159 / 159
森の学校編
9.おなじみの強いやつ
しおりを挟む
亜麻色の髪を頬の位置で切りそろえ、茜色のワンピースを身にまとう女の子のトントゥが、ヌーッティたちの目の前に立っていた。
「トゥーリ⁈」
ヌーッティは突如現れたトゥーリに驚きを隠せないでいた。
「立てる?」
トゥーリはヌーッティの前に進み出ると、右手を差し伸べた。ヌーッティはその手を取って、立ち上がる。
「どうして、ここにいるヌー?」
立ち上がりながらヌーッティは疑問を口にした。
「説明はあとよ。それよりも、このペイッコをどうにかしなきゃ」
トゥーリは立ち上がったヌーッティから手を離すと、くるりと向き直ってペイッコを見る。
「ペイッコ! あなた、お腹が減ってるの?」
木の根に絡み取られているペイッコは大人しく、こくりと頷いた。
「それじゃあ、一緒に森の学校へきて。そこなら、あなたが食べられるものが揃ってるわ」
ペイッコは首をかしげ、
「おでのごはん、ある、のか?」
のっそりとした口調で尋ねた。トゥーリは「あるよ」と簡潔に答えた。
「大丈夫ヌー? ヌーたち食べられたりしないヌー?」
ヌーッティは声を潜めて、トゥーリにだけ聞こえる声量で尋ねた。
「もともとペイッコは草食なのよ。小熊の精霊たちを食べたりしないの。だから、大丈夫」
「トゥーリがそう言うなら……」
トゥーリは一歩前へ歩み出ると、詩を歌い、ペイッコに絡まる木の根を取り払った。すると、ペイッコは腕をまっすぐ上に伸し、それからゆっくりと立ち上がった。
「おで、学校、はじめて」
ペイッコは足元の小さなヌーッティたちを見下ろしてはにかんだ表情を見せる。
ヌーッティはペイッコの踝をぽんっと叩くと、
「大丈夫だヌー。ヌーも学校は初めてだヌー。でも、何も怖いものなんてないヌー」
ペイッコを励ますように言った。そこへ、
「ヌーッティ、そのトントゥ何者なんだよ?」
体勢を整え終えたアハティが尋ねた。ヌーッティはアハティに向き直ると、
「トゥーリだヌー。ヌーの大事なお友だちヌー。安心するヌー。トゥーリはおやつを盗み食いしないヌー」
トゥーリを手で指しながらアハティに紹介した。
「ふーん。まあ、危険じゃないならいいや。それより、おれたちボールを探しにきたんだろ?」
「そうだったヌー! ボールを探さなきゃだヌー!」
ヌーッティはアハティのひとことで、ボールを探しに来たことを思い出し、慌てた。
「ボール? サッカーボールなら、その木陰にあるよ」
ヌーッティの思いもよらない返答がトゥーリから返ってきた。
「どうしてトゥーリがボールのありかを知ってるヌー?」
「ペイッコを落ち着かせるのに役に立つかなって持ってきたの。森の奥に転がってたたから、てっきり捨てられたボールかと思ってたけど、違ったんだ」
アハティはトゥーリが指差す木陰の裏を、駆け寄って覗き込んだ。見れば、たしかに、ヌーッティが蹴って、森の中に入れたボールが転がっていた。
「これで校庭へ戻れる。ありがとう、トゥーリさん」
ボールを持ちながら、アハティはトゥーリに感謝を伝えた。
そして、ヌーッティたちはペイッコを連れて、校庭へと戻るのであった。
校庭へ戻ったヌーッティたちは驚きの歓声に出迎えられた。
それもそうだ。ヌーッティや小熊ズの何百倍もある巨躯のペイッコを後ろに連れているのである。小熊ズが驚くのも無理からぬこと。
「状況説明をしてくれないかい?」
ひとり、冷静さを保っていたオッツォがヌーッティたちに尋ねた。ヌーッティとアハティは森にボールを探しに行き、腹をすかせたペイッコに遭遇した。空腹のあまり冷静さを欠いていたペイッコをトゥーリが魔術で落ち着かせて、今、ここにいる――そう説明した。
「なるほど、なるほど。状況はだいたい掴めた。さて、ペイッコを食堂に案内する前に、小熊ズに伝えなきゃならないことがある」
オッツォはちらりとトゥーリを見やった。気づいてトゥーリは小熊ズを見渡し、
「今日からあなたたちの体育の先生になった、トントゥのトゥーリです。よろしく」
小熊ズから声が上がるよりも先に、ヌーッティが驚きの声を上げた。
「トゥーリが先生⁈ 聞いてないヌー!」
「だって言ってないもん」
トゥーリの即答にヌーッティは押し黙った。
