にコップの絵を描いた。
これが器ね、と言ってさらに描き進めていく。


「コップ一杯しか魔力という水を汲めない奴が、ほかの人の水を奪い取って自分のコップに入れたってあふれるだけじゃん?んで、リナリア様はこのコップを奪い取る力が足りないから今は保留してる。
お姫様は自分のコップが小さいから大きくなるまで保管してんじゃないかって、それぞれ予想してるってこと」

「ふんふん、じゃあ魔力吸収率って言うのは?」

「魔法使ってて魔力が底をついたら、次は体からエネルギー取られるじゃん?つまり生命力も魔力になる。
人の体から魔力を直接取り上げると、生命力は魔力に変換されてないから魔力として奪えない。
でも物質にしたら、生命力と魔力が一つにまとまるから吸収する魔力は格段に増えるってワケ」

「あー!なるほど!!パロマすごいな!わかりやすい!」


先ほどのはそういう意味だったのか。
みんな難しい単語ばかり使わずに、もっとパロマみたいに絵に描いて説明してくれればいいものを。
にしても簡単な絵は分かりやすく描けるんだなこの人。どうやったらここから複雑怪奇な奇妙極まりない絵が爆誕するのか教えて欲しい。
サラがやっと話の内容を理解したのを見計らって、ミネルヴァがまた口を開く。


「仮にヒュブリスが我々の考える通りだとすると、タイムリミットは物質化した人々が力尽きるまで。
もしくはヒュブリスが魔力を吸いつくすまで、ということになる」

「それまでに、杖を完全復活させたらええんやろ?」

「サラ、あなた…」


ジュリアは到底かなわないと思っているだろうが、希望はあるのだ。
さっきの奇跡の時にばっちり感じ取ってしまったのだから。


「ジュリア最初に言ってたやん。杖が力を取り戻したらレニセロウスのために使って欲しいって」


奇跡も起きてみんな助かったやんと言っても、ジュリアたちの顔は渋いまま。
どうして?自分の意見だけでは足りないのだろうか?


「先ほどもミネルヴァ様たちに説明したけれど、それは『もし』という希望的観測で言っただけよ。杖に本来あった魔石がまだ現存しているなんて、とても低い確率だと思うわ…」

「確かに…もう何百年も前の、しかも伝説にまでなっている物の一部っすからね…」


伝説級の杖が現存していただけでも極めて稀なことなのに、その失われた魔石の行方をたどるのは困難だと二人は口をそろえる。もし、仮に場所を特定できたとしても、魔石がそこに今も保管されている可能性は0に近い。
でも、0に近いだけで1でもあるだろうとサラは思う。
最初っから諦めて探さないよりも、探してなかったと落胆する方がよっぽどいい。


