トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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森の学校編

9.おなじみの強いやつ

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 亜麻色の髪を頬の位置で切りそろえ、茜色のワンピースを身にまとう女の子のトントゥが、ヌーッティたちの目の前に立っていた。
「トゥーリ⁈」
 ヌーッティは突如現れたトゥーリに驚きを隠せないでいた。
「立てる?」
 トゥーリはヌーッティの前に進み出ると、右手を差し伸べた。ヌーッティはその手を取って、立ち上がる。
「どうして、ここにいるヌー?」
 立ち上がりながらヌーッティは疑問を口にした。
「説明はあとよ。それよりも、このペイッコをどうにかしなきゃ」
 トゥーリは立ち上がったヌーッティから手を離すと、くるりと向き直ってペイッコを見る。
「ペイッコ! あなた、お腹が減ってるの?」
 木の根に絡み取られているペイッコは大人しく、こくりと頷いた。
「それじゃあ、一緒に森の学校へきて。そこなら、あなたが食べられるものが揃ってるわ」
 ペイッコは首をかしげ、
「おでのごはん、ある、のか?」
 のっそりとした口調で尋ねた。トゥーリは「あるよ」と簡潔に答えた。
「大丈夫ヌー? ヌーたち食べられたりしないヌー?」
 ヌーッティは声を潜めて、トゥーリにだけ聞こえる声量で尋ねた。
「もともとペイッコは草食なのよ。小熊の精霊たちを食べたりしないの。だから、大丈夫」
「トゥーリがそう言うなら……」
 トゥーリは一歩前へ歩み出ると、詩を歌い、ペイッコに絡まる木の根を取り払った。すると、ペイッコは腕をまっすぐ上に伸し、それからゆっくりと立ち上がった。
「おで、学校、はじめて」
 ペイッコは足元の小さなヌーッティたちを見下ろしてはにかんだ表情を見せる。
 ヌーッティはペイッコの踝をぽんっと叩くと、
「大丈夫だヌー。ヌーも学校は初めてだヌー。でも、何も怖いものなんてないヌー」
 ペイッコを励ますように言った。そこへ、
「ヌーッティ、そのトントゥ何者なんだよ?」
 体勢を整え終えたアハティが尋ねた。ヌーッティはアハティに向き直ると、
「トゥーリだヌー。ヌーの大事なお友だちヌー。安心するヌー。トゥーリはおやつを盗み食いしないヌー」
 トゥーリを手で指しながらアハティに紹介した。
「ふーん。まあ、危険じゃないならいいや。それより、おれたちボールを探しにきたんだろ?」
「そうだったヌー! ボールを探さなきゃだヌー!」
 ヌーッティはアハティのひとことで、ボールを探しに来たことを思い出し、慌てた。
「ボール? サッカーボールなら、その木陰にあるよ」
 ヌーッティの思いもよらない返答がトゥーリから返ってきた。
「どうしてトゥーリがボールのありかを知ってるヌー?」
「ペイッコを落ち着かせるのに役に立つかなって持ってきたの。森の奥に転がってたたから、てっきり捨てられたボールかと思ってたけど、違ったんだ」
 アハティはトゥーリが指差す木陰の裏を、駆け寄って覗き込んだ。見れば、たしかに、ヌーッティが蹴って、森の中に入れたボールが転がっていた。
「これで校庭へ戻れる。ありがとう、トゥーリさん」
 ボールを持ちながら、アハティはトゥーリに感謝を伝えた。
 そして、ヌーッティたちはペイッコを連れて、校庭へと戻るのであった。


 校庭へ戻ったヌーッティたちは驚きの歓声に出迎えられた。
 それもそうだ。ヌーッティや小熊ズの何百倍もある巨躯のペイッコを後ろに連れているのである。小熊ズが驚くのも無理からぬこと。
「状況説明をしてくれないかい?」
 ひとり、冷静さを保っていたオッツォがヌーッティたちに尋ねた。ヌーッティとアハティは森にボールを探しに行き、腹をすかせたペイッコに遭遇した。空腹のあまり冷静さを欠いていたペイッコをトゥーリが魔術で落ち着かせて、今、ここにいる――そう説明した。
「なるほど、なるほど。状況はだいたい掴めた。さて、ペイッコを食堂に案内する前に、小熊ズに伝えなきゃならないことがある」
 オッツォはちらりとトゥーリを見やった。気づいてトゥーリは小熊ズを見渡し、
「今日からあなたたちの体育の先生になった、トントゥのトゥーリです。よろしく」
 小熊ズから声が上がるよりも先に、ヌーッティが驚きの声を上げた。
「トゥーリが先生⁈ 聞いてないヌー!」
「だって言ってないもん」
 トゥーリの即答にヌーッティは押し黙った。
「体育の先生の腰痛が椎間板ヘルニアだったらしくて、しばらく授業を行えないってね。それで、運動神経抜群のトゥーリに話が行ったのさ。小熊ズ! トゥーリ先生は怒ると僕より怖いからね! ふぉっふぉっふぉ!」
 オッツォの言葉に深く頷いたのはヌーッティだけであった。他の小熊ズは興味津々といった表情でトゥーリを見ていた。
「それじゃあ、早速だけど、任せていいかな? 僕がペイッコを食堂の方へ案内するから」
「オーケー。じゃあ、あとはよろしく」
 返答を聞いて、オッツォはペイッコを後ろに連れて、校舎のほうへ歩いていったのであった。
 こうして、トゥーリも森の学校に先生として来たのである。
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