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ヌーッティ、学校に行く!
2.アキの心労
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アキは学校へ着くと、廊下にある自身のロッカーにコートを丸めて放り込んだ。
廊下の棚で充電中のノートパソコンを持つと、一限目のフィンランド文学の授業が行われる三階の教室へ向かった。
教室に一番乗りで入ったアキは、最前列の席を陣取ると、リュックのファスナーを開けた。
そして、目が合った。
いるはずもないと思われていた、ヌーッティと目が合ったのである。
「ついて来たヌー!」
アキは思わずファスナーを閉めた。
それから、深呼吸をして、再びファスナーを開けた。
またしても、ヌーッティと目が合った。
「どうして閉めちゃったヌー?」
すっとんきょうなヌーッティの声を聞いたアキは慌てた様子で立ち上がり、リュックを抱えて廊下へ出た。
隅の、ひと気の少ない階段へ行ったアキは、リュックの中に手を突っ込んでヌーッティをつかみ取った。
「どうして入ってるんだよ!」
アキは、声量は抑えめに、けれどもはっきりと疑問を口にした。
「学校に来たいからついて来たヌー! ヌーがお勉強のお手伝いもしてあげるヌー!」
「トゥーリと留守番するように言っただろ?!」
ヌーッティはやれやれといった表情を浮かべた。
「お留守番なら、トゥーリひとりで大丈夫だヌー」
どこもかしこも大丈夫じゃないといった表情をアキは顔に浮かべた。
「まずい。授業がもう始まるし……。仕方ない。ヌーッティ。いいか? 絶対に授業中はリュックから出ないこと。約束できるなら、今日一日、一緒に学校にいてもいい」
「やだヌー。ヌーは学校を探検するヌー! おいしいごはんも探すヌー!」
そう言うが早いか、ヌーッティはアキの手を振り払い、廊下を駆け出した。
不幸中の幸いか、授業開始まであとわずかで、廊下にいる生徒は少なかった。
それゆえ、ヌーッティは人目に止まることなく、すったかたーと駆けて行ってしまった。
アキは何もできなかった。
青ざめた表情で教室に再び入ったアキを見た同級生たちは、アキに声をかけた。
「どうしたの? 体調でも悪いの?」
「課題がまだ終わってねーんじゃねぇの?」
だが、アキの耳にはまったく届かなかった。
それもそうだ。あのヌーッティが「学校探検」の名目でいなくなってしまったからだ。
何かが起きそう――そんな不安を抱えた面持ちのアキは、静かに席に着いた。
それから、まもなくして、フィンランド文学の担当の先生が入ってきて、授業が始まった。
提出用の課題を終わらせていたアキは、先生がスライドショーで示した三つのトピックスのうちひとつを選び、小論文を書き始めた。
けれども、普段のように書けるわけもなかった。
授業中、アキは心ここにあらずといった様子であった。
一方、ヌーッティはというと、一階まで階段を下りて、玄関ホールに来ていた。
「さあ、学校探検の時間だヌー!」
アキの心労を気にかけるでもなく、意気揚々とこぶしを振り上げた。
ヌーッティの楽しみな時間が始まるのであった。
廊下の棚で充電中のノートパソコンを持つと、一限目のフィンランド文学の授業が行われる三階の教室へ向かった。
教室に一番乗りで入ったアキは、最前列の席を陣取ると、リュックのファスナーを開けた。
そして、目が合った。
いるはずもないと思われていた、ヌーッティと目が合ったのである。
「ついて来たヌー!」
アキは思わずファスナーを閉めた。
それから、深呼吸をして、再びファスナーを開けた。
またしても、ヌーッティと目が合った。
「どうして閉めちゃったヌー?」
すっとんきょうなヌーッティの声を聞いたアキは慌てた様子で立ち上がり、リュックを抱えて廊下へ出た。
隅の、ひと気の少ない階段へ行ったアキは、リュックの中に手を突っ込んでヌーッティをつかみ取った。
「どうして入ってるんだよ!」
アキは、声量は抑えめに、けれどもはっきりと疑問を口にした。
「学校に来たいからついて来たヌー! ヌーがお勉強のお手伝いもしてあげるヌー!」
「トゥーリと留守番するように言っただろ?!」
ヌーッティはやれやれといった表情を浮かべた。
「お留守番なら、トゥーリひとりで大丈夫だヌー」
どこもかしこも大丈夫じゃないといった表情をアキは顔に浮かべた。
「まずい。授業がもう始まるし……。仕方ない。ヌーッティ。いいか? 絶対に授業中はリュックから出ないこと。約束できるなら、今日一日、一緒に学校にいてもいい」
「やだヌー。ヌーは学校を探検するヌー! おいしいごはんも探すヌー!」
そう言うが早いか、ヌーッティはアキの手を振り払い、廊下を駆け出した。
不幸中の幸いか、授業開始まであとわずかで、廊下にいる生徒は少なかった。
それゆえ、ヌーッティは人目に止まることなく、すったかたーと駆けて行ってしまった。
アキは何もできなかった。
青ざめた表情で教室に再び入ったアキを見た同級生たちは、アキに声をかけた。
「どうしたの? 体調でも悪いの?」
「課題がまだ終わってねーんじゃねぇの?」
だが、アキの耳にはまったく届かなかった。
それもそうだ。あのヌーッティが「学校探検」の名目でいなくなってしまったからだ。
何かが起きそう――そんな不安を抱えた面持ちのアキは、静かに席に着いた。
それから、まもなくして、フィンランド文学の担当の先生が入ってきて、授業が始まった。
提出用の課題を終わらせていたアキは、先生がスライドショーで示した三つのトピックスのうちひとつを選び、小論文を書き始めた。
けれども、普段のように書けるわけもなかった。
授業中、アキは心ここにあらずといった様子であった。
一方、ヌーッティはというと、一階まで階段を下りて、玄関ホールに来ていた。
「さあ、学校探検の時間だヌー!」
アキの心労を気にかけるでもなく、意気揚々とこぶしを振り上げた。
ヌーッティの楽しみな時間が始まるのであった。
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