「まあ、確かに一理あるだろう。
私たちとしても魔物が人に戻る瞬間を見たんだ。救われる可能性があるのなら、かけてみたいとは思う」

「ライナ様、この方たちについて行くおつもりで?」

「あくまで同行だ。この後エルフの姫が賊に捕まったりしてみろ。寝覚めも後味も悪くなる」

「それはそうですが…」


せめて安全な場所で休めるまでは私の剣を貸そうじゃあないか、とミネルヴァは続ける。
それとは対照的にリナリアは顔に影を落としていた。


「ときにアホ毛魔導師」

「サラやってば!」

「お前の考えには賛同しよう。
しかしその前に一つ、確認しておきたいことがある」


改まってサラの方を見たミネルヴァは、サラの持つ杖を指さしてこう言った。


「そもそもこの杖は、間違いなく本物なのか?」

「ほ、本物やって!さっきもすごかったやん!」

「…貴女は奇跡というけれど、じゃああなたの右手を魔法陣と繋いでいた鎖は何だというの?」

「そうだな…杖というより、お前の枷が外れて凄い魔法が発動したように見えた」

「奇跡的な上級魔法、という意味でと言っているのかと思っていましたが…違いましたか」


鎖?枷?いったい何の話をしているんだ?サラは言い表せぬ焦りを感じ、口調を強めて主張する。


「奇跡的な魔法…?ちゃうよ!
あれはアルティナ様の杖の中で夢を見て、それで!」


杖を通して見た白昼夢、幻影から託された呪文と力。覚えている限りの事柄を細かく懸命に、サラなりに伝えた。
伝えた、つもりだった。
夢の話をすればするほど、ミネルヴァとリナリアの表情が険しくなっていく。
ジュリアもワトーも目を合わせてくれなくなった。
まるで、妄想話だと言われているような態度を取られた。
そしてついに、これ以上は聞くに堪えんとミネルヴァが口を挟む。


「ああ、わかったわかった。要するにお前は夢見心地で現実に起こったことをよく覚えていないんだな?」

「そ、そんなんじゃ…」

「でも実際、杖を構えて突っ立っていた時はピクリとも反応しなかったっすよ。呪文を唱えるまでは」

「…だ、だけど…」

「私たちはお前の力には可能性を感じるが、その杖の真偽については疑いの目を持っている。
本物であると、太鼓判でも押されない限りな」


そう言われてしまっては、黙る他なかった。
確かに皆の言う通り、夢を見ていた間に現実で何が起こっていたかなんてサラには分からない。
ジュリアは鎖が見えたと言っていた。自分にそんな枷がはめられている?
いったい誰が?なんのために?いつどうやって付けたというのか。
自分の知らないところで自分の体に嵌められた枷。背中がぞくりとした。今は、これ以上考えるのはやめておこう。
これ以上言っても、皆を困らせるだけだ。

変なこと言ってごめん、と笑って謝罪すれば、ピリピリとした空気は掻き消えた。


「やはり鑑定に出すしか方法はないのでは?」

「大昔のモノを鑑定ぃ?できるはずがない。
宝石ならまだしも、杖だろう?よっぽどのアンティークマニアで武器に精通していなければ分かるまい」

「よっぽどのアンティークマニアで…武器に精通している人物…」


ミネルヴァとリナリアは二人同時に考えこみ、そして二人同時に顔をあげた。


「あれ?いるな」
「ええ、いますね」

「いるんすか?!」


ズコーッとひっくり返るワトーと一緒に、あらまあとジュリアも驚く。


「私の元執事が変わったジジイでな。相当な古美術コレクターで折れた直剣から魔具まで扱っている。
挙句の果てには修理したりレプリカまで作るもんだから、鑑識眼はかなりのものだ」

「修理…その方は指輪も修理できるかしら?」


指輪、そう言ったジュリアの意図を察してミネルヴァは完璧な回答をする。


「ああ、できるだろう。以前城にいたときは、変化の指輪も持っていたからな」

「その人、今はどこに居るんすか?」

「えー…「マルモル村ですよ」

「あー、そういえば言ってたか。マルモル村。
パトリア湖と鉱山の間にあるんだったな」


老師が退職なさる時におっしゃっていましたよとリナリアが小言を言う。
どうも苦手で記憶から消し飛んでいたと、ミネルヴァに苦笑いさせるようなおじいさんとはどんな屈強な人なのだろうか。
サラの頭の中でマッチョのおじいさんが半裸で様々なマッスルポーズをする中、パロマが思い出したように口を開く。


「そういえばさ~、パトリア湖に棲む湖の乙女が魔石持ってるっていう昔話あるじゃん?
あれってなにか関係あんのかな~」

「なんだそりゃ」

「初耳だな」

「詳しく聞かせてちょうだい」

「エルフさん方が知らないのは分かるけど、ミネルヴァ様とリナリア様は知ってるでしょ~?!」

「おまえな…世界にいくつ伝承やら神話があると思っている?カロラだけでもゆうに百は越えているんだぞ。辺鄙な村の昔話を覚えるくらいなら兵法を詰め込んだ方がマシだ」


世の中には人の願いに呼応して神や精霊がどんどん生まれている。そして信仰や祈りが無くなったものからどんどん消えていく。そんなサイクルを繰り返していれば、神話も増え続けるというもの。
さすがのミネルヴァも自国の歴史に関するものしか記憶していないようだ。
ちなみにサラは世界的に有名な三女神伝説しか知らない。エデンにもそういった言い伝えはあったが、当時はまるで覚える気がなかったためサラの記憶バンクには保管されていなかった。
エデンはアルティナ神信仰の国だし、もしかしたら魔石の手掛かりとなる話もあったかもしれない。
どれだけ考えようと、今となっては後の祭りだが。


