上 下
99 / 155
可愛いは誰の手に?

5.可愛いは誰の手に?

しおりを挟む
 深く頷きながらオッツォはアキとトゥーリから、これまでのいきさつを聞いた。
「なるほどね。まったく、困ったものだ」
 オッツォはふうっとため息をこぼした。
「オッツォ! せーのって言うから可愛いほうを指さして!」
 キルシに言い寄られてオッツォはこくりと首を縦に振った。
「これで、ヌーが可愛いって証明されちゃうヌー!」
「これで、わたしが可愛いって知らしめられるわ!」
 ヌーッティとキルシは同時に呟くと、互いに顔を見合わせ、ぷいっと逸らした。
「それじゃあ、準備はいい?」
 キルシがオッツォに尋ねた。
「いつでもどうぞ」
 オッツォは言って先を促した。
「それじゃあ……せーの!」
 すっとオッツォの手が動いた。
 そして、ある一点を指し示した。
「私?」
 オッツォの指の先にはトゥーリがいたのであった。
「なんでー⁈」
 非難の声がキルシとヌーッティから上がったのは言わずもがなである。
「これで、アキの1票と僕の1票が入って2票を獲得したトゥーリの勝ちだね」
 オッツォがその場を上手くまとめようとした矢先であった。
「無効よ! 無効! 再投票をするわ!」
「だめヌー! 解せヌー! もう一回!」
 キルシとヌーッティが二人同時に地団駄を踏み、駄々をこね始めた。
「まったく。仲良くしないなら二人まとめて森でお勉強会だね」
「嫌ですわ! 森にはまだ帰りませんわ!」
 そう言ったキルシを、オッツォはひょいっとつまんで右の小脇に抱えた。
「巻き添えだヌー! 行かないヌー!」
 両手足をばたつかせているヌーッティを、オッツォは軽々持ち上げ、左の小脇に抱えた。
「この二人をしばらく預かるね。1週間後にヌーッティを送り届けるよ」
 そう言い置くと、オッツォはアキの部屋を後にした。
「いいの?」
 トゥーリが顔を上げてアキを見つめて尋ねた。
「まあ、オッツォなら大丈夫なんじゃないかな? お茶にしよっか」
「そうだね」
 こうして、キルシとヌーッティの可愛いを巡る勝負は、トゥーリの勝ちで幕を閉じたのであった。
 そして、1週間後。
 ヌーッティはアキとトゥーリのもとへ戻ってきた。
「オッツォが言ってたの本当かな?」
 物静かなヌーッティを見ながらアキがトゥーリに尋ねた。
「ヌーッティが算数をできるようになったってこと?」
 トゥーリの言葉にアキは頷いた。
「試してみよう」
 そう言ってトゥーリはアキの肩からデスクに降り、ヌーッティの真正面に座った。
「ヌーッティ。これから問題を2つ出すから答えてね」
「わかったヌー」
「12枚入りのビスケットの箱が1つありました。その中からアキが8枚のビスケットを食べ、私は2枚持っていたうちの1枚を箱に戻しました。箱の中には何枚のビスケットが入っているでしょうか?」
「3枚だヌー」
 即答したヌーッティを見てアキは驚いた。
「本当に計算ができるようになってる!」
 拍手喝采のアキとは対照的にトゥーリは落ち着き払っていた。
「2つ目の問題。ベッドの上に3冊本があります。机の上には5冊の本があります。ベッドと机の上の本は合わせて何冊あるでしょうか?」
 ヌーッティは眉間にシワを寄せた。
 しばしの間があった。
 やがてヌーッティが開口した。
「たぶん1冊だヌー」
「なんで減ってんの⁈」
 ヌーッティの解答にアキは即座に突っ込みを入れた。
「ヌーはお菓子以外興味ないヌー」
 ドヤ顔で答えたヌーッティに、アキは閉口せざるを得なかった。
 少しだけ——お菓子のことだけ計算ができるようになったヌーッティであった。
 だが、2日後。
 おやつを分けているときのこと。
「トゥーリ! ずるいヌー! ヌーは2枚しか食べてないのに、トゥーリは2枚もビスケットを食べてるヌー!」
 ヌーッティは独自の計算理論に立ち戻っていたのであった。
しおりを挟む

処理中です...