トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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森の学校編

2.親しき使者

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 八月中旬――ヘルシンキ、ステーンベック通り。
 この日も、ヌーッティはお菓子の盗み食いでトゥーリに追いかけられていた。
「待ちなさい! 三十八個のムンッキを食べた罪は大きいんだからね!」
 トゥーリはアキに作ってもらった、ヌーッティ捕獲用ネットをぶん回しながら、ヌーッティを追いかけていた。
 前方を走るヌーッティは息が上がり、全力疾走も潰えようとしていた。
「やだヌー! トゥーリに捕まったら問答無用で絞め技かけられるヌー!」
「わかってるなら捕まりなさい! 今なら投げ技で許してあげるから!」
「そういう問題じゃないヌー!」
 ヌーッティの目の前に玄関のドアが見えた。逃げるなら、ここしかない! と思ったヌーッティは、ドアを開けるべく勢いをつけてジャンプした。だが――
「こんにちは。ヌーッティはこちらにいますか?」
 ドアが開き、一人の少女が入り口に立っていた。
 勢いをつけ、ジャンプしたヌーッティは少女の顔面にぶち当たった。
「ふごっ⁈」
 少女は不意打ちのヌーッティの体当たりを食らい、ややのけ反った。
 ヌーッティは少女の顔を駆け上がり、少女の後頭部に隠れて、トゥーリの出方を窺う。
 トゥーリはというと、不意に出現した少女を前に固まっていたが、
「あの、私のこと覚えてるかしら? ヌーッティの姉のマイッキなんだけど……」
 それを聞いてトゥーリははっとした。そして、注意深くマイッキと名乗る少女を見ると、熊の精霊が放つ魔力を感じ取った。
「え? 本当にマイッキなの? どうして、人間の姿に?」
 トゥーリの問いにマイッキが答えようとした、そのとき、二階の部屋からアキの絶叫が家中に響いた。
「あ、しまった」
 ヌーッティを追いかけ回していたことを思い出したトゥーリは、
「マイッキ! ヌーッティを捕まえて、一緒に二階へ来て!」
「了解。なんとなく何があったのか察したわ」
 言いながら、マイッキは、こっそりと後頭部から地面へ降りようとしていたヌーッティをがしっと掴んだ。そして、ヌーッティの悲痛なる叫びに構うことなく、トゥーリを抱えて、二階へと急いだ。
 二階のアキの部屋のドアを開けて、マイッキは絶句した。
 どこをどうしたらこんな散らかり方ができるのかと疑問を持つほどに、アキの部屋は混沌と化していた。
「こ、これ……どうしたの? まさか、強盗でも入ったの?」
 マイッキの疑問に、トゥーリはヌーッティを指差し答えた――こいつが全部ひとりでやったんです――と言わんばかりの表情を添えて。
「アキ! 犯人を捕まえてきたよ!」
 トゥーリの声で我に返ったアキはくるりと振り返ると、マイッキの両手の中でもぞもぞと動くヌーッティを見つけた。
「ヌーは何もしてないヌー! 無実だヌー! ムンッキはヌーの胃袋にいる三匹の熊たちが食べちゃったヌー!」
 見苦しい言い訳を繰り出すヌーッティに対し、アキとトゥーリとマイッキは冷静であった。そして、
「一時間以内に部屋の掃除を終えなかったら、もう、ムンッキは食べさせない。他のおやつもだめ」
 無慈悲なアキの鉄槌が下った。
 ヌーッティは涙目ながらに「おやつなしは撤回してくれ」とアキに訴えた。だが、アキは首を横に振るだけで、撤回はしなかった。やがて、観念したヌーッティは散らかった部屋を片付け始めた。
 そして、一時間後。
「やっと片付いたヌー」
 アキとトゥーリとマイッキの手伝いもあり、部屋は散らかる前の状態へと回復した。
 掃除を終えたアキはマイッキを見てふと気づいた。
「ところで、この子、誰?」
 トゥーリはマイッキをアキに紹介することを忘れていたことに気づいた。
「マイッキです。ヌーッティの姉で、ここに来るために人間の姿になってます」
 ぺこりとお辞儀をしたマイッキを見て、アキは注意深く彼女の気配を窺うと、たしかに、熊の精霊の気配が感じ取れた。
「どうして、ここへ?」
 アキは目の前に座るマイッキを見て、尋ねた。
「じつは、助けてもらいたくてお願いに来たのです」
 マイッキは金色の瞳をアキからヌーッティへ向ける。
「お願い、ヌーッティ。イーリスを助けて」
 マイッキはゆっくりと語りだす。ヌーッティとマイッキの姉イーリスのことを。そして、今起きている危機のことを。
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