「そ、そりゃそうかもだけどさ~…」

「パロマ。つべこべ言わず必要なことだけ喋りなさい」

「ハ、ハヒッ!!…ってか、あたしも昔に父ちゃんから聞いた話だからさ~。本当かどうかは知らないよ~?」


リナリアの冷たい視線が顔に突き刺さったパロマは苦笑いして、話の信ぴょう性をわざと低くした。
この話を聞いて村に行っても『ハズレ』だった場合、しわ寄せが来るのは嫌だという強い思いがひしひしと感じられる。
あからさまな予防線を張らずとも、ミネルヴァやジュリアは特段気にしていなさそうなのに。
周囲を見渡したパロマがごほんと咳ばらいをひとつして、ようやく語り始める。

大昔、アルティナ様の涙が落ちてパトリア湖ができた。
その美しい湖は水にまつわる精霊や神が生まれる場所となり、最初に生まれたのは女神の姉妹であった。
姉はエレイン、妹はニムエと名付けられた。
近隣の村から雨乞いの祈りを受けた姉妹神は、彼らの願いを聞き届けて雨を降らせた。
幾度となく祈りに応えて雨を恵んでくれる姉妹の存在に村人は喜び、姉妹を祀り上げた。

数か月後、村人はいつものように雨乞いをした。ニムエは喜んで応じようとしたが、エレインは拒んだ。
エレインがどうしてもできないと言ったため、ニムエも雨乞いに応じなかった。
翌日、雨が降らなかったことに怒った村人が湖にやってきた。
ニムエが驚き戸惑っていると、エレインがこう言った。

近ごろ土が緩んでいる。また雨が降ったら土砂崩れが起こると。
村人はそんなのは出まかせだとエレインをひどく責め立てた。
願いを叶えてくれるニムエだけを残し、エレインは湖から出ていくよう強要した。
エレインは村人の声にこたえ、湖を去ることにした。
去り際にニムエへ魔石を手渡し、これがあれば湖は枯れないからと告げた。
ニムエはそれ以降、村人の願いを聞きながらエレインの帰りを待っている。


「…で、ニムエはその魔石をずーっと大事に持ってるって話」


姉の残した魔石がアルティナ様の杖の魔石と一致するかはかなり、いや果てしなく0に近い。
だが、アルティナ様が作った湖というところにサラを含めた数人は興味を示した。


「その湖、一応アルティナ様と関係があるのね。
調べてみる価値はありそうだわ」

「そうっすね。特にこれといった有力な情報は無いし、村へ行くついでに探ってみてもいいっしょ」

「ミネルヴァ達もついてくるんやんな?」

「ジュリアの指輪を直すのにジジイを紹介する必要があるからな。指輪が直った後どうするかはまた決めるさ」


ミネルヴァの返答にサラは正直驚いた。
マルモル村以降も、ずっと一緒に旅をするのだと勝手に思っていた。
アルティナ様の杖があるし、ジュリアとも王族同士で仲がよさそうに見えた。
だからてっきり、もう『旅の仲間』気分でいたのだ。
それが違うとわかったサラは、そうなんやー…と下手くそな笑顔を浮かべる。


