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ヌーッティ、学校に行く!

3.ヌーッティ、はく製になる?

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 ヌーッティは鼻をすんすんとした。
「ごはんのおいしそうな匂いはしないヌー。まだ、準備中なんだヌー」
 食べ物のことに関しては鋭いヌーッティの直感は当たっていた。
 まだ、朝の九時。
 地下一階の食堂では、今まさに作っている最中であった。
「学校って広いヌー! ところで、ここはどこだヌー? 何があるヌー?」
 ヌーッティは廊下を走って、適当な教室まで来ると、ドアをよじ登って、ドアの窓ガラスから中をのぞき込んだ。
 そこでは、数名の生徒たちが、三角フラスコを使って、液体を入れたりしていた。
 ヌーッティは目を輝かせて見入っていた。
 あるテーブルのフラスコの中の液体が、無色透明から赤色に変わった。
「あれはどういう仕組だヌー? あれでお菓子は作れないヌー?」
 考えの中核がお菓子のヌーッティは、安定の反応を示した。
 ヌーッティが逡巡していたまさにそのとき、生徒のひとりと目が合った。
「くま?!」
 教室にいる女子生徒のひとりが大きな声を上げた。
 一斉に教室にいる生徒たちの目が、彼女の視線の先に向けられた。
 だが、そこには何もなかった。
 ヌーッティが急いでドアを下りて、廊下を走り出したからであった。
 間一髪、ヌーッティは姿を見られることなく立ち去れた。
「次はいちばん上の階まで行ってみるヌー!」
 ヌーッティは建物の端にある階段までやってくると、一段一段、階段を登り始めた。
 このくらいの階段であれば、トゥーリならなんの苦もなく、スタスタと登れる。
 けれども、ヌーッティは違った。
 おなかの出た幼児体型に、やや短めの足。
 そして、残念ながら、何より、身体能力には秀でてなかった。
 ヌーッティが四階へ到着したのは、ちょうど一限目が終わった頃であった。
 教室からざわめきの音が聞こえてきた。
「まずいヌー! 授業がもう終わちゃったヌー! 見つかっちゃうヌー!」
 右往左往するヌーッティの視界に、はく製が並べて展示されている、ガラス製のショーケースが映った。
「あれだヌー!」
 ヌーッティは全速力で廊下を駆けると、観音開きのガラスのショーケースを開けて、はく製の隙間に入り込んだ。
 そうして、片手を上に挙げ、もう片方の手を腰に当てたポーズをとって、はく製に紛れ込んだ。
 どうやら、はく製のフリをする算段のようである。
 同時に、各教室のドアが開き、中から生徒たちがわっと出てきた。
 あっという間に、廊下は生徒たちでごった返した。
 はく製が置かれているショーケースの前を何十人もの生徒が往来する。
 授業間の小休憩は十分間である。
 その間に生徒たちは、各々、自身の次の授業が行われる教室へ向かう。
 ヌーッティは体をぷるぷるさせながら、十分間動かないではく製のフリをし続けた。
 そして、再び生徒が教室へ入り切ると、廊下はがらんと静まり返った。
 聞こえてくるのは、教室からもれる生徒たちと先生たちの楽しそうな声だけであった。
 ヌーッティはきょろきょろと周囲を見回した。
 周囲の安全を確認し終えたヌーッティは、はく製のフリをやめて、脱力した。
「危なかったヌー。アキのところに行って、アキの授業参観をするヌー!」
 そのときであった。
 ヌーッティの研ぎ澄まされた嗅覚に、美味しそうな匂いが、わずかにかすめた。
「これは! とってもおいしそうなごはんの匂いだヌー!」
 ショーケースの扉を閉めることなく、廊下に下り立ったヌーッティは、匂いが漂ってくる方へと歩みを進めた。
 その匂いは、階下からやって来ていた。
 ヌーッティは再び階段を使って、地下の方へと走っていった。
 他方、アキはというと、一限目と同じ階にある別の教室で、経済学をスウェーデン語で学んでいた。
 だが、当然、授業間の休憩時間を使ってヌーッティを探せる範囲で探したが見つけられなかった。
 不安な表情をたたえたまま、アキは二限目の授業にも臨んでいた。
 二限目が終われば、次はお昼休みである。
 アキはこのお昼休みを利用し、ヌーッティの捜索を全力で取りかかることにした。
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