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ヌーッティ、学校に行く!
5.最後の授業
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アキはヌーッティをフードにしまい込んだまま、階段を登って四階の教室へ向かった。
次の授業は魔術理論中級の授業であった。
開始時間よりも早く教室に入ったアキは、ノートパソコンを起動させ、準備を整えていた。
それからしばらくすると、他の学生たちもぞろぞろと教室へ入ってきた。
最前列に座るアキのフードの中身を見た同級生たちから、「そのくま可愛いねー」やら、「それ、アキの趣味なの?」「ぶさいくなくまだなぁ」などなど、声をかけられた。
とどめには、最後に教室に入ってきた教師から、
「どうしたアキ?」
と、尋ねられたので、
「イメチェンです」
アキは、半ばやぶれかぶれに答えたのであった。
授業はいつもどおり先生のジョークから始まり、教科書のトピックスを全員でひとつ選び、議論していった。
アキは前期、上級のクラスを取っていたので、それほどまごつくことなく、授業に臨んでいた。
授業が半分ほど進んだ頃であった。
教師が生徒各自に課題の書かれた用紙を配布しようとしたとき、教室奥の先生のデスクに置かれていた課題の用紙すべてが宙に舞ったのである。
教室中に舞った用紙に、生徒は驚いたり、好気の表情を浮かべたりした。
「待て待て。これは理論の授業だぞ。誰だ、魔術を使ったのは?」
決してとがめる口調ではなく、やわい口調で教師はクラス全員に尋ねた。
アキだけは、誰がしたのかに心当たりがあった。
というのも、フードの中から「ごめんだヌー」という声が聞こえてきたからである。
すっとアキは右手を挙げ、
「すみません。ちょっと歌ったら、こうなっちゃいました」
アキ自身が魔術を使って起こしたことであると、教師に伝えた。
「アキが? めずらしいな。まあ、いい。試してみたくなるときはあるから」
教師はアキを叱咤することなく、両手を宙へかざすと、口早に詩を歌い、
「ロプカー! ――止まれ!」
そう命じると同時に、宙を舞っていた用紙がすべて、デスクの上に、あるいは床にひらりと落ちた。
「今度は魔術実践の授業中に歌うんだぞ」
「はい……」
軽い注意を受けたアキは、声量小さく答えたのであった。
以降の授業はとどこおりなく進み、そして、終わりのときを迎えた。
教室から急いで出たアキは、ノートパソコンを廊下の棚にしまい込んだ。
「アキ! これから学年別対抗戦サッカー観に行くだろ?」
同じ授業を取っていた男子学生がアキに声をかけた。
「なんか、今日のアキ、いつもと違って心配だし、サッカーでも観てスカッとしようぜ!」
友人たちなりに、アキを気遣っての誘いでもあった。
「悪い。今日はもう帰るよ」
アキはそう言いながら、友人たちに手をふると、そそくさとその場を後にした。
三階にある自身のロッカーへ着いたアキは、中からコートを取り出して羽織り、リュックを背負うと、急ぎ足で下校した。
不幸中の幸いかな、今日の四時限目以降、道を挟んで向かいにあるオリンピック競技場の芝生のコート場で、学年別のサッカー試合が行われることになっていた。
生徒の大半は四限目の授業そっちのけでサッカー観戦に向かった。
教師たちもそれを良しとしているので問題はなかった。むしろ、教師たちも楽しみにしていたくらいであった。
サッカーが始まっているコートを横目に、アキは早足で自宅に向かった。
一五分後。
自宅の私室に着いたアキはコートを脱ぎ、ベッドに置くと、フードの中からヌーッティを取り出した。
デスクの上に置かれたヌーッティは目が泳いでいた。
これから、ヌーッティの一年間のお菓子がかかった裁判が始まるのであった。
次の授業は魔術理論中級の授業であった。
開始時間よりも早く教室に入ったアキは、ノートパソコンを起動させ、準備を整えていた。
それからしばらくすると、他の学生たちもぞろぞろと教室へ入ってきた。
最前列に座るアキのフードの中身を見た同級生たちから、「そのくま可愛いねー」やら、「それ、アキの趣味なの?」「ぶさいくなくまだなぁ」などなど、声をかけられた。
とどめには、最後に教室に入ってきた教師から、
「どうしたアキ?」
と、尋ねられたので、
「イメチェンです」
アキは、半ばやぶれかぶれに答えたのであった。
授業はいつもどおり先生のジョークから始まり、教科書のトピックスを全員でひとつ選び、議論していった。
アキは前期、上級のクラスを取っていたので、それほどまごつくことなく、授業に臨んでいた。
授業が半分ほど進んだ頃であった。
教師が生徒各自に課題の書かれた用紙を配布しようとしたとき、教室奥の先生のデスクに置かれていた課題の用紙すべてが宙に舞ったのである。
教室中に舞った用紙に、生徒は驚いたり、好気の表情を浮かべたりした。
「待て待て。これは理論の授業だぞ。誰だ、魔術を使ったのは?」
決してとがめる口調ではなく、やわい口調で教師はクラス全員に尋ねた。
アキだけは、誰がしたのかに心当たりがあった。
というのも、フードの中から「ごめんだヌー」という声が聞こえてきたからである。
すっとアキは右手を挙げ、
「すみません。ちょっと歌ったら、こうなっちゃいました」
アキ自身が魔術を使って起こしたことであると、教師に伝えた。
「アキが? めずらしいな。まあ、いい。試してみたくなるときはあるから」
教師はアキを叱咤することなく、両手を宙へかざすと、口早に詩を歌い、
「ロプカー! ――止まれ!」
そう命じると同時に、宙を舞っていた用紙がすべて、デスクの上に、あるいは床にひらりと落ちた。
「今度は魔術実践の授業中に歌うんだぞ」
「はい……」
軽い注意を受けたアキは、声量小さく答えたのであった。
以降の授業はとどこおりなく進み、そして、終わりのときを迎えた。
教室から急いで出たアキは、ノートパソコンを廊下の棚にしまい込んだ。
「アキ! これから学年別対抗戦サッカー観に行くだろ?」
同じ授業を取っていた男子学生がアキに声をかけた。
「なんか、今日のアキ、いつもと違って心配だし、サッカーでも観てスカッとしようぜ!」
友人たちなりに、アキを気遣っての誘いでもあった。
「悪い。今日はもう帰るよ」
アキはそう言いながら、友人たちに手をふると、そそくさとその場を後にした。
三階にある自身のロッカーへ着いたアキは、中からコートを取り出して羽織り、リュックを背負うと、急ぎ足で下校した。
不幸中の幸いかな、今日の四時限目以降、道を挟んで向かいにあるオリンピック競技場の芝生のコート場で、学年別のサッカー試合が行われることになっていた。
生徒の大半は四限目の授業そっちのけでサッカー観戦に向かった。
教師たちもそれを良しとしているので問題はなかった。むしろ、教師たちも楽しみにしていたくらいであった。
サッカーが始まっているコートを横目に、アキは早足で自宅に向かった。
一五分後。
自宅の私室に着いたアキはコートを脱ぎ、ベッドに置くと、フードの中からヌーッティを取り出した。
デスクの上に置かれたヌーッティは目が泳いでいた。
これから、ヌーッティの一年間のお菓子がかかった裁判が始まるのであった。
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