「パロマ、あなたはどうするおつもりで?まさかウルが城を守っているから残るなんて言うつもりですか」

「言いませんって~。
しょーじきウルの事は気になりますけどね~。
ちょうどいいから一緒に引っ付いていきますよ~。
あそこには師匠も住んでるし」

「師匠?」

「サラには前に言ったっけ。あたしの絵の師匠が住んでんの」

「ああ、ゴッドファーザー師匠」

「誰がマフィアのドンだよ!
ゼルファン・ゴッフォード師匠って言ったじゃん!
…とにかく、その師匠のとこにお世話になろうかなって。
ほかに頼る人もいないしさ」

「そっか…うん、そうやね。その方がええと思う」


あっさりと決断を下したパロマには申し訳ないが、何だかモヤモヤしてしまう。
こんなに簡単にカーヤさんの存在を切り捨てられる人なんだと。
各々の目的地が決まったところで、ミネルヴァが立ち上がる。


「一先ず行き先は決まった。
全員仮眠をとっておいた方がいいだろう。
徒歩だと結構な距離を歩くことになる」

「徒歩は勘弁してほしいな~。そうだ、あたしがお宅らの馬車取ってくるよ」

「人が襲われているのに、馬は襲われないなんてことあるのかしら?」

「ふっふっふっふっふ…」


地下道を通って宿へ向かうと言い出したパロマをジュリアが止める中、ワトーが気色の悪い笑い方をしながら両腕を組んで仁王立ちになる。顔は真下を向いているのでよく見えないが、かなり様子がおかしいのは確かだ。


「どうしたんワトー、何か変な物でも食べたん?」

「この、ノアイユ・ワトー!抜かりないですよお!姫様ァ!」


くわっ!とワトーが全身全霊のドヤ顔を全員に披露した。


「…おい、とうとう気が触れたみたいだぞ。
どうにかしてやれ」

「ワトー、蕎麦が摂取できなくておかしくなったの?
困った子ね…どうしようかしら…」


リナリアにダメもとで城に備蓄がないか聞くジュリアを見て、ワトーは大慌てでいつもの口調に戻る。


「ちっっっがいますってば姫様っ!!私の愛馬は逃がしてあるんっすよ!」

「逃がしておいた?…まさかあなた、馬だけ国の外に放したの?!呆れた…それでどうやって捕まえるのよ…」

「私とスレイはマジでラブな関係なんで…。
まあ、任せといてくださいよ!おい行くぞ、うどん粉!」

「あぁん?誰がうどん粉だよ蕎麦粉!」


お宅いま『粉』表記であたしのこと呼んだよな?うどん粉さんに失礼だろうがアア?と、メンチを切るうどん過激派に軽く腹パンをかました蕎麦過激派は、ミネルヴァへずずいっと顔を寄せる。


「ミネルヴァ王女でーんか。この城って広い屋上あります?」

「は?まあ…簡素な見張り台だがあるぞ。
広さは…バリスタが数台おけるくらいだな。それがどうした」

「いや、そんだけあれば十分っす!
じゃあちょっくら行ってきまーす!」

「くれぐれも気を付けるのよ!」

「気ぃ付けていくんやで!」

「捕まるなよー」

「ふふん。エルフの足、舐めてもらっちゃあ困るっすよ」



《翡翠の森より来たれ神速の風 ステルス・ゲール》



前にジュリアがエデンでサラにもかけてくれたエルフ魔法だ。
詠唱と魔法陣の状態はワトーの方が少し、展開速度が速い。
強風にあおられる風車のように魔法陣がグルグルと回り、ワトーとパロマの足元を照らす。


「えっ!?なになにあたしも?!」

「黙りなうどん娘。私のは姫様の風よりも、荒れるんで」


ハァ?とパロマが口を半開きにした瞬間、翡翠色の突風が2人の足に絡みついた。
ワトーがしっかりとパロマの腕をつかみ、荒れ狂う風の中でグッと右足を踏み込む。
したり顔でワトーが笑ったのを垣間見たが、そのあとは目も開けられないほどの突風に押されてしまった。
嵐が過ぎ去った後に残ったのは、風の摩擦で削れた床と水溜まりを盛大に被ったサラ達だけであった。
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