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ヌーッティ、日本へ行く!<前編>
3.疑惑のヌーッティ
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翌日、朝七時五十分。
アキは母とともに、母の勤め先の大学へ向かった。
今日は、母のゼミを聴講することになっていた。
そして、ヌーッティとトゥーリはあいりと一緒にお留守番をすることとなっていた。
「一日中家にいるものつまらないでしょ? おばーちゃんのお店に行こう」
あいりの提案でヌーッティたちは、アキの祖母の梅が営む喫茶店へ行くことにした。
喫茶店は自宅から徒歩十五分の場所にあった。喫茶店では和菓子を中心とするお菓子を提供している。看板メニューは白玉クリームあんみつとほうじ茶のセットである。
「おばーちゃん! 手伝いに来たよ」
あいりは喫茶店のドアを引き開けて中へ入ると、祖母へ手を振った。
「おやおや、看板娘さんの登場だね。今日のお客さんはラッキーだねぇ」
梅は穏やかな笑みを浮かべて、カウンターの棚からあずき色のエプロンを取り出すと、あいりに渡した。
「今日は可愛いくまさんとお人形さんも一緒なのかい?」
梅は、あいりが左腕で抱え持っているヌーッティとトゥーリに気がついた。
「お兄ちゃんから一日預かったの。こっちのくまがヌーッティで、女の子のほうがトゥーリっていうんだって」
「アキは昔からこの子たちを大事にしてるからねぇ」
あいりは首を少し傾げた。
「昔から? そうなの?」
梅はこくりと頷いた。
「たしか、お向かいに住んでたワイノさんからもらったものだよ。あいりがまだばぶばぶ言ってた頃だねぇ」
あいりは、そんな昔からヌーッティとトゥーリのことを秘密にされていたのかと思った。
「さあ、お店を手伝っておくれ、あいり」
あいりは肩に掛けていたバッグをカウンター下にしまうと、抱えていたヌーッティとトゥーリをカウンター上にちょこんと乗せて、エプロンを身に着けた。
入り口のドアの横にちょこんと座っている白い猫がにゃあと鳴くと、梅はBGMをかけた。喫茶店の開店の合図である。
喫茶店の午前中はゆったりとした時間が流れていた。お客が来るけれども、忙しいというほどばたばたしてはいなかった。
お昼を少し過ぎると、梅があいりに昼食を取るように勧めた。
あいりはヌーッティたちを持って店の隅のテーブルにつき、梅が作ってくれたおむすびと卵焼きを食べた。
この日のおむすびは、細かく刻んだしそをごはんに混ぜ込んだしそおむすびと、香ばしい焼き鮭が中に入った鮭おむすびであった。
梅が厨房へ入ると、あいりは手に持っていたおむすびを小分けにし、ヌーッティとトゥーリに渡した。
「おなかぺこぺこだヌー」
ヌーッティは受け取った鮭のおむすびを一口で平らげた。他方、トゥーリはよく噛んでおむすびを味わった。
「おいしいね」
トゥーリがヌーッティの頬についている米粒をとってあげた。
「梅おばーちゃんのおむすびはとってもおいしいヌー!」
ヌーッティはあいりから受け取ったしそおむすびも一口で食べきった。
にゃあと鳴きながら白い猫があいりの足にすり寄ってきた。
「きみも食べたいの? ちょっと待ってね」
あいりは立ち上がり厨房へ入っていくと、骨を取ってほぐした焼き鮭を小皿に乗せて持ってきた。
それを猫の顔の前に置くと、白い猫はもぐもぐと食べ始めた。
穏やかなお昼の時間が流れていた。だが、突如、厨房から梅の悲鳴が聞こえてきた。
あいりは席を立ち、急いで厨房へ向かう。
ヌーッティとトゥーリも互いの顔を見合わせると、走って厨房へと入っていった。
「おばーちゃん! どうしたの⁈」
開かれた大きな業務用の冷蔵庫の前に立つ梅は、あいりの言葉にはっとし後ろを振り向いた。