「体育の先生の腰痛が椎間板ヘルニアだったらしくて、しばらく授業を行えないってね。それで、運動神経抜群のトゥーリに話が行ったのさ。小熊ズ! トゥーリ先生は怒ると僕より怖いからね! ふぉっふぉっふぉ!」
オッツォの言葉に深く頷いたのはヌーッティだけであった。他の小熊ズは興味津々といった表情でトゥーリを見ていた。
「それじゃあ、早速だけど、任せていいかな? 僕がペイッコを食堂の方へ案内するから」
「オーケー。じゃあ、あとはよろしく」
返答を聞いて、オッツォはペイッコを後ろに連れて、校舎のほうへ歩いていったのであった。
こうして、トゥーリも森の学校に先生として来たのである。
「トゥーリ⁈」
ヌーッティは突如現れたトゥーリに驚きを隠せないでいた。
「立てる?」
トゥーリはヌーッティの前に進み出ると、右手を差し伸べた。ヌーッティはその手を取って、立ち上がる。
「どうして、ここにいるヌー?」
立ち上がりながらヌーッティは疑問を口にした。
「説明はあとよ。それよりも、このペイッコをどうにかしなきゃ」
トゥーリは立ち上がったヌーッティから手を離すと、くるりと向き直ってペイッコを見る。
「ペイッコ! あなた、お腹が減ってるの?」
木の根に絡み取られているペイッコは大人しく、こくりと頷いた。
「それじゃあ、一緒に森の学校へきて。そこなら、あなたが食べられるものが揃ってるわ」
ペイッコは首をかしげ、
「おでのごはん、ある、のか?」
のっそりとした口調で尋ねた。トゥーリは「あるよ」と簡潔に答えた。
「大丈夫ヌー? ヌーたち食べられたりしないヌー?」
ヌーッティは声を潜めて、トゥーリにだけ聞こえる声量で尋ねた。
「もともとペイッコは草食なのよ。小熊の精霊たちを食べたりしないの。だから、大丈夫」
「トゥーリがそう言うなら……」
トゥーリは一歩前へ歩み出ると、詩を歌い、ペイッコに絡まる木の根を取り払った。すると、ペイッコは腕をまっすぐ上に伸し、それからゆっくりと立ち上がった。
「おで、学校、はじめて」
ペイッコは足元の小さなヌーッティたちを見下ろしてはにかんだ表情を見せる。
ヌーッティはペイッコの踝をぽんっと叩くと、
「大丈夫だヌー。ヌーも学校は初めてだヌー。でも、何も怖いものなんてないヌー」
ペイッコを励ますように言った。そこへ、
「ヌーッティ、そのトントゥ何者なんだよ?」
体勢を整え終えたアハティが尋ねた。ヌーッティはアハティに向き直ると、
「トゥーリだヌー。ヌーの大事なお友だちヌー。安心するヌー。トゥーリはおやつを盗み食いしないヌー」
トゥーリを手で指しながらアハティに紹介した。
「ふーん。まあ、危険じゃないならいいや。それより、おれたちボールを探しにきたんだろ?」
「そうだったヌー! ボールを探さなきゃだヌー!」
ヌーッティはアハティのひとことで、ボールを探しに来たことを思い出し、慌てた。
「ボール? サッカーボールなら、その木陰にあるよ」
ヌーッティの思いもよらない返答がトゥーリから返ってきた。
「どうしてトゥーリがボールのありかを知ってるヌー?」
「ペイッコを落ち着かせるのに役に立つかなって持ってきたの。森の奥に転がってたたから、てっきり捨てられたボールかと思ってたけど、違ったんだ」
アハティはトゥーリが指差す木陰の裏を、駆け寄って覗き込んだ。見れば、たしかに、ヌーッティが蹴って、森の中に入れたボールが転がっていた。
「これで校庭へ戻れる。ありがとう、トゥーリさん」
ボールを持ちながら、アハティはトゥーリに感謝を伝えた。
そして、ヌーッティたちはペイッコを連れて、校庭へと戻るのであった。
校庭へ戻ったヌーッティたちは驚きの歓声に出迎えられた。
それもそうだ。ヌーッティや小熊ズの何百倍もある巨躯のペイッコを後ろに連れているのである。小熊ズが驚くのも無理からぬこと。
「状況説明をしてくれないかい?」
ひとり、冷静さを保っていたオッツォがヌーッティたちに尋ねた。ヌーッティとアハティは森にボールを探しに行き、腹をすかせたペイッコに遭遇した。空腹のあまり冷静さを欠いていたペイッコをトゥーリが魔術で落ち着かせて、今、ここにいる――そう説明した。
「なるほど、なるほど。状況はだいたい掴めた。さて、ペイッコを食堂に案内する前に、小熊ズに伝えなきゃならないことがある」
オッツォはちらりとトゥーリを見やった。気づいてトゥーリは小熊ズを見渡し、
