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鍛えろ、必殺技!
3.ヌーッティの約束
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ついに犠牲者が出てしまった。
最初の犠牲者はアレクシであった。
アレクシは床の上で気絶しているところを、アキによって救護された。
トゥーリはくまのぬいぐるみ相手に一生懸命練習に励み、ヌーッティは勉強机の上で恐怖に打ちのめされていた。
だが、恐怖に耐えながらもヌーッティは考えていた。いかに犠牲者とならずに済むかと。
ヌーッティはアキによって運ばれてきた気絶しているアレクシを見やった。
背筋が凍ったような感覚をヌーッティは覚えた。
「アキ! アキ! どうすればいいヌー?! このままじゃ、ヌーもアレクシみたいになっちゃうヌー!」
ワーキングチェアに再び腰掛けたアキはヌーッティを見据えた。
「ヌーッティが良い子でいるってアピールすればいいんじゃないのかな?」
アキの言葉を聞いたヌーッティは何かが閃きかけた。
「……たぶん、それでも無理だろうけど」
ぽそりとアキは付け足した。
「なにか言ったヌー?」
焦っているヌーッティには、はっきりと聞こえなかったらしい。
ヌーッティは、どうすれば自分自身が良い子であるかをトゥーリに訴えられるのかと考えた。
そのときであった。
「練習終わり!」
ヌーッティにとって悲劇を告げるトゥーリの言葉が部屋中に響いた。
トゥーリはぬいぐるみを片付けると、ヌーッティのいる机の上にやって来た。
「準備はいい?」
ヌーッティにトゥーリは問いかけた。
――準備もなにも、いいわけがないヌー!
ヌーッティは心の中で叫んだ。
焦るヌーッティに、一歩近づくトゥーリ。
考えた。考えに考え抜いたヌーッティの結論はこのようなものであった。
「ヌーはこれからぜーーーったいにお菓子のつまみ食いをしないヌー!」
「ヌーッティの絶対は絶対じゃないでしょ?」
正論であった。
トゥーリが一歩またヌーッティに歩み寄った。
ヌーッティは後ろに一歩下がった。
「ほ、本当だヌー! だから、技をかけちゃだめだヌー!」
トゥーリは黙った。
しばし沈黙が流れた。
「わかった。だったら宣誓書を書いて。約束を守るんだったら技はかけない。けど……」
「守るヌー! ヌーは良い子だヌー! アキ! せんせーしょの書き方を教えてほしいヌー!」
アキは紙とペンを取り出した。そのとき、あることに気づいた。
「アキ。宣誓書に『ヌーッティが約束を守らなかったときは厳罰に処す』って書いて」
アキはトゥーリの言われるがままに宣誓書を書いた。
内容はこのようなものであった。
――宣誓書
私ヌーッティは、トゥーリとの約束である『盗み食いを一切しないこと』を守り、善良な小熊の妖精となることを誓います。
もし、約束を守らなかった場合はトゥーリによって処罰されることに異議を申し立てず、また、1ヶ月間お菓子を一切食べないことを誓います。
最後には宣誓書が書かれた日付とヌーッティ直筆の名前が記された。
「アキ。この宣誓書を持ってて」
「わかった」
アキは宣誓書を半分に折ると、封筒に入れ、机の引き出しの中にそっとしまい込んだ。
トゥーリは安堵しているヌーッティを見てにやりと笑みを浮かべた。
アキはそれを見逃さなかった。
事態は収束したかのように思われた。
しかし、アキは不敵な笑みを浮かべるトゥーリを見て、今回の問題が解決したとは思えなかったのであった。
最初の犠牲者はアレクシであった。
アレクシは床の上で気絶しているところを、アキによって救護された。
トゥーリはくまのぬいぐるみ相手に一生懸命練習に励み、ヌーッティは勉強机の上で恐怖に打ちのめされていた。
だが、恐怖に耐えながらもヌーッティは考えていた。いかに犠牲者とならずに済むかと。
ヌーッティはアキによって運ばれてきた気絶しているアレクシを見やった。
背筋が凍ったような感覚をヌーッティは覚えた。
「アキ! アキ! どうすればいいヌー?! このままじゃ、ヌーもアレクシみたいになっちゃうヌー!」
ワーキングチェアに再び腰掛けたアキはヌーッティを見据えた。
「ヌーッティが良い子でいるってアピールすればいいんじゃないのかな?」
アキの言葉を聞いたヌーッティは何かが閃きかけた。
「……たぶん、それでも無理だろうけど」
ぽそりとアキは付け足した。
「なにか言ったヌー?」
焦っているヌーッティには、はっきりと聞こえなかったらしい。
ヌーッティは、どうすれば自分自身が良い子であるかをトゥーリに訴えられるのかと考えた。
そのときであった。
「練習終わり!」
ヌーッティにとって悲劇を告げるトゥーリの言葉が部屋中に響いた。
トゥーリはぬいぐるみを片付けると、ヌーッティのいる机の上にやって来た。
「準備はいい?」
ヌーッティにトゥーリは問いかけた。
――準備もなにも、いいわけがないヌー!
ヌーッティは心の中で叫んだ。
焦るヌーッティに、一歩近づくトゥーリ。
考えた。考えに考え抜いたヌーッティの結論はこのようなものであった。
「ヌーはこれからぜーーーったいにお菓子のつまみ食いをしないヌー!」
「ヌーッティの絶対は絶対じゃないでしょ?」
正論であった。
トゥーリが一歩またヌーッティに歩み寄った。
ヌーッティは後ろに一歩下がった。
「ほ、本当だヌー! だから、技をかけちゃだめだヌー!」
トゥーリは黙った。
しばし沈黙が流れた。
「わかった。だったら宣誓書を書いて。約束を守るんだったら技はかけない。けど……」
「守るヌー! ヌーは良い子だヌー! アキ! せんせーしょの書き方を教えてほしいヌー!」
アキは紙とペンを取り出した。そのとき、あることに気づいた。
「アキ。宣誓書に『ヌーッティが約束を守らなかったときは厳罰に処す』って書いて」
アキはトゥーリの言われるがままに宣誓書を書いた。
内容はこのようなものであった。
――宣誓書
私ヌーッティは、トゥーリとの約束である『盗み食いを一切しないこと』を守り、善良な小熊の妖精となることを誓います。
もし、約束を守らなかった場合はトゥーリによって処罰されることに異議を申し立てず、また、1ヶ月間お菓子を一切食べないことを誓います。
最後には宣誓書が書かれた日付とヌーッティ直筆の名前が記された。
「アキ。この宣誓書を持ってて」
「わかった」
アキは宣誓書を半分に折ると、封筒に入れ、机の引き出しの中にそっとしまい込んだ。
トゥーリは安堵しているヌーッティを見てにやりと笑みを浮かべた。
アキはそれを見逃さなかった。
事態は収束したかのように思われた。
しかし、アキは不敵な笑みを浮かべるトゥーリを見て、今回の問題が解決したとは思えなかったのであった。
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