「ないんだよ……」
「ない? 何が?」
梅が空っぽの冷蔵庫の棚を指さした。
「作り置きしておいた白玉クリームあんみつの材料がなくなってるんだよ」
事態を遠巻きに見ていたトゥーリは視線を移し、ヌーッティをじぃっと見つめた。
「まさか……」
トゥーリの言葉にヌーッティの両肩が震えた。
「ち、違うヌー! ヌーは白玉クリームあんみつなんて食べてないヌー!」
否定したヌーッティであるが、日頃の行いもあって、トゥーリの疑念を払拭することはできなかった。
あいりはちらりとヌーッティとトゥーリを見やった。
その視線に気づいたトゥーリはヌーッティを指さした。「こいつが犯人です」と言わんばかりのまなざしを添えて。
ヌーッティは首を横に、ぶんぶんと力の限り振っていた。
梅は材料をスーパーで調達してくると言い残し、急いで喫茶店を出ていった。
「それで、食べたの?」
あいりの一声にヌーッティは全力で否定した。
「ヌーッティが食い意地の張った小熊の妖精だって、お兄ちゃんから聞いてるけど?」
機内でのギャレーの一件もアキはあいりに伝えていた。そして、ヌーッティが盗み食いの常習犯であることも。
「フィンランドのパウリーナおばーちゃんのお店でも盗み食いしたって知ってるよ?」
追い打ちをかけられ、ヌーッティは逃げられないことを悟った。
「今回のは本当にヌーじゃないヌー!」
「じゃあ、誰が食べたの?」
トゥーリが胡散臭いものを見るような目でヌーッティを見つめている。
「わ、わからないヌー! でも、ヌーじゃないヌー!」
証明するほかなかった。ヌーッティが犯人ではない証拠をふたりに提示する以外、あいりたちの疑念を払うすべはなかった。
「こうなったら、名探偵ヌーッティの登場だヌー! ヌーが真犯人を見つけるヌー!」
名探偵というより迷探偵であるとトゥーリとあいりは思ったが、あえて口には出さなかった。
こうして、ヌーッティは「うさぎ庵 白玉クリームあんみつ紛失事件」を解決しようと調査を始めたのであった。
アキは母とともに、母の勤め先の大学へ向かった。
今日は、母のゼミを聴講することになっていた。
そして、ヌーッティとトゥーリはあいりと一緒にお留守番をすることとなっていた。
「一日中家にいるものつまらないでしょ? おばーちゃんのお店に行こう」
あいりの提案でヌーッティたちは、アキの祖母の梅が営む喫茶店へ行くことにした。
喫茶店は自宅から徒歩十五分の場所にあった。喫茶店では和菓子を中心とするお菓子を提供している。看板メニューは白玉クリームあんみつとほうじ茶のセットである。
「おばーちゃん! 手伝いに来たよ」
あいりは喫茶店のドアを引き開けて中へ入ると、祖母へ手を振った。
「おやおや、看板娘さんの登場だね。今日のお客さんはラッキーだねぇ」
梅は穏やかな笑みを浮かべて、カウンターの棚からあずき色のエプロンを取り出すと、あいりに渡した。
「今日は可愛いくまさんとお人形さんも一緒なのかい?」
梅は、あいりが左腕で抱え持っているヌーッティとトゥーリに気がついた。
「お兄ちゃんから一日預かったの。こっちのくまがヌーッティで、女の子のほうがトゥーリっていうんだって」
「アキは昔からこの子たちを大事にしてるからねぇ」
あいりは首を少し傾げた。
「昔から? そうなの?」
梅はこくりと頷いた。
「たしか、お向かいに住んでたワイノさんからもらったものだよ。あいりがまだばぶばぶ言ってた頃だねぇ」
あいりは、そんな昔からヌーッティとトゥーリのことを秘密にされていたのかと思った。
「さあ、お店を手伝っておくれ、あいり」
あいりは肩に掛けていたバッグをカウンター下にしまうと、抱えていたヌーッティとトゥーリをカウンター上にちょこんと乗せて、エプロンを身に着けた。
入り口のドアの横にちょこんと座っている白い猫がにゃあと鳴くと、梅はBGMをかけた。喫茶店の開店の合図である。
喫茶店の午前中はゆったりとした時間が流れていた。お客が来るけれども、忙しいというほどばたばたしてはいなかった。
お昼を少し過ぎると、梅があいりに昼食を取るように勧めた。
あいりはヌーッティたちを持って店の隅のテーブルにつき、梅が作ってくれたおむすびと卵焼きを食べた。
この日のおむすびは、細かく刻んだしそをごはんに混ぜ込んだしそおむすびと、香ばしい焼き鮭が中に入った鮭おむすびであった。
梅が厨房へ入ると、あいりは手に持っていたおむすびを小分けにし、ヌーッティとトゥーリに渡した。
「おなかぺこぺこだヌー」
ヌーッティは受け取った鮭のおむすびを一口で平らげた。他方、トゥーリはよく噛んでおむすびを味わった。
「おいしいね」
トゥーリがヌーッティの頬についている米粒をとってあげた。
「梅おばーちゃんのおむすびはとってもおいしいヌー!」
ヌーッティはあいりから受け取ったしそおむすびも一口で食べきった。
にゃあと鳴きながら白い猫があいりの足にすり寄ってきた。
「きみも食べたいの? ちょっと待ってね」
あいりは立ち上がり厨房へ入っていくと、骨を取ってほぐした焼き鮭を小皿に乗せて持ってきた。
それを猫の顔の前に置くと、白い猫はもぐもぐと食べ始めた。
穏やかなお昼の時間が流れていた。だが、突如、厨房から梅の悲鳴が聞こえてきた。
あいりは席を立ち、急いで厨房へ向かう。
ヌーッティとトゥーリも互いの顔を見合わせると、走って厨房へと入っていった。
「おばーちゃん! どうしたの⁈」
開かれた大きな業務用の冷蔵庫の前に立つ梅は、あいりの言葉にはっとし後ろを振り向いた。
「ないんだよ……」
「ない? 何が?」
梅が空っぽの冷蔵庫の棚を指さした。
「作り置きしておいた白玉クリームあんみつの材料がなくなってるんだよ」
事態を遠巻きに見ていたトゥーリは視線を移し、ヌーッティをじぃっと見つめた。
「まさか……」
トゥーリの言葉にヌーッティの両肩が震えた。
「ち、違うヌー! ヌーは白玉クリームあんみつなんて食べてないヌー!」
否定したヌーッティであるが、日頃の行いもあって、トゥーリの疑念を払拭することはできなかった。
あいりはちらりとヌーッティとトゥーリを見やった。
その視線に気づいたトゥーリはヌーッティを指さした。「こいつが犯人です」と言わんばかりのまなざしを添えて。
ヌーッティは首を横に、ぶんぶんと力の限り振っていた。
梅は材料をスーパーで調達してくると言い残し、急いで喫茶店を出ていった。
「それで、食べたの?」
あいりの一声にヌーッティは全力で否定した。
「ヌーッティが食い意地の張った小熊の妖精だって、お兄ちゃんから聞いてるけど?」
機内でのギャレーの一件もアキはあいりに伝えていた。そして、ヌーッティが盗み食いの常習犯であることも。
「フィンランドのパウリーナおばーちゃんのお店でも盗み食いしたって知ってるよ?」
追い打ちをかけられ、ヌーッティは逃げられないことを悟った。
「今回のは本当にヌーじゃないヌー!」
「じゃあ、誰が食べたの?」
トゥーリが胡散臭いものを見るような目でヌーッティを見つめている。
「わ、わからないヌー! でも、ヌーじゃないヌー!」
証明するほかなかった。ヌーッティが犯人ではない証拠をふたりに提示する以外、あいりたちの疑念を払うすべはなかった。
「こうなったら、名探偵ヌーッティの登場だヌー! ヌーが真犯人を見つけるヌー!」
名探偵というより迷探偵であるとトゥーリとあいりは思ったが、あえて口には出さなかった。
こうして、ヌーッティは「うさぎ庵 白玉クリームあんみつ紛失事件」を解決しようと調査を始めたのであった。
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