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鍛えろ、必殺技!
1.トゥーリとアキの問答
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トゥーリとアキは真剣な面持ちで向き合って座っていた。
アキの部屋にある木製の勉強机の上にトゥーリはあぐらをかいていた。
対して、アキはデスク前のワーキングチェアに腕を組んでいた。
「どうしてもなのか?」
眉間にしわを寄せながらアキは目の前のトゥーリに尋ねた。
「どうしてもなの」
トゥーリはきっぱりと答えた。
アキは深くため息をつくと、
「理由をもう一度訊いてもいいか?」
困惑した表情を浮かべてトゥーリに問うた。
「大切な友だちを守りたいの。ただそれだけなの」
真っ直ぐな瞳をアキへ向けて、トゥーリは返答した。
「トゥーリの気持ちはわかったよ。けど、どうしてもそれじゃなきゃだめなのか?」
「うん! 私、ソバットをもっと上手くできるようになりたいの!」
はっきりとトゥーリは言い放った。
同時にアキは再びため息をついた。
ソバットとは、プロレスで用いられる蹴り技の一種である。
「そもそも、どうして、ソバットなんて言葉を知ってるんだ……あ、そっか。また動画を観て知ったんだな」
アキの予想は的中であった。それというのも、トゥーリは常日頃からプロレスや格闘技の動画を好んで視聴している。そんなトゥーリが「ソバット」という単語を知らないわけがない。
「この前観た動画の後ろ蹴りがとっても華麗で、私もあんなふうにできたらって思ったの」
「それで、その技を鍛えてどうするつもりなんだよ?」
アキはひとつの懸念を抱いていた。
「友だちや困ってるひとを助けるの」
「例えば?」
「ビスケットを盗み食いしているヌーッティからアキを助けるの」
アキの予感は的中。トゥーリの想定している技をかける相手はヌーッティであった。
「なあ、そのヌーッティはあっちのすみっこで、さっきから怯えながらおれたちの話を聞いているんだが?」
アキは後方の本棚の背後を指さした。
その指の指し示す方向に、体を震わせながら、青白い顔で、トゥーリとアキを見ているヌーッティがいた。
トゥーリはヌーッティに目を向けた。すると、ふたりの目が合った。
ヌーッティはアキに懇願の視線を送った。助けてくれ――そう瞳で訴えていた。
しかし、トゥーリは再びアキを見つめると、
「ヌーッティが悪いことをしなければ問題ないでしょ? それに、他にもいるじゃない」
「他にも?」
「ブルーベリーの盗み食いの常習犯のアレクシ」
生け贄はこれでふたりとなった。
「なあ、トゥーリ。ビスケットやブルーベリーの盗み食いってだけで、危険な技をかけるのはどうかと思うんだが」
トゥーリは不可解な面持ちになった。
「毎日ビスケットをカートンボックスで5箱以上食べてるんだよ? ヌーッティは。アレクシだって冷凍庫にプラのコンテナで保存してあるブルーベリーを1週間に1箱のペースで食べてるんだよ?」
「え? ちょっと待って。そんなに?」
アキの疑問にトゥーリは首肯で答えた。
数秒の沈黙が流れた。やがて、アキの口が開くと、
「許可する」
「だめだヌーっ!」
「やったー!」
ヌーッティが悲鳴を上げ、トゥーリは歓喜に踊った。
こうして、トゥーリの必殺技の練習が解禁されたのであった。
アキの部屋にある木製の勉強机の上にトゥーリはあぐらをかいていた。
対して、アキはデスク前のワーキングチェアに腕を組んでいた。
「どうしてもなのか?」
眉間にしわを寄せながらアキは目の前のトゥーリに尋ねた。
「どうしてもなの」
トゥーリはきっぱりと答えた。
アキは深くため息をつくと、
「理由をもう一度訊いてもいいか?」
困惑した表情を浮かべてトゥーリに問うた。
「大切な友だちを守りたいの。ただそれだけなの」
真っ直ぐな瞳をアキへ向けて、トゥーリは返答した。
「トゥーリの気持ちはわかったよ。けど、どうしてもそれじゃなきゃだめなのか?」
「うん! 私、ソバットをもっと上手くできるようになりたいの!」
はっきりとトゥーリは言い放った。
同時にアキは再びため息をついた。
ソバットとは、プロレスで用いられる蹴り技の一種である。
「そもそも、どうして、ソバットなんて言葉を知ってるんだ……あ、そっか。また動画を観て知ったんだな」
アキの予想は的中であった。それというのも、トゥーリは常日頃からプロレスや格闘技の動画を好んで視聴している。そんなトゥーリが「ソバット」という単語を知らないわけがない。
「この前観た動画の後ろ蹴りがとっても華麗で、私もあんなふうにできたらって思ったの」
「それで、その技を鍛えてどうするつもりなんだよ?」
アキはひとつの懸念を抱いていた。
「友だちや困ってるひとを助けるの」
「例えば?」
「ビスケットを盗み食いしているヌーッティからアキを助けるの」
アキの予感は的中。トゥーリの想定している技をかける相手はヌーッティであった。
「なあ、そのヌーッティはあっちのすみっこで、さっきから怯えながらおれたちの話を聞いているんだが?」
アキは後方の本棚の背後を指さした。
その指の指し示す方向に、体を震わせながら、青白い顔で、トゥーリとアキを見ているヌーッティがいた。
トゥーリはヌーッティに目を向けた。すると、ふたりの目が合った。
ヌーッティはアキに懇願の視線を送った。助けてくれ――そう瞳で訴えていた。
しかし、トゥーリは再びアキを見つめると、
「ヌーッティが悪いことをしなければ問題ないでしょ? それに、他にもいるじゃない」
「他にも?」
「ブルーベリーの盗み食いの常習犯のアレクシ」
生け贄はこれでふたりとなった。
「なあ、トゥーリ。ビスケットやブルーベリーの盗み食いってだけで、危険な技をかけるのはどうかと思うんだが」
トゥーリは不可解な面持ちになった。
「毎日ビスケットをカートンボックスで5箱以上食べてるんだよ? ヌーッティは。アレクシだって冷凍庫にプラのコンテナで保存してあるブルーベリーを1週間に1箱のペースで食べてるんだよ?」
「え? ちょっと待って。そんなに?」
アキの疑問にトゥーリは首肯で答えた。
数秒の沈黙が流れた。やがて、アキの口が開くと、
「許可する」
「だめだヌーっ!」
「やったー!」
ヌーッティが悲鳴を上げ、トゥーリは歓喜に踊った。
こうして、トゥーリの必殺技の練習が解禁されたのであった。
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