「今日からあなたたちの体育の先生になった、トントゥのトゥーリです。よろしく」
小熊ズから声が上がるよりも先に、ヌーッティが驚きの声を上げた。
「トゥーリが先生⁈ 聞いてないヌー!」
「だって言ってないもん」
トゥーリの即答にヌーッティは押し黙った。
「体育の先生の腰痛が椎間板ヘルニアだったらしくて、しばらく授業を行えないってね。それで、運動神経抜群のトゥーリに話が行ったのさ。小熊ズ! トゥーリ先生は怒ると僕より怖いからね! ふぉっふぉっふぉ!」
オッツォの言葉に深く頷いたのはヌーッティだけであった。他の小熊ズは興味津々といった表情でトゥーリを見ていた。
「それじゃあ、早速だけど、任せていいかな? 僕がペイッコを食堂の方へ案内するから」
「オーケー。じゃあ、あとはよろしく」
返答を聞いて、オッツォはペイッコを後ろに連れて、校舎のほうへ歩いていったのであった。
こうして、トゥーリも森の学校に先生として来たのである。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
妖精さん達と暮らそう 改訂版
東郷 珠
児童書・童話
私にしか見えない妖精さん。
色んな妖精さんが、女の子を助けます。
女の子は、妖精さんと毎日楽しく生活します。
妖精さんと暮らす女の子の日常。
温かく優しいひと時を描く、ほのぼのストーリーをお楽しみ下さい。
魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。
ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は
愛だと思っていた。
何度も“好き”と言われ
次第に心を寄せるようになった。
だけど 彼の浮気を知ってしまった。
私の頭の中にあった愛の城は
完全に崩壊した。
彼の口にする“愛”は偽物だった。
* 作り話です
* 短編で終わらせたいです
* 暇つぶしにどうぞ
ルカとカイル
松石 愛弓
児童書・童話
異世界に転移してきた魔法を使えるルカと、金色の虎から人の姿に変身できるカイルの日常。童話のパロディや、森の動物たちの日常をコメディ路線で書いてゆく予定です。
ほぼショートショートの読み切りのお話です。すぐに気楽に読めると思います。よろしくお願いします。不定期更新です。
[完結済]ボクの小説日記2
テキトーセイバー
ホラー
前作「ボクの小説日記」の続編ホラー短編集です。
前作主人公ボクの他にカノジョが登場します。
解説オチもボクとカノジョが会話して解説ショーを送りします。
初雪はクリスマスに
シュウ
児童書・童話
クリスマスが近づいた、ある寒い日のこと。
「サンタさんって本当にいるの?」
ハルカはケントパパに尋ねてみた。
パパは「もちろん」と笑って言う。
「だって、パパはサンタさんと会ったことがあるからね」
娘にねだられ、ケントパパは話を始める。
これはケントパパが小学校五年生の時の、少し甘酸っぱい思い出の話。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
【奨励賞】花屋の花子さん
●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】
旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。
そこには『誰か』が不思議な花を配っている。
真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。
一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。
『あなたにこの花をあげるわ』
その花を受け取った後は運命の分かれ道。
幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。
「花子さん、こんにちは!」
『あら、小春。またここに来たのね』
「うん、一緒に遊ぼう!」
『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